日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS08] 地震活動とその物理

2024年5月26日(日) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:千葉 慶太(公益財団法人 地震予知総合研究振興会)、山下 裕亮(京都大学防災研究所地震災害研究センター宮崎観測所)

17:15 〜 18:45

[SSS08-P12] せん断歪エネルギー変化からみた熊本地震の前震、本震、余震活動

*上野 友岳1齊藤 竜彦1 (1.国立研究開発法人 防災科学技術研究所)

キーワード:せん断歪エネルギー変化、2016年熊本地震

2016年4月に発生した熊本地震は4月14日にMW6.1の前震が発生し,2日後の4月16日にMW7.1の本震が発生した.本研究では,この一連の地震活動を定量化するために地震活動が解放した地殻内のせん断歪エネルギーを評価した.
地震発生によるリソスフェアのせん断歪エネルギーの変化量を見積もるためには,断層運動に加えて背景応力場の情報が必要である。本研究では,地殻内の背景応力場を応力テンソルインバージョン解析で得られている応力の主軸方向と応力比を参考に設定し,差応力を100 MPaと仮定した.また,熊本地震の前震,本震の断層として,地殻変動データから推定した一様すべりの矩形断層(国土地理院, 2016)を用いた.前震の余震(24イベント)や本震の余震(240イベント)は,F-netモーメントテンソル解をもとに本震断層と走向の近い面を断層と仮定した.
2016年熊本地震によって生じたリソスフェアのせん断歪エネルギー変化は,前震で~-2.62×1015 J,前震の余震は~-3.03×1015 J,本震は~-26.4×1015 J,そして,余震は~-2.43×1015 Jとなった.これらの結果は,リソスフェアからせん断歪エネルギーが解放されたこと,つまり,せん断歪エネルギーを使って地震が駆動したことを示している.また,せん断歪エネルギー変化量について,前震とその余震の比率は約110 %になり,本震と余震では約10 %となり,余震の解放するせん断歪エネルギーに明らかな違いが見られた.また,本研究で用いた断層の地震モーメントも比較した.熊本地震の前震の地震モーメントは~2.48×1018 Nm,前震の余震の総地震モーメントは~1.29×1018 Nm,本震の地震モーメントは~45.4×1018 Nm,余震の総地震モーメントは~1.69×1018 Nmとなった.前震と本震に対するそれぞれの余震が占める地震モーメントの総和の割合は約52 %と約4 %程度となった.前震に対して余震の占める割合が本震のそれに比べて明らかに大きいという傾向は同じであるが,せん断歪エネルギー変化量の割合と比較して余震の占める割合が異なる.これは地震活動に伴うエネルギー収支を地震モーメントを使って評価することが難しいことを示唆している.さらに,本震のせん断歪エネルギー変化の空間分布と余震活動を比較すると,せん断歪エネルギーが増加した領域で多数の余震が発生しており,先行研究のNoda et al. (2020)と調和的であった.この結果は,本震によってせん断歪エネルギー変化の増加域になった領域が余震で減少域になることを期待させる.しかしながら,本震と余震によるせん断歪エネルギー変化の空間分布を比較すると,本震によってせん断歪エネルギーが増加した領域は必ずしも余震活動によって減少する(解消される)ことはなく,むしろ促進するかのように増加している領域の方が多かった.前震とその余震のせん断歪エネルギー変化の空間分布でも同様な結果が得られた.これらの結果は,地震数や地震モーメントの総和は地震活動による地殻のエネルギー解放量を正しく反映できない場合があることを示唆している.地震による地殻内のエネルギー収支を議論するには,せん断歪エネルギー変化の推定が重要となる.