[S-SS11] 活断層と古地震

[SSS11-04] 電気探査による猿投山北断層帯の比抵抗構造の推定

*江尻 智香¹、市原 寛¹、田所 敬一¹、大田 優介²、黒田 真奈加¹、白山 智之¹、渡辺 俊樹¹ (1.名古屋大学、2.海洋研究開発機構)

キーワード：電気探査、猿投山北断層、断層破砕帯

恵那山-猿投山北断層帯は、岐阜県中津川市から愛知県瀬戸市にかけて伸びる活断層帯である。北には屏風山断層帯、南には高浜断層帯及び加木屋断層帯が連なり、総延長は100 km以上にもなるが、断層帯の地下構造やその連続性は明らかになっていない。本断層帯は、人口の集中する名古屋市や大規模産業のある豊田市に隣接するため、地下構造及び活動履歴等に基づき、適切な活断層評価及び地震対策が求められる。そこで、猿投山北断層帯のほぼ南端にあたる愛知県瀬戸市東白坂町において、電気探査により地下の比抵抗構造を調査した。同地点では過去にトレンチ調査(愛知県他, 1996; 吾妻他, 2020, 2022)、ボーリング調査(愛知県他, 1996, 1998)、地震波探査(渡辺他, 2021)が行われている。関連性の高い主な結果として、愛知県他(1998)によるボーリング調査では、強い断層破砕を受けた花崗岩が採取された。被破砕花崗岩の範囲と、トレンチ調査(愛知県他, 1996)において観察された断層の一部を基に、断層破砕帯幅が約16 mと推測されている。渡辺他(2021)による地震波探査(極浅層反射法)では、反射の弱い領域が検出されている。断層破砕によって岩石の風化が進行すると、堆積層と基盤岩の物性の境界が不明瞭になるため、反射の弱い領域は断層破砕帯を反映していると解釈されている。本研究は、これらの結果と共に地下構造を推定することを目的とする。また、調査域周辺は花崗岩基盤の非常に単純な地質を持ち、断層破砕による比抵抗異常体の検出に適した地域である。そこで、断層帯の地下構造推定における電気探査の有用性を議論することも本研究の目的とした。
電気探査は、地下構造が断層帯走向方向へ連続する仮定のもと、推定走向に対してほぼ垂直に測線を設定して実施した。電気探査(比抵抗法)では、電流電極から地下に電流を流し、その電流値 I 及び電位電極間の電位差 V を測定し、見掛け比抵抗 ρ_a=G(V/I) を算出する。本観測では電極の順序、間隔及び位置を変化させ、様々な条件における見掛け比抵抗を求めた。得られたデータの解析には、Uchida(1993)の二次元インバージョン手法を用いた。本手法では、Misfit(観測値とモデルレスポンスの重み付き残差二乗和)とRoughness(モデルパラメータの二次の差分の二乗和)からなる目的関数の最小条件により、現在のモデルに対する修正量を算出し、新しいモデルを作成する。このプロセスの反復により、真のモデルに近づけていく。Misfitによるモデルの再現性とRoughnessによる平滑操作のバランスが取れた結果を、Lカーブ法(Hansen, 2001)に基づいて選択し、最適な比抵抗構造とした。その結果、トレンチ調査及びボーリング調査から断層帯が推定されている領域において、低比抵抗領域が推定された。
岩石が断層破砕を受けると、孔隙の増加による間隙水の流入、粘土鉱物含有量の増加などによって比抵抗が低下すると考えられるため、低比抵抗領域は断層破砕帯を反映している可能性がある。この低比抵抗領域と地震波探査において反射が弱い領域はよく一致しており、互いの解釈を支持している。この結果より猿投山北断層帯は、トレンチ調査及びボーリング調査から推定された破砕帯幅約16 mよりも広い破砕帯を持つと予想される。本研究より更に測線を伸ばして観測を行うことで、破砕帯幅の推定が期待される。以上より電気探査は、単純な地質を持つ地域の断層破砕帯調査において、解釈の材料の一つとして用いる場合や、他の調査を行う上で着目するべき範囲を絞る場合に有用である可能性が示された。