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[SVC26-04] 蔵王山における深部低周波地震の発生モデル
キーワード:蔵王山、深部低周波地震、地震発生モデル、せん断開口亀裂、火山地震学、深部マグマ供給系
火山性深部低周波地震 (Deep Low-Frequency earthquakes,以降DLF) は最上部マントルから地殻下部における火山性流体の挙動を表すと考えられている.蔵王山では2011年東北地方太平洋沖地震以降,DLFが活発化した.その震源は浅部 (深さ20–28 km) および深部 (深さ28–38 km) にクラスターを形成しており,それぞれVp/Vs領域の側面付近と下部に位置する (Okada et al., 2015).両クラスターともにS/Pスペクトル比に基づく発震機構は等方成分に卓越し,偏差成分を含む (Ikegaya and Yamamoto, 2021).池谷・山本 (2023, 火山学会) は初動から後続相におけるS波とP波のエネルギーの時間積分の比(以降,S/P比)の時間変化から,初動付近のdouble couple (DC) 成分とより継続時間の長いnon-DC成分からなるDLFの発生過程を示した.この結果から,従来提案されているDLFの発生モデルの中で,開口亀裂の振動と断層すべりの組合せからなるせん断開口亀裂モデル (tensile-shear crack) が蔵王山のDLFの発生モデルとして最適であると考えられる.本発表では,せん断開口亀裂モデルの詳細および深部マグマの挙動を検討した結果を報告する.
本研究では,蔵王山のDLFの発生モデルとして,単一と複数のせん断開口亀裂モデルのどちらがより妥当かを次の2つの側面から議論した.第一に,Hudson et al. (1989) のソースタイププロットにおいて,各モデルがとりうる値の範囲を比較した.第二に,各モデルから計算されるS/P比の時間変化の減少量を比較した.ソースタイププロットの計算では,単一のせん断開口亀裂モデルとして,開口亀裂とそれから45°傾いたせん断亀裂のモーメントテンソルを仮定した.また,複数のせん断開口亀裂モデルとして,DCと向きがランダムな複数の開口亀裂のモーメントテンソルの組み合わせを仮定した.この時,2つのモーメントテンソルの主軸の向きは共通とした.次にS/P比の時間変化の計算では,単一および複数のせん断開口亀裂モデルに対して,等方成分/CLVD成分の比をそれぞれ,5/4,0.57/0.26とした.前者は開口亀裂のモーメントテンソル,後者は浅部クラスターの発震機構の推定結果に基づき設定した.Green関数の計算では,波数積分法 (Saikia, 1994) と1次元地震波速度構造のJMA2001 (Ueno et al., 2002) を用いた.
観測データから推定されたDLFのソースタイププロットの値は,様々な向きをもつ複数のせん断開口亀裂モデルでのみ説明できることがわかった.その開口亀裂の向きのばらつきは,深部クラスターでは20°以上,浅部クラスターでは42°以上と推定された.複数のせん断開口亀裂モデルによるS/P比の時間変化は,単一のせん断開口亀裂モデルよりもS/P比の減少量が大きく,観測結果をよりよく説明した.これらの結果から,複数のせん断開口亀裂モデルがより妥当なモデルであると考えられる.さらに,蔵王山のDLFのDC成分が初動に集中し,等方成分が大きいことを説明するためには,外的応力によって複数のせん断開口亀裂がほぼ同時的に破壊するモデルを考える必要がある.一方,流体で満たされた亀裂内における圧力伝播や動的な応力変化によって連鎖的に破壊が伝播するモデルでは,そのような観測事実を説明することは難しい.Ikegaya and Yamamoto (2021) はDLFの活動の活発化が深部から浅部クラスターへ遷移したことから,深部マグマだまりへマグマ供給があったことを示した.したがって,深部マグマだまり周辺では,マグマ供給により生じた外的応力が複数のせん断開口亀裂を振動させていると考えられる.
本研究はDLFの初動から後続相のS/P比の時間変化に基づき,深部マグマの挙動を明らかにした.今後,他の火山のDLFに対して同様の解析を行うことで,DLFと深部マグマの挙動の関係の理解が深まることが期待される.
本研究では,蔵王山のDLFの発生モデルとして,単一と複数のせん断開口亀裂モデルのどちらがより妥当かを次の2つの側面から議論した.第一に,Hudson et al. (1989) のソースタイププロットにおいて,各モデルがとりうる値の範囲を比較した.第二に,各モデルから計算されるS/P比の時間変化の減少量を比較した.ソースタイププロットの計算では,単一のせん断開口亀裂モデルとして,開口亀裂とそれから45°傾いたせん断亀裂のモーメントテンソルを仮定した.また,複数のせん断開口亀裂モデルとして,DCと向きがランダムな複数の開口亀裂のモーメントテンソルの組み合わせを仮定した.この時,2つのモーメントテンソルの主軸の向きは共通とした.次にS/P比の時間変化の計算では,単一および複数のせん断開口亀裂モデルに対して,等方成分/CLVD成分の比をそれぞれ,5/4,0.57/0.26とした.前者は開口亀裂のモーメントテンソル,後者は浅部クラスターの発震機構の推定結果に基づき設定した.Green関数の計算では,波数積分法 (Saikia, 1994) と1次元地震波速度構造のJMA2001 (Ueno et al., 2002) を用いた.
観測データから推定されたDLFのソースタイププロットの値は,様々な向きをもつ複数のせん断開口亀裂モデルでのみ説明できることがわかった.その開口亀裂の向きのばらつきは,深部クラスターでは20°以上,浅部クラスターでは42°以上と推定された.複数のせん断開口亀裂モデルによるS/P比の時間変化は,単一のせん断開口亀裂モデルよりもS/P比の減少量が大きく,観測結果をよりよく説明した.これらの結果から,複数のせん断開口亀裂モデルがより妥当なモデルであると考えられる.さらに,蔵王山のDLFのDC成分が初動に集中し,等方成分が大きいことを説明するためには,外的応力によって複数のせん断開口亀裂がほぼ同時的に破壊するモデルを考える必要がある.一方,流体で満たされた亀裂内における圧力伝播や動的な応力変化によって連鎖的に破壊が伝播するモデルでは,そのような観測事実を説明することは難しい.Ikegaya and Yamamoto (2021) はDLFの活動の活発化が深部から浅部クラスターへ遷移したことから,深部マグマだまりへマグマ供給があったことを示した.したがって,深部マグマだまり周辺では,マグマ供給により生じた外的応力が複数のせん断開口亀裂を振動させていると考えられる.
本研究はDLFの初動から後続相のS/P比の時間変化に基づき,深部マグマの挙動を明らかにした.今後,他の火山のDLFに対して同様の解析を行うことで,DLFと深部マグマの挙動の関係の理解が深まることが期待される.