日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS10] 強震動・地震災害

2024年5月28日(火) 09:00 〜 10:30 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:友澤 裕介(鹿島建設)、林田 拓己(国立研究開発法人建築研究所 国際地震工学センター)、座長:纐纈 一起(慶應義塾大学SFC研究所)、地元 孝輔(香川大学)

10:15 〜 10:30

[SSS10-16] 震源断層近傍における地震動パルスのユビキタス性

*纐纈 一起1 (1.慶應義塾大学SFC研究所)

キーワード:地震動パルス、震源断層、ユビキタス性、ディレクティビティ効果

兵庫県南部地震などで見出されてから,波形がパルス状である地震動(以下,地震動パルス)は特別な現象とされて,その成因が議論されてきた.しかし,ここでは地震動パルスが,震源断層近傍ならばあらゆる地点や成分に現れる,ユビキタスな存在であることを示す.熊本地震では震源断層近傍にある数点の観測点で地震動が得られ,変位記録の各成分はすべて平滑化された傾斜関数のような挙動を示していて,それらの微分である速度波形は地震動パルスになっていた(たとえば野津・他, 2019).また,2023年のトルコ南部の地震では多数の近傍記録が得られ,同様な結果となっている(たとえば長坂, 2023).ただし,後者では変位記録にも地震動パルスが現れることが示されているが,その解釈は最後に示す.

地震動パルスのユビキタス性を裏付けるために地震動の理論計算を行うが,解析的な計算方法は近似が強く,半解析的な方法では波数積分に数学的な難しさがあるので,Dreger et al. (2011)にならい差分法で数値的に計算するとして,OpenSWPC(Maeda et al., 2017)を利用させていただいた.z軸を下向きにしたデカルト座標系のx軸を北向きに,y軸を東向きにとり,熊本地震をイメージして右横ずれ断層のMw 5.0点震源を(0, 0, 3km)に置いた.震源時間関数としては中村・宮武(2000)の関数が適切ということは定着していると思われるので,OpenSWPCのオプションの中でそれに類似しているtexp関数を選択した.地震基盤が半無限で広がっている場合の計算結果が図の一番上の波形で,平滑化された傾斜関数が両成分で再現されている.図には示していないが上下成分でも同様である.傾斜関数の立ち上がり部分に,震源時間関数にない逆向きの変位が現れており,これは観測記録の中にも見える.図に描かれているようにP波の到着時刻に一致しており,P波の極性がS波と異なることから現れるものと考えられる.

この再現を乱す第一の要因としては地下構造が考えられるから,全国一次地下構造モデル改訂版のうち益城町下の1次元構造を半無限のかわりに導入し,その場合の計算結果が図の上から二番目の波形である.1次元構造による増幅のため最大振幅は約3倍になり,傾斜関数的な波形は維持されている.しかし,傾斜部分に比べ地殻変動部分の増幅は2倍程度と弱いので,傾斜後に揺り戻しのピークが現れる.次に再現を乱す要因として震源の有限性が考えられるので,点震源を中心として水平に展開した長さ2.5kmのMw 5.5線震源を半無限および1次元構造の中に置いた.線震源は長さ0.5kmの小断層5件で構成した.断層破壊は西端から東向きに,震源のある地震基盤のS波速度の94%(3.0 km/s)で伝播するとした.図の3, 4段目にある計算結果を見ると,M0に見合って振幅が5倍程度になっているが,傾斜関数的な波形は維持されている.違いは傾斜部分の経過時間が長くなっており,結果として速度波形のパルス幅がのびることになる.震源の有限性の影響とはいわゆるディレクティビティ効果であるが,この効果によって傾斜関数的な変位波形およびその微分形の地震動パルスが生み出されているわけではないのは図が示す通りである.ユビキタスに存在する地震動パルスに同効果が及ぼす影響は,パルス幅をのばして長周期化することにある.また,地震動の増幅はM0に見合う程度であるので,ディレクティビティ効果による増幅は図のような震源断層の中心部の近傍では顕著ではない.

最後に,地動変位に現れるパルス波形について考察する.点震源による波動部分と地殻変動部分を含む地動波形全体の断層直交成分Uxは,x軸に平行な節面を境界として左右で正負反転の同形をしている.したがって,それらの足し合わせである線震源による中央節面上の地動波形では,地殻変動部分は線震源の左右の貢献がキャンセルしてゼロになる.それに対して波動部分では,足し合わせが左右対称でない破壊伝播の時間差をもって行われるのでゼロにはならず,それがパルス波形として残ることになる.

謝辞:武村俊介博士,古村孝志博士にはOpenSWPCについて教えていただきました.本発表の動機付けには三宅弘恵博士との議論が有益でした.