日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT34] 空中からの地球計測とモニタリング

2024年5月27日(月) 09:00 〜 10:15 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小山 崇夫(東京大学地震研究所)、楠本 成寿(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)、光畑 裕司(独立行政法人 産業技術総合研究所)、上田 匠(早稲田大学)、座長:小山 崇夫(東京大学地震研究所)、楠本 成寿(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)、光畑 裕司(独立行政法人 産業技術総合研究所)、上田 匠(早稲田大学)

09:30 〜 09:45

[STT34-03] 空撮用可搬型赤外線カメラシステムの試験運用と開発

*實渕 哲也1 (1.防災科学技術研究所)

キーワード:可搬型カメラ、火山観測、赤外カメラ

防災科学技術研究所(防災科研)は,航空機による上空からの手持ち観測を実現できる可搬型赤外カメラシステム:Structure and Thermal Information Capture-Portable (STIC-P)を,2020年3月に開発した.STIC-Pは,専用の搭載機を必要とせず,上空からの斜め観測で噴火警戒レベルの対象範囲外からの火山観測を実現し,SfM/MVS処理により地上のオルソ補正画像を作成できる.防災科研では,2021年から2023年にかけて,STIC-Pを火山観測へ試験運用し,火山の熱的活動把握に資する,定量的な輝度温度分布,放熱率の把握を行った.また,継続的な装置の改良も実施中である.現時点では地上でのオペレーションを実現した段階であるが,赤外カメラの画素数の拡大による空間解像度の向上と赤外カメラの観測波長域の多バンド化による,火山性ガス(二酸化硫黄ガス)濃度分布の可視化機能を実現できている.本報告では,これらに関し,火山への試験運用結果として2021~2023年の那須岳の観測結果を述べる.また,最新の装置開発として,画素数を拡大した非冷却型赤外カメラと赤外域の異なる波長域(多バンド)を観測する,非冷却型カメラ,冷却型カメラの諸元と地上での装置試験結果を述べる.
STIC-Pによる2021~2023年の那須岳の観測では,STIC-Pによるヘリコプター(ベル式 206B 型:(株)ヘリサービス保有機)からの那須岳(無間地獄)周辺の輝度温度等の試験観測を,2021年11月14日,2022年10月21日,2023年10月26日に実施した.観測条件は,観測高度は海抜2700m,測線は,那須岳を中心とした半径1500mの円周状測線からの斜め観測とし,重畳する複数の輝度温度画像データを取得した.これらにSfM/MVS処理を適用しオルソ補正画像を作成した.これより,那須岳(無間地獄付近)の輝度温度分布等を定量的に把握できた.2021年11月14日に観測された最高輝度温度は,西斜面噴気孔Aで計測された54.0℃,放熱率は0.195MWであった.2022年10月21日に観測された最高輝度温度は,同じく西斜面噴気孔Aで計測された62.8℃,放熱率は0.188MWであった.2023年10月26日に観測された最高輝度温度は,同じく西斜面噴気孔Aで計測された51.2℃,放熱率は0.140MWであった.これらの観測で計測された西斜面噴気孔Aの輝度温度分布と形状は,約2年間にわたり,ほぼ同様であると評価できた.これらより,SPIC-Pによる熱的活動把握が可能であることが示唆される.
最新の装置開発では,現行の赤外カメラの画素数をVGA(640×480)からXGA(1024×768)に拡張したカメラを開発し,瞬時視野を現行の0.69mradから0.47mradに向上させた.また多バンドを観測する赤外カメラの開発では,二酸化硫黄ガスの可視化を目指し,8~9μmの赤外域を選択的に観測する非冷却型カメラ(VGA),冷却型カメラ(QVGA,VGA)を開発した.これらにより,阿蘇中岳,浅間山にて2020~2023年に試験観測を行い,噴煙中の二酸化硫黄ガス分布の可視化と濃度推定(約0.5~20ppmv)を実現した. 現在,これらの装置の航空機搭載型を開発中で,今後,空中からの試験観測を行う予定である.