日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS11] 活断層と古地震

2024年5月26日(日) 10:45 〜 12:00 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、佐藤 善輝(産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ)、矢部 優(産業技術総合研究所)、安江 健一(富山大学)、座長:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、矢部 優(産業技術総合研究所)

11:45 〜 12:00

[SSS11-10] 活断層は地表付近で同様の地層の変位・変形を繰り返すのか -2016年熊本地震前の布田川断層トレンチの再掘削からの考察

*山根 悠輝1遠田 晋次2、鳥井 真之3原 勇貴2石村 大輔4高橋 直也1奥野 充5福田 泰英6 (1.東北大学大学院理学研究科地学専攻、2.東北大学災害科学国際研究所、3.熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センター、4.東京都立大学大学院都市環境科学研究科地理学教室、5.大阪公立大学大学院理学研究科地球学専攻、6.(株)三和地質コンサルタント)

キーワード:活断層、トレンチ調査、右横ずれ断層、布田川断層、2016年熊本地震、固有地震モデル

活断層の長期評価には,古地震調査で得られた活断層の活動履歴が反映される.そのため,トレンチ調査などで見出された断層が,次の大地震時にも過去と同じように活動するかどうかについての情報は,活断層の長期評価を行う上で重要である.そのような情報を検討する上で,古地震調査が行われた後に,実際に活断層によって変位を受けたトレンチは貴重な研究対象となる.
 大地震前後でほぼ同一のトレンチ壁面が比較され,地震前後の地層変形差などが検討された事例は,これまでに世界で二例のみである.アメリカ・アイダホ州に存在する正断層である,ロスト・リバー断層の調査(Crone, 1985)が最初の事例である.ロスト・リバー断層は1983年10月にボラ・ピーク地震(Mw 6.9)を発生させ,その7年前に掘削されたトレンチを約2 m変位させた.地震後の再掘削調査により,ボラ・ピーク地震とその直近の地震では,トレンチ掘削地点で断層の活動位置や活動様式に変化がなかったことが明らかにされた.二例目は,ニュージーランド南島にある,右横ずれ断層のケケルング断層である(Morris et al., 2023).ケケルング断層は,2016年11月のカイコウラ地震の際に活動し,その10ヶ月前に掘削されたトレンチを約9 m変位させた.ケケルング断層での地震後調査では,断層の活動位置が地震毎に異なることや,カイコウラ地震時には,トレンチ掘削地点で右横ずれ断層の局所変形様式が,直近数回の地震時の引張変形から圧縮変形へと変化したことが報告された.このように,地震前後での地層変形差の検討について,二例で異なる結果が得られており,活断層が地表付近で同様の変形を繰り返す条件などを検証するには,さらなる研究事例が必要である.以上の背景を踏まえ,本研究では,地震前にトレンチ壁面で確認された断層の地震時の動きを明らかにし,地震前後での地層変形差について検討するため,2016年熊本地震本震(Mw 7.0)時に布田川断層が変位させた田中地区トレンチ(熊本県,1996; 吉岡ほか,2007)を再掘削した.
 田中地区には3つの熊本地震前トレンチが存在しており(図1A),これらトレンチ掘削地点では,熊本地震時に60 cmの右横ずれ変位が観察された(Shirahama et al., 2016).本研究では,熊本県(1996)によるトレンチ(以下県トレンチ)と吉岡ほか(2007)による田中Aトレンチを対象に再掘削調査を行い(図1B, C),県トレンチ東側壁面,田中Aトレンチ西側掘り増し壁面について,再露出させることに成功した.
 熊本県(1996)では,県トレンチ東壁面において,耕作土直下まで伸びる断層が報告された.今回の再掘削調査では,この断層を境に,当時のトレンチ壁面が約40–50 cm右横ずれしていることが確認されたが,地層変形や壁面の外見には大きな変化はなかった.そのため,2016年熊本地震と直近の地震では,県トレンチ東壁面の位置において,地表付近での断層の活動位置や変形様式が同じであり,ロスト・リバー断層での調査結果(Crone, 1985)に整合的である.
 吉岡ほか(2007)では,田中Aトレンチ西側掘り増し壁面において, 2180±40 BPの年代を示す砂礫混じりシルト層に覆われる断層が確認された.この断層は,本調査での再掘削壁面でも確認されたが,壁面はこの断層より約10–50 cm南側で約40–50 cmの右横ずれ変位を受けていた.また,本調査では,地表付近まで続く2–3本の断層に挟まれた部分で,地層が落ち込む引張変形が確認されたが,吉岡ほか(2007)では,圧縮場を反映した局所変形構造が報告された.以上のことから,田中Aトレンチ地点において,2016年熊本地震ではそれ以前の地震と比べ,地表付近での布田川断層の活動位置や局所変形様式が変化したことが推定される.これはケケルング断層での調査結果と同様であり,地表付近での活動位置と変形スタイルの変化からは,ある程度の幅をもって活断層を評価する必要性(Morris et al., 2023)が示唆される.
 以上の結果をまとめると,田中地点では地下数mにおいて,2016年熊本地震と直近の地震で活断層が同じように動いた場合(ロスト・リバー断層に対応)と,同じようには動かなかった場合(ケケルング断層に対応)の両方が見られた.このことは,少なくとも横ずれ断層の場合に,地表付近で断層の活動位置や変形スタイルが変化し得ることを意味し,地表下堆積物の性状変化など,何らかの要因を反映し,雁行地割れ位置が地震毎に変動し得ることが考えられる.