17:15 〜 18:45
[STT36-P06] 光ファイバーの屈曲点付近のDASデータを用いた2次元歪テンソルの推定
キーワード:DAS、歪テンソル、ファイバー屈曲点
はじめに
分布型音響計測(DAS)は,光ファイバーに沿って稠密に歪(歪速度)の時系列を取得する技術である.計測できるのは光ファイバーの軸方向の歪1成分である.表面波を用いた地盤構造推定に利用する場合は,光ファイバーの直線部分を利用するのが普通である.しかし,道路や河川堤防下に設置された光ファイバーには屈曲点が存在する.そのような屈曲点では,SH波やラブ波が入射した際には歪の極性が変化する(例えばMartin et al., 2021).その性質を利用してレイリー波とラブ波のエネルギー比を推定した研究もある(Zhao et al., 2022).このように,光ファイバーの屈曲点付近のDASデータを有効に利用できる可能性がある.本研究では,光ファイバーの屈曲点付近のDASデータから,面積歪やせん断歪を推定する手法を提案し,その適用可能性について桜島における観測データを用いて検討した.
原理
水平面を考え,東向きにx軸を,北向きにy軸をとる.簡単のため,光ファイバーは水平に設置されており,所々で屈曲して方位角が変化していると仮定する.2次元平面内の軸歪は,テンソルの座標変換則により,面積歪 exx+eyy, differential extension(以下,DE) exx-eyy,, せん断歪 exy であらわすことができる.もし,3か所以上のチャンネルで軸歪を計測し,その場所周辺で歪場が空間一様と仮定できれば,面積歪,DE, せん断歪の3つを未知数とする逆問題を解くことができる.データと未知数を関係づける行列は,光ファイバーの設置方向(方位角)だけに依存する.
データ・解析
2022年11月から12月にかけて,我々が桜島で実施したDAS観測データのうち,桜島を周回する道路沿いに設置された測線のものを利用した.測線長は約39㎞,チャンネル間隔は4.8m,ゲージ長は9.6m,サンプリング周波数は200Hzであった.この測線上で,経路が屈曲しており,標高の変化が小さく,周辺で歪波形の形状が比較的類似している場所として,570番チャンネル付近(東桜島町),1530番チャンネル付近(有村町),2640番チャンネル付近(黒神町)の3か所を選んだ.長周期の地震波動場では歪の空間変化は緩やかと考えられるため,やや大きめの地震を選択した.具体的には,2022年11月14日17時8分に三重県南東沖の深さ約400㎞で発生したMw6.1の地震を選択した.歪のレコードセクションでは,周期3-5s程度の波がコヒーレントであることを確認できる.そして,これらの屈曲点付近で,歪の極性が変化している時刻も見られることを確認した.そこで屈曲点を中心に,5チャンネル(約24m)おきに両側5点ずつのチャンネルの歪記録を用いて,インバージョンにより,面積歪,DE,せん断歪の時系列を求めた.
結果と議論
まず570番チャンネル付近では,せん断歪が卓越し,その大きさは最大7x10^-8程度であった.せん断歪が大きくなる時刻では,レコードセクションでも極性の変化がみられている.この場所から東に約500m離れた気象庁の湯之観測点の地震計記録でも水平動成分が卓越しており,粒子軌跡から判断すると,SH波かラブ波が東側から到来しているものと解釈できる.このように,今回の手法は波群の分離や解釈に有益である.次に,1530番チャンネル付近では,DEが最大で1.3x10^-7と最も大きく,次に面積歪が大きかった.せん断歪は最も小さく,4x10^-8程度であった.つまり,570番チャンネル付近とは歪場が結構異なっている.周期3sから5sの地震波は,数km程度の波長をもつと考えられる.570番チャンネルと1530番チャンネルは直線距離で2㎞程度離れているため,歪場が異なっていても不思議ではない.最後に2640番チャンネル付近では,この時間帯に自動車が通過しており,それによりDEが最大となった.そこから北に200m程度離れたところには気象庁の瀬戸観測点があり,地震波形は水平動が卓越していたが,水平面内の粒子軌跡は複雑で,湯之観測点とは波動場の特徴が異なっていた.
この手法は歪場の空間均質性を仮定しているため,ゲージ長が波長に比べて十分に短いこと,サイト増幅特性の空間変化が小さく,ケーブルと地面とのカップリングの空間変化も小さいことなどの条件が必要となる.また,チャンネルの位置決め(特にケーブルの方位角)も重要である.このように制約条件は多いものの,適切な場所を選べば,光ファイバーの屈曲点付近のデータから2次元歪テンソルの情報を抽出できることが分かった.
謝辞 DAS観測では国土交通省の光ファイバーを借用しました.観測に当たって国土交通省九州地方整備局大隅河川国道事務所の方々に便宜を図っていただきました.解析では,気象庁の火山観測点のデータを使用しました.
分布型音響計測(DAS)は,光ファイバーに沿って稠密に歪(歪速度)の時系列を取得する技術である.計測できるのは光ファイバーの軸方向の歪1成分である.表面波を用いた地盤構造推定に利用する場合は,光ファイバーの直線部分を利用するのが普通である.しかし,道路や河川堤防下に設置された光ファイバーには屈曲点が存在する.そのような屈曲点では,SH波やラブ波が入射した際には歪の極性が変化する(例えばMartin et al., 2021).その性質を利用してレイリー波とラブ波のエネルギー比を推定した研究もある(Zhao et al., 2022).このように,光ファイバーの屈曲点付近のDASデータを有効に利用できる可能性がある.本研究では,光ファイバーの屈曲点付近のDASデータから,面積歪やせん断歪を推定する手法を提案し,その適用可能性について桜島における観測データを用いて検討した.
原理
水平面を考え,東向きにx軸を,北向きにy軸をとる.簡単のため,光ファイバーは水平に設置されており,所々で屈曲して方位角が変化していると仮定する.2次元平面内の軸歪は,テンソルの座標変換則により,面積歪 exx+eyy, differential extension(以下,DE) exx-eyy,, せん断歪 exy であらわすことができる.もし,3か所以上のチャンネルで軸歪を計測し,その場所周辺で歪場が空間一様と仮定できれば,面積歪,DE, せん断歪の3つを未知数とする逆問題を解くことができる.データと未知数を関係づける行列は,光ファイバーの設置方向(方位角)だけに依存する.
データ・解析
2022年11月から12月にかけて,我々が桜島で実施したDAS観測データのうち,桜島を周回する道路沿いに設置された測線のものを利用した.測線長は約39㎞,チャンネル間隔は4.8m,ゲージ長は9.6m,サンプリング周波数は200Hzであった.この測線上で,経路が屈曲しており,標高の変化が小さく,周辺で歪波形の形状が比較的類似している場所として,570番チャンネル付近(東桜島町),1530番チャンネル付近(有村町),2640番チャンネル付近(黒神町)の3か所を選んだ.長周期の地震波動場では歪の空間変化は緩やかと考えられるため,やや大きめの地震を選択した.具体的には,2022年11月14日17時8分に三重県南東沖の深さ約400㎞で発生したMw6.1の地震を選択した.歪のレコードセクションでは,周期3-5s程度の波がコヒーレントであることを確認できる.そして,これらの屈曲点付近で,歪の極性が変化している時刻も見られることを確認した.そこで屈曲点を中心に,5チャンネル(約24m)おきに両側5点ずつのチャンネルの歪記録を用いて,インバージョンにより,面積歪,DE,せん断歪の時系列を求めた.
結果と議論
まず570番チャンネル付近では,せん断歪が卓越し,その大きさは最大7x10^-8程度であった.せん断歪が大きくなる時刻では,レコードセクションでも極性の変化がみられている.この場所から東に約500m離れた気象庁の湯之観測点の地震計記録でも水平動成分が卓越しており,粒子軌跡から判断すると,SH波かラブ波が東側から到来しているものと解釈できる.このように,今回の手法は波群の分離や解釈に有益である.次に,1530番チャンネル付近では,DEが最大で1.3x10^-7と最も大きく,次に面積歪が大きかった.せん断歪は最も小さく,4x10^-8程度であった.つまり,570番チャンネル付近とは歪場が結構異なっている.周期3sから5sの地震波は,数km程度の波長をもつと考えられる.570番チャンネルと1530番チャンネルは直線距離で2㎞程度離れているため,歪場が異なっていても不思議ではない.最後に2640番チャンネル付近では,この時間帯に自動車が通過しており,それによりDEが最大となった.そこから北に200m程度離れたところには気象庁の瀬戸観測点があり,地震波形は水平動が卓越していたが,水平面内の粒子軌跡は複雑で,湯之観測点とは波動場の特徴が異なっていた.
この手法は歪場の空間均質性を仮定しているため,ゲージ長が波長に比べて十分に短いこと,サイト増幅特性の空間変化が小さく,ケーブルと地面とのカップリングの空間変化も小さいことなどの条件が必要となる.また,チャンネルの位置決め(特にケーブルの方位角)も重要である.このように制約条件は多いものの,適切な場所を選べば,光ファイバーの屈曲点付近のデータから2次元歪テンソルの情報を抽出できることが分かった.
謝辞 DAS観測では国土交通省の光ファイバーを借用しました.観測に当たって国土交通省九州地方整備局大隅河川国道事務所の方々に便宜を図っていただきました.解析では,気象庁の火山観測点のデータを使用しました.