17:15 〜 18:45
[STT36-P11] 日奈久断層沿いでのDAS観測による浅部構造推定
キーワード:分散型音響センシング(DAS)、高密度観測、不均質構造、地震波干渉法
はじめに
浅部の地下構造をイメージングすることは、建築計画や地下空間の利用といった都市開発を進める上で非常に重要である。特に断層付近の地域では、地盤の崩落や局所的な増幅などで大きな被害を受ける可能性があり、こうした地盤特性の評価をするために浅部の速度構造を調査した上で、より詳細なモデル化をおこなうことが非常に重要である。近年、光ファイバーケーブルを使用したDistributed Acoustic Sensing(DAS)が地球科学での新たな観測手法として普及しており、市街地などにある既存の通信用ケーブルを利用することで、低コストで超高密度観測が可能となってきた。これまでの研究例として, 火山性地震の震源決定やサイト特性の評価(Nishimura et al., 2021)や、都市部での浅部イメージングや交通ノイズ検知(Song et al., 2021)、断層帯のイメージング(Yang et al., 2022)など様々な研究にDASによる観測が利用されている。そこで本研究では、今後も大きな地震活動が懸念される熊本県の日奈久断層沿いを通る国道3号線で、DAS観測を実施して断層沿いの詳細な浅部構造を推定した。
データおよびフィールド
2023年の2月から3月までの約1ヶ月間、国土交通省熊本維持出張所にSilixa社のインテロゲーター(iDAS)を設置し、南方向の国道3号線に沿って国土交通省八代維持出張所までの約40 kmの光ファイバーケーブルに接続し、DAS観測を実施した。ケーブルに沿ってチャンネル間隔4 m、ゲージ長10 m、サンプリング周波数400 Hz, の全9,984 チャンネルにおいて歪速度波形を記録した。期間中、22個の地震も観測することができたが、交通ノイズの影響が大きかったため、本研究では雑微動を用いた地震波干渉法を用いた。
解析手法
日奈久断層沿いの長さ1.3 kmの区間において、昼の時間帯(13時から15時台まで)の3時間分の雑微動記録を解析で使用した。3時間記録を10分間の時間窓で分割し、1-30 Hzのバンドパスフィルター、100 Hzにリサンプリング、波形の1ビット化やスペクトルホワイトニングをおこなった後に各チャンネル同士で相互相関関数(CCF)を計算し、最後に時間窓毎のCCFを位相重み付けスタッキングした。しかし、この通常の地震波干渉法のデータ処理では安定したCCFを得ることが難しかったため、さらに今回はTSI法(Three-Station Interferometry)を採用した(Curtis and Halliday 2010, Song et al., 2022)。TSI法は3つの観測点を使用し、2つのCCFに対して繰り返し地震波干渉法を適用することで、抽出させる表面波のSN比を向上させる手法である。320chの区間で再構築したCCFを10 chずらしながら長さ80 chの区間で分割し、各区間において表面波マルチチャンネル解析(MASW)で分散曲線を求め、1次元のインバージョン解析をおこなうことで最終的に浅部S波速度構造を推定した。
結果
TSI法を3回繰り返し適用することで再構成されたCCFは元のCCFと比較してSN比が向上し、長距離まで表面波の伝播を抽出することができた。その結果、再構成されたCCFを使用したほうが、明瞭でより高周波側に伸びる分散曲線を得られた。3-8 Hzの帯域でレイリー波の基本モードが求められ、基本モードの位相速度を読み取り、1次元S波速度インバージョン解析をおこなった。その結果、約1.3 kmにわたって深さ180 mまでの浅部S波速度構造を解明した。速度構造は地表付近では全体的に軟弱な堆積層が広がっていたが、解析区間の中間から後半へ急激に深部に向かって低速度域が増加する傾向があった。
議論・結論
国道3号沿いでDAS観測を行い、地震波干渉法に基づくTSI法を適用して抽出した表面波から、日奈久断層近傍の浅部S波構造を推定した。解析区間の中間から後半にかけての速度変化は、断層と平行に通っていた国道が徐々に離れていくことによって、強固な火山性の地盤から八代平野の扇状地や三角洲などといった浅部の厚い堆積層へと構造がシフトしていることが要因だと考えられる。S波速度が遅いほど地盤増幅が大きいため、日奈久断層で大規模地震が発生した場合、この地域では大きな被害を受ける可能性がある。被害を抑えるために詳細な浅部構造探査が今後も必要である。
(謝辞)今回の観測にあたりまして、国土交通省九州地方整備局熊本河川国道事務所のご協力のもと、国土交通省所有の光ファイバーケーブルを使用させていただきました。
浅部の地下構造をイメージングすることは、建築計画や地下空間の利用といった都市開発を進める上で非常に重要である。特に断層付近の地域では、地盤の崩落や局所的な増幅などで大きな被害を受ける可能性があり、こうした地盤特性の評価をするために浅部の速度構造を調査した上で、より詳細なモデル化をおこなうことが非常に重要である。近年、光ファイバーケーブルを使用したDistributed Acoustic Sensing(DAS)が地球科学での新たな観測手法として普及しており、市街地などにある既存の通信用ケーブルを利用することで、低コストで超高密度観測が可能となってきた。これまでの研究例として, 火山性地震の震源決定やサイト特性の評価(Nishimura et al., 2021)や、都市部での浅部イメージングや交通ノイズ検知(Song et al., 2021)、断層帯のイメージング(Yang et al., 2022)など様々な研究にDASによる観測が利用されている。そこで本研究では、今後も大きな地震活動が懸念される熊本県の日奈久断層沿いを通る国道3号線で、DAS観測を実施して断層沿いの詳細な浅部構造を推定した。
データおよびフィールド
2023年の2月から3月までの約1ヶ月間、国土交通省熊本維持出張所にSilixa社のインテロゲーター(iDAS)を設置し、南方向の国道3号線に沿って国土交通省八代維持出張所までの約40 kmの光ファイバーケーブルに接続し、DAS観測を実施した。ケーブルに沿ってチャンネル間隔4 m、ゲージ長10 m、サンプリング周波数400 Hz, の全9,984 チャンネルにおいて歪速度波形を記録した。期間中、22個の地震も観測することができたが、交通ノイズの影響が大きかったため、本研究では雑微動を用いた地震波干渉法を用いた。
解析手法
日奈久断層沿いの長さ1.3 kmの区間において、昼の時間帯(13時から15時台まで)の3時間分の雑微動記録を解析で使用した。3時間記録を10分間の時間窓で分割し、1-30 Hzのバンドパスフィルター、100 Hzにリサンプリング、波形の1ビット化やスペクトルホワイトニングをおこなった後に各チャンネル同士で相互相関関数(CCF)を計算し、最後に時間窓毎のCCFを位相重み付けスタッキングした。しかし、この通常の地震波干渉法のデータ処理では安定したCCFを得ることが難しかったため、さらに今回はTSI法(Three-Station Interferometry)を採用した(Curtis and Halliday 2010, Song et al., 2022)。TSI法は3つの観測点を使用し、2つのCCFに対して繰り返し地震波干渉法を適用することで、抽出させる表面波のSN比を向上させる手法である。320chの区間で再構築したCCFを10 chずらしながら長さ80 chの区間で分割し、各区間において表面波マルチチャンネル解析(MASW)で分散曲線を求め、1次元のインバージョン解析をおこなうことで最終的に浅部S波速度構造を推定した。
結果
TSI法を3回繰り返し適用することで再構成されたCCFは元のCCFと比較してSN比が向上し、長距離まで表面波の伝播を抽出することができた。その結果、再構成されたCCFを使用したほうが、明瞭でより高周波側に伸びる分散曲線を得られた。3-8 Hzの帯域でレイリー波の基本モードが求められ、基本モードの位相速度を読み取り、1次元S波速度インバージョン解析をおこなった。その結果、約1.3 kmにわたって深さ180 mまでの浅部S波速度構造を解明した。速度構造は地表付近では全体的に軟弱な堆積層が広がっていたが、解析区間の中間から後半へ急激に深部に向かって低速度域が増加する傾向があった。
議論・結論
国道3号沿いでDAS観測を行い、地震波干渉法に基づくTSI法を適用して抽出した表面波から、日奈久断層近傍の浅部S波構造を推定した。解析区間の中間から後半にかけての速度変化は、断層と平行に通っていた国道が徐々に離れていくことによって、強固な火山性の地盤から八代平野の扇状地や三角洲などといった浅部の厚い堆積層へと構造がシフトしていることが要因だと考えられる。S波速度が遅いほど地盤増幅が大きいため、日奈久断層で大規模地震が発生した場合、この地域では大きな被害を受ける可能性がある。被害を抑えるために詳細な浅部構造探査が今後も必要である。
(謝辞)今回の観測にあたりまして、国土交通省九州地方整備局熊本河川国道事務所のご協力のもと、国土交通省所有の光ファイバーケーブルを使用させていただきました。