日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS11] 活断層と古地震

2024年5月26日(日) 09:00 〜 10:15 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、佐藤 善輝(産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ)、矢部 優(産業技術総合研究所)、安江 健一(富山大学)、座長:安江 健一(富山大学)、佐藤 善輝(産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ)

10:00 〜 10:15

[SSS11-05] 令和6年能登半島沖地震と半島南東岸の短い活断層 −短い活断層は起震断層になりえるか

★招待講演

*遠田 晋次1石村 大輔2 (1.東北大学災害科学国際研究所、2.東京都立大学)

キーワード:能登半島地震、活断層

2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震では,井上ほか(2010)による能登半島北岸沖の断層群と佐渡西沖へ延びる海底活断層の約150km区間が連動した.国土交通省(2014)のF-43, F-42断層に相当する部分に加え,輪島市門前町〜志賀町北部の沖合の活断層も活動したと推定される. 8分後に発生した志賀町北部でのM6.1を含め余震活動も活発で,震源ごく近傍の活断層による誘発地震も懸念される.実際,能登半島北部には,酒見断層,福浦断層,富来川断層,滝ノ坊断層,古君断層,半の浦西断層,半の浦東断層,富来川南岸断層,白米坂断層など,多数の活断層が記載されている(太田ほか,1976;活断層研究会,1991;尾崎,2010).ただし,白米坂断層を除くと,これらの活断層の長さは5km以下と短く,多くは地形と不調和な海岸側隆起の低断層崖でもある.
地震ハザード評価において,短い活断層は,地震発生層を断ち切る震源断層の一部がわずかに地表に顔を出しているものと推定され(例えば,島崎,2008),M7程度の震源として評価される.一方で,2016年熊本地震(M7.3)に代表されるように,震源断層以外でも広域で浅部の小変位が報告されてきた(Fujiwara et al., 2016; 「お付き合い断層」 宇根ほか,2018,Fukushima and Ishimura, 2020).これらの小変位直下では地震活動をともなわない場合が大半である.そのため,短い活断層すべてを震源断層として評価する必要はないとの見方もある(遠田・石村,2020).能登半島沖地震では,近傍活断層への応力変化はきわめて大きいと考えられ,これらの活断層が独自に起震断層となりえるかを判断することは地震防災上きわめて重要である.本講演では,能登半島地震による地震時地殻変動を踏まえて,半島南東岸の活断層の位置づけについて考察する.
令和6年能登半島地震では,能登半島北西岸の猿山岬沖で約4m,珠洲北岸で約2mの隆起が報告されている(国土地理院,2024).一方で,能登や穴水など,いわゆる内浦地域の上下変位は約3cm以下で,明らかに地震時の南東もしくは南南東への傾動が認められる.これらの傾動運動は,太田・平川(1979)が指摘した地塊のブロック傾動運動として長期的な地形形成と整合する.すなわち,能登半島地震の繰り返しが半島北部の地形形成に寄与している.今回,井上ほか(2010)の海底断層位置と余震分布,地震時地殻変動を考慮して複数の断層による震源断層モデルを構築した(図1).この震源断層モデルを用いて,Okada (1992)の半無限弾性体で地震前後の地殻歪み場の変化を計算した.上記の短い活断層のすべてが概ね逆断層と推定されるため,ここでは体積歪み(Δexx+Δeyy+Δezz)に着目して計算した(図1).その結果,隆起の著しい半島北岸では引張場(dilatation)となる一方で,能登町・穴水町・能登島周辺の半島南東岸では顕著な収縮場(contraction)になる.歪み変化は10^-5〜10^-4に達する.輪島−穴水の北西―南東の断面図(図1)をみると,これらの収縮は約3km以浅に集中し,それ以深は逆に引張場になる.仮に,これらの隆起・傾動運動が過去数十万年間に繰り返され(太田・平川,1979),半島北西の地形標高約500mが形成されたとすると,能登半島地震の変形が100回以上繰り返されているといえる.その場合,ごく浅部の収縮歪みの蓄積は10^-3〜10^-2にまでおよぶ.例えば,古君断層を例として北東走向・南東傾斜・南東上がりの逆断層を仮定し,能登半島地震が100回繰り返されると,表層での累積のクーロン応力は20MPaにまでおよぶ.典型的な地震時応力降下量3〜10MPaの2倍以上となる.封圧の小さな浅部で小規模な剪断を複数回発生させるのに十分な変化量である.同様の計算では,3km以深で負のクーロン応力となり,断層の成長は浅部のみに限定される.以上のことから,能登半島北部に分布する短い活断層はごく浅部の構造であり,隆起部と不動部の境界の曲げ部分に生じる副次的断層としての bending-moment fault(Yeats, 1986)と考えられる.今後,さらに詳細な検討が必要ではあるが,bending-moment fault であれば,M7規模の起震断層である可能性は低いと考えられる.