日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS08] 地震活動とその物理

2024年5月26日(日) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:千葉 慶太(公益財団法人 地震予知総合研究振興会)、山下 裕亮(京都大学防災研究所地震災害研究センター宮崎観測所)

17:15 〜 18:45

[SSS08-P05] MeSO-netに基づく東北地方太平洋沖地震発生直後の余震活動の検出

*今寺 琢朗1加藤 愛太郎1酒井 慎一1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:東北地方太平洋沖地震、マッチドフィルタ法

2011年東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)の発生直後には、主に岩手県沖から茨城県沖にかけての広い範囲において非常に活発な余震活動が観測された。活発な余震活動中には、同時多発的に複数の地震が発生し波動場が重なりあうことで、中小規模の地震の検出が妨げられ、既存の地震カタログから欠落しているイベントが数多くあると考えられる。そこで、複数のイベントの波動場が重なり合っている場合でも、それぞれのイベントを分離・検出できる利点を有するMatched Filter Methodを用いることで、東北地方太平洋沖地震発生直後の余震活動の全貌を明らかにすることを試みた。このMatched Filter Methodは、既知のイベントの波形記録と類似したイベントを連続波形記録から見つけ出す手法であり、既知のイベントについて観測された波形記録をテンプレート波形として連続波形記録との相関を計算し、その相関係数が設定した閾値を超えた時間窓を新たなイベントとみなすものである。
東北地方太平洋沖地震の余震活動に対してMatched Filter Methodを適用した先行研究であるLengliné et al. (2012)では、東北地方及び関東地方のHi-netの波形記録を用いたものの、停電の影響によってデータの欠測が生じるHi-net観測点数が本震からの時間経過とともに増加したことから、本震発生後の約12時間しか解析が実施されていない。そこで、本研究では余震域から比較的近い関東地方に設置され、停電の影響をほとんど受けずかつ高密度な観測網であるMeSO-netの連続波形記録を用いてMatched Filter Methodを適用した。その結果、マグニチュード4.5以上の地震において、気象庁カタログの約2.6倍のイベントを検出し、Completeness magnitudeは0.5程度改善された。
新たに構築した地震カタログを用いて余震活動の時空間発展を分析した結果、既存カタログと比べて余震域の南端の拡大が明瞭に見られ、余震域の拡大は太平洋プレートとフィリピン海プレートの接触域まで到達していたことが分かった。余震域の拡大様式は本震発生後の経過時間の対数に従い、太平洋プレート上面のアフタースリップの伝播によって駆動されたと考えられる。2つのプレートの接触域に伝播したアフタースリップによって、太平洋プレートの上部にあるフィリピン海プレートが引きずり込まれ、フィリピン海プレート上面で応力載荷速度が一時的に増加したことで、房総半島沖のスロースリップイベントの発生の促進に寄与した可能性が挙げられる。
岩手県の沖合においても陸側から海溝軸側へ向かう余震域の拡大が見られ、余震域の拡大は海溝軸付近まで到達し、その後、海溝軸外側において遅れて地震活動が活発化する様子が見られた。また、岩手県沖やその北部では、1968年十勝沖地震や1994年三陸はるか沖地震において、動的な破壊がプレート境界浅部で開始し、その後陸側へ伝播した後に大きなすべりを引き起こしたことが知られている。これら2つの大地震の破壊過程や本研究で見られた余震域の拡大様式から、この領域ではプレート境界の沈み込み方向にすべりが伝播しやすい特徴があると考えられる。