10:00 〜 10:15
[SSS10-15] 動的震源インバージョン手法の構築―観測強震動と動的震源パラメータの関係解明に向けて―

キーワード:動的震源インバージョン、強震動、動的パラメータ
大規模な地震に対して,運動学的震源インバージョンなどの手法を用いて震源断層モデルが推定されてきた.平成28年熊本地震は,一連の活動の中で震度7を二度観測(MJMA 6.5 のおよそ28時間後に MJMA 7.3 が発生)するなど大きな被害をもたらした.以下,前者 (MJMA 6.5) を最大前震,後者 (MJMA 7.3) を本震と呼ぶ.特に本震に対しては多くの研究がなされ,Tsuda (2021) や Kaneko and Goto (2022) は,動的破壊シミュレーションを用いて断層近傍の観測記録を再現する動力学的震源モデルを推定した.本研究では,断層近傍に加えてより広範囲(例えば,震央距離が断層長を超える観測点)での観測記録を再現する動力学的震源モデルを推定するため,Gallovič et al. (2019) による提案手法を参考に,動的震源インバージョン手法を構築する.
本手法は主に動力学的震源モデルの更新とそれに基づく波形合成から成り,波形合成は Gallovič et al. (2019) と同様に,動的破壊シミュレーションにより得られるすべり時間関数とグリーン関数とのたたみ込みから求める手法を採用した.これには,計算負荷を軽減できることに加えて,震源断層と観測点間の詳細な地下構造を反映させた波形を合成できる利点がある.本手法は具体的には以下に示す5つの過程に分割される.手順(3)~(5)を繰り返すことで動力学的震源モデルを推定する.(1)既知の震源パラメータとして,破壊開始点の位置(緯度・経度・深さ),断層のサイズ(長さ・幅)と走向および傾斜,垂直応力分布,動摩擦係数の空間分布を設定する.次に,インバージョンにより推定するパラメータである,初期せん断応力とピーク摩擦係数,臨界すべり量の空間分布を設定する(初期モデル).(2)初期モデルを用いて動的破壊シミュレーションを行う.得られたすべり時間関数と事前に計算しておいたグリーン関数とのたたみ込みを計算して各観測点での速度波形を合成する.(3)マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC法)により,初期モデルにおける動的パラメータの値を変化させる(提案モデル).(4)初期モデルの場合と同様にして,提案モデルを用いて各観測点での速度波形を合成する.(5)初期モデルおよび提案モデルから合成された波形データを用いて,Metropolis testを行い,提案モデルを新たな初期モデルとして採用するかを決定する.また,その結果に応じた新たな初期モデルによる波形データを保存しておくことで,動的計算の回数を減らすことができる.
波形合成について,動的計算には差分法によるオープンソースコード (fd3d_TSN; Premus et al., 2020) を用い,グリーン関数は離散化波数法 (Bouchon, 1981) および透過反射係数行列 (Kennett and Kerry, 1979) により計算した.また,動的破壊シミュレーションにより得られる速度波形と,すべり時間関数とグリーン関数とのたたみ込みにより得られる速度波形とを比較して,本手法で採用した手法により正しく波形が合成されることを確認した.
現在は,最大前震を想定した仮想的な震源モデルを設定し,震源断層を囲うように選定した観測点での合成波形をデータとして,本インバージョン手法を適用し,性能評価を進めている.最大前震について,Asano and Iwata (2016) は直後の余震分布と F-net のメカニズム解から,ほぼ鉛直に傾斜した1枚の矩形断層を仮定した.そこで,ここではメカニズム解も考慮して,純粋な右横ずれを想定した断層モデルを設定した.破壊開始点の位置は Mitsuoka et al. (2020) が double-difference tomography 法により再決定した値を参考に決定した.また,「平成28年熊本地震を踏まえた総合的な活断層調査」により作成された三次元地下速度構造モデル(浅野・他,2019)と全国1次地下構造モデル (JIVSM; Koketsu et al., 2012) から各観測点直下の一次元速度構造を構成し,グリーン関数を計算した.以上の性能評価の結果を踏まえて,本手法を最大前震の実データに適用する.
本手法は主に動力学的震源モデルの更新とそれに基づく波形合成から成り,波形合成は Gallovič et al. (2019) と同様に,動的破壊シミュレーションにより得られるすべり時間関数とグリーン関数とのたたみ込みから求める手法を採用した.これには,計算負荷を軽減できることに加えて,震源断層と観測点間の詳細な地下構造を反映させた波形を合成できる利点がある.本手法は具体的には以下に示す5つの過程に分割される.手順(3)~(5)を繰り返すことで動力学的震源モデルを推定する.(1)既知の震源パラメータとして,破壊開始点の位置(緯度・経度・深さ),断層のサイズ(長さ・幅)と走向および傾斜,垂直応力分布,動摩擦係数の空間分布を設定する.次に,インバージョンにより推定するパラメータである,初期せん断応力とピーク摩擦係数,臨界すべり量の空間分布を設定する(初期モデル).(2)初期モデルを用いて動的破壊シミュレーションを行う.得られたすべり時間関数と事前に計算しておいたグリーン関数とのたたみ込みを計算して各観測点での速度波形を合成する.(3)マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC法)により,初期モデルにおける動的パラメータの値を変化させる(提案モデル).(4)初期モデルの場合と同様にして,提案モデルを用いて各観測点での速度波形を合成する.(5)初期モデルおよび提案モデルから合成された波形データを用いて,Metropolis testを行い,提案モデルを新たな初期モデルとして採用するかを決定する.また,その結果に応じた新たな初期モデルによる波形データを保存しておくことで,動的計算の回数を減らすことができる.
波形合成について,動的計算には差分法によるオープンソースコード (fd3d_TSN; Premus et al., 2020) を用い,グリーン関数は離散化波数法 (Bouchon, 1981) および透過反射係数行列 (Kennett and Kerry, 1979) により計算した.また,動的破壊シミュレーションにより得られる速度波形と,すべり時間関数とグリーン関数とのたたみ込みにより得られる速度波形とを比較して,本手法で採用した手法により正しく波形が合成されることを確認した.
現在は,最大前震を想定した仮想的な震源モデルを設定し,震源断層を囲うように選定した観測点での合成波形をデータとして,本インバージョン手法を適用し,性能評価を進めている.最大前震について,Asano and Iwata (2016) は直後の余震分布と F-net のメカニズム解から,ほぼ鉛直に傾斜した1枚の矩形断層を仮定した.そこで,ここではメカニズム解も考慮して,純粋な右横ずれを想定した断層モデルを設定した.破壊開始点の位置は Mitsuoka et al. (2020) が double-difference tomography 法により再決定した値を参考に決定した.また,「平成28年熊本地震を踏まえた総合的な活断層調査」により作成された三次元地下速度構造モデル(浅野・他,2019)と全国1次地下構造モデル (JIVSM; Koketsu et al., 2012) から各観測点直下の一次元速度構造を構成し,グリーン関数を計算した.以上の性能評価の結果を踏まえて,本手法を最大前震の実データに適用する.