日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS10] 強震動・地震災害

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:友澤 裕介(鹿島建設)、林田 拓己(国立研究開発法人建築研究所 国際地震工学センター)

17:15 〜 18:45

[SSS10-P14] 地震観測点における微動アレイ観測に基づく地盤増幅率等の検討

*先名 重樹1 (1.防災科学技術研究所)

キーワード:地盤モデル、強震動、微動アレイ観測、S波速度構造

防災科学技術研究所では、広帯域強震動評価を目的として、これまでに関東地方・東海地方の浅部・深部統合地盤構造モデルを構築している。AVS30(m/s)と地盤増幅率(最大速度増幅率)は、2021年3月(東海地方は2023年12月)に防災科学技術研究所ホームページJ-SHISから公開された。そのうち、関東地方では、合計31万本以上のボーリングデータが収集・整理され、約1~2km間隔で約14,000箇所の微動アレイが観測・解析されている。
現在、日本における表層地盤の地盤増幅率の評価は、藤本・翠川(2006)によって行われている。地盤増幅率評価に用いられるAVS30の一部は、防災科学技術研究所のK-NETとKiK-net地震観測所のPS検層結果に基づいて算出されている。しかしながら、K-NET(約1,000地点)では5~20m程度の掘削しか記録されておらず、20m以深の調査は行われていない。KiK-net(約700地点)については、深度100m以上のPS検層が行われているものの、検層データの取得方法からすると、表層地盤の精度は高くない。本研究では、全国1,300箇所以上のK-NETおよびKiK-net地震観測点で、正確な地震観測点の位置座標を取得した上で、微動アレイ(小型アレイ)探査を実施、得られたS波速度構造モデルとPS検層を比較・検討した。本研究の目的は、これらの結果から得られたS波速度構造をもとにAVS30と地盤増幅率の関係を評価し、周期特性を考慮した新たな地盤増幅率を提案することである。

微動アレイ観測は、K-NETおよびKiK-netの約1,300地震観測点(2023年2月現在)において半径約20m以下の三角形および半径約60cmの観測を行った。観測方法は、Cho et al (2013)を参考に設定した。微動観測に使用した装置は,三成分加速度計 JU410(GPS,バッテリ,データロガーを内蔵した三成分加速度計)であり,200Hz サンプリング,15 分以上の観測を行っている。位相速度の解析にはSPAC法、ESPAC法、CCA法を用い、分散曲線の読み取り時にはゼロクロス法(Cho et al.,(2021))も用いた。AVS30は、長尾・紺野(2002)に基づく波長40mに基づく方法(C40)、周波数と位相速度の関係を深さとS波速度構造に変換する方法(Ballard(1964)等)、Arai and Tokimatsu(2004,2005)の方法に基づく手法を参考とした位相速度とH/Vを用いたインバージョン解析、Cho and Iwata(2019)のベイズ理論に基づく方法等により、それぞれS波速度構造を求めた。本研究では,Ballard(1964)らによる位相速度をS波速度構造に変換する方法をSPM(Simple profile method),Cho and Iwata(2019)のベイズ理論によるS波速度構造解析結果をSIM(Simple Inversion methods)としている。既存のPS検層の再整理(再読み取り)については走時データを用い、深さ30mでの走時時間を算出し、30mを走時時間で除した値(TT30)を求めてAVS30を算出し、微動アレイのAVS30と比較した。また、双方のS波速度構造から工学的基盤等価層(Vs400)の上面からの伝達関数を算出し、地震観測記録から算出したスペクトル増幅率等(地表地震記録の速度応答スペクトル、距離減衰式における速度応答スペクトル、スペクトルインバージョンによるサイト増幅特性)を用いてS波速度構造の精度を検証した。結果として、これらの比較から以下の事が分かった。

1. 低地系微地形区分では、微地形分類(PS検層)と微動アレイの間でAVSなどに大きな差がある地点は多くはないが、山地・台地系の微地形区分ではAVSなどに大きな差(ばらつき)が見られる。
2. 微動アレイの観測結果全体で比較すると、すべてのAVSでPS検層結果のAVSが大きくなる傾向があり、特にAVS10の比較では、山地・台地系の微地形区分でPS検層結果に対して、大きな差が認められる。

微動アレイの解析では、位相速度とH/Vの周期特性を一致させるインバージョン解析を行っているため、スペクトル増幅率の周期特性と増幅特性は比較的よく一致する。また、PS検層結果からのスペクトル増幅率は、微動アレイ観測結果よりも周期特性の合致率が低い。特に、表層から10mより浅い深度(AVS10)に関係する周期(2Hz程度以上)で差が大きく、この短周期成分の違いが増幅率に大きな影響を与えるものと考える。今後、全国の地震観測点等で微動アレイ観測等を行い、S波速度構造(AVS30等)と地盤増幅率の関係を整理し、周期特性を考慮した地盤増幅率等の再検討を行う予定である。