日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS11] 活断層と古地震

2024年5月26日(日) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、佐藤 善輝(産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ)、矢部 優(産業技術総合研究所)、安江 健一(富山大学)

17:15 〜 18:45

[SSS11-P06] 伊豆半島城ヶ崎海岸の石灰質生物遺骸から推定される地殻変動の特徴

*塚原 柚子1、齋藤 俊仁2、中西 利典3西山 成哲1、藤田 奈津子1川村 淳1梅田 浩司4 (1.国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター、2.伊豆城ヶ崎ネイチャースクール、3.ふじのくに地球環境史ミュージアム、4.弘前大学)

キーワード:地殻変動、石灰質生物遺骸、完新世、伊豆半島、14C、隆起

離水地形や石灰質生物遺骸の高度と年代に基づく古海水準の復元は,完新世の地殻変動の特徴を推定するために有用な手段のひとつである。手法の適用範囲の拡大や精度向上のためには,多様な条件の事例を蓄積することが必要である。特に複数の要因が絡みあって地殻変動が生じる場合、その要因を分離・特定することは容易ではない。一方で複数地点のデータを取得し,その比較を通じて、地殻変動の空間的な特徴を把握することで、要因の分離・特定につながる可能性がある。本研究では,以上の手法の適用性検証のために,地殻変動履歴に係る先行研究が存在する伊豆半島東岸地域において,石灰質生物遺骸を指標にした古海水準の復元を行い,先行研究との比較を通して,地殻変動の特徴の推定を試みる。
伊豆半島東岸は,東伊豆単成火山群(荒牧・葉室, 1977)にあたり,地下のマグマ活動による群発地震が度々発生してきた。また,周辺には相模トラフや北伊豆断層帯が位置し,プレート境界型地震や内陸活断層型地震も活発に発生する地域である。伊豆半島東岸において,完新世の離水地形と石灰質生物の化石に着目した研究としては,Shishikura et al.(2023)がある。Shishikura et al.(2023)は伊東市の川奈付近の海岸で離水地形や生物遺骸群集を調査し,それらの離水プロセスを明らかにするとともに,離水の原因は地下のマグマの活動による火山性の隆起の可能性が高いと結論した。本研究では,この地殻変動の特徴の代表性を検証するために,Shishikura et al.(2023)の調査地域から南に8~9 kmほど離れた城ヶ崎海岸において,離水地形と石灰質生物遺骸の調査を実施した。
城ヶ崎海岸は,約4000年前の大室山の噴火活動で流出した溶岩流から構成される。我々は,城ヶ崎海岸の3地点において現地調査を実施し,カンザシゴカイ類,フジツボ類,貝類から構成される化石群集を4つ発見した。さらに,群集の離水年代を推定するために,石灰質生物遺骸を合計21試料採取し,東濃地科学センターの加速器質量分析装置(JAEA-AMS-TONO-5MV)で14C年代を測定し,暦年較正を実施した。各群集での試料の採取高度は約2.5~3.6 m,約3.3~3.5 m,約2.5~2.8 m,約3.5~3.8 mで,離水年代は1222-1561CE,1244-1596CE,1130-1490CE,1225-1577CEと推定された。これらの年代は,Shishikura et al.(2023)のZone2のupper sectionの離水年代と概ね一致する。一方,化石群集の分布高度を比較すると,その上限高度はZone2のupper sectionよりも最大1.35 m程高く,地殻変動の地域的な変化を示していると考えられる。また,約2.5~3.6 m の高さで化石群集を確認した地点では,約1.3~1.4mの高さに,明瞭な離水ノッチが観察された。化石群集との上下関係を考慮すると,これはShishikura et al.(2023)のZone1に対応する離水地形の可能性があり,化石群集と同様に本地域の地殻変動の特徴の空間的な変化を示唆すると解釈できる。このように石灰質生物遺骸が複数地点で保存されている地域において,複数地点でデータを取得することで,それらを比較し解釈することが可能である。本研究の調査は,地域特有の地殻変動の特徴をより正確に把握するために有効な手段であり,地殻変動のメカニズム解明の一助となることが期待される。
本研究は、経済産業省資源エネルギー庁委託事業(JPJ007597)の「令和4年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。

引用文献:荒牧・葉室(1977) 東京大学地震研究所彙報, 52, 235-278. Shishikura et al.(2023) Tectonophysics, 864.