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[SVC26-14] アナログ砂箱実験から得られたカルデラ境界断層の形成過程に関する新たな知見
キーワード:カルデラ陥没、アナログモデル、環状断層、ダウンサグ、トラップドア陥没
〇緒言
カルデラは地下のマグマ溜まりが収縮あるいは減圧し,その天井をなす地殻が自重で沈降することで生じる陥没構造である.陥没する地殻ブロックの辺縁には環状断層(以下,カルデラ境界断層)が生じ,この断層の運動に伴い陥没地形が発達する[1].また,カルデラ境界断層が火道の役割を果たし,大規模な火砕流噴火をもたらす[2].したがって,カルデラの形成と火山活動の推移を理解するためには,カルデラ境界断層の構造とその発達過程の解明が必要である.
カルデラ境界断層などの地下構造は直接観察できないため,相似則に基づいて実物を縮小再現するアナログ砂箱実験がしばしば行われる.これまでのアナログ砂箱実験の結果,カルデラ陥没量が累積するにつれ,断層を伴わない地殻のたわみ変形(ダウンサグ),カルデラの外側へ傾斜する逆断層(Outward-Dipping Reverse Fault; ODRF),カルデラの内側へ傾斜する正断層(Inward-Dipping Normal Fault; IDNF)が順に発達することが分かっている[1].さらに,近年の画像解析技術の普及により,カルデラ境界断層形成過程の詳細な解析が可能となりつつある[3].そこで本研究は,アナログ砂箱実験におけるカルデラ境界断層形成過程の再現と,画像解析技術を用いた解析を行う.そして,その結果を基にカルデラ境界断層形成過程のより詳細なモデル化を試みる.
〇手法
直径1–10 kmのカルデラを直径10 cm程度,すなわち10-4–10-5の縮尺で再現する.砂箱は透明アクリル板製で,これに地殻アナログを敷き詰める.地殻アナログとして,自然界の地殻を10-4–10-5縮尺で再現するにあたり適切な物性である,7号乾燥硅砂と小麦粉を重量比5:1で混合したものを用いる.砂箱底面にはマグマ溜まりのアナログとして,発泡スチロール製の半円柱(直径10 cm)を,断面が手前側壁面に接するように設置する.このマグマ溜まりアナログを電動ジャッキで最大5 cmまで引き下げ,地殻アナログの陥没,すなわちカルデラの形成を再現する.
砂箱の側方と頂部に設置したデジタルカメラで,地殻アナログの断面と平面の変化を動画撮影する.この動画をPIVソフトに供し,地殻アナログの運動状態を解析する.また,マグマ溜まりアナログの引き下げ量が1 cm増加する毎に,地殻アナログ平面を写真測量し,地殻アナログの地形変化を観察する.以上の観察・解析結果を総合し,カルデラ境界断層形成過程の解釈を行う.
〇結果・考察
地殻アナログ平面と断面の運動状態,ならびに,地形変化の総合解釈はFig. 1の通りである.マグマ溜まりの収縮量が大きくなると,Fig. 1AからFの順で,地下の構造と地表の変動が生じる.
A:マグマ溜まり直上におけるダウンサグの発生.
B:マグマ溜まり肩部における,外側へ傾斜する逆断層(ODRF)の発生.地表のダウンサグの拡大,ダウンサグ発生域内の最大水平変位速度分布位置の収束.
C:ODRF一部の地表到達と円弧状逆断層の成立,および円弧状逆断層に向かう地表の傾動(トラップドア陥没).
D:ODRF全体の地表到達と環状逆断層の成立,および地表の鉛直下方への変位(ピストン陥没).
E:ODRF上盤側における,内側へ傾斜する正断層(IDNF)の発生と円弧状正断層の成立.断層内側ブロックの斜め下方への変位(トラップドア陥没).
F:IDNFの全周への伝播と環状正断層の成立.断層内側ブロックのピストン陥没.
本研究で得られた新知見として,① マグマ溜まりの収縮とともに,ダウンサグの面積は拡大する一方,最大変位速度の現れる位置は,ODRFの発生とともにその近傍へ局在化する,② マグマ溜まりの均一な収縮時にも,ODRFおよびIDNFの形成初期にトラップドア陥没が生じる,の2点が挙げられる.特に前者は,ダウンサグの変動が,伏在するカルデラ境界断層の発達の程度,ひいてはカルデラ形成と大規模火砕流噴火の切迫度を推定する手掛かりとなることを示唆する.また後者は,トラップドア型カルデラの地下の断層構造や,マグマの動態を推定する新たな手掛かりとなり得る.
以上の観察結果は,火山活動の推移予測や地下構造の復元に寄与すると期待される.今後はマグマの流動や火山体の地形を再現した実験を行い,それらの効果の検討によるモデルの高度化が必要である.
[1] Acocella (2007). Earth Sci. Rev., 85, 125–160.
[2] Geshi et al. (2023). Sci. Rep., 13, 7463.
[3] Liu et al. (2019). Earth Planet. Sci. Lett., 526, 115784.
カルデラは地下のマグマ溜まりが収縮あるいは減圧し,その天井をなす地殻が自重で沈降することで生じる陥没構造である.陥没する地殻ブロックの辺縁には環状断層(以下,カルデラ境界断層)が生じ,この断層の運動に伴い陥没地形が発達する[1].また,カルデラ境界断層が火道の役割を果たし,大規模な火砕流噴火をもたらす[2].したがって,カルデラの形成と火山活動の推移を理解するためには,カルデラ境界断層の構造とその発達過程の解明が必要である.
カルデラ境界断層などの地下構造は直接観察できないため,相似則に基づいて実物を縮小再現するアナログ砂箱実験がしばしば行われる.これまでのアナログ砂箱実験の結果,カルデラ陥没量が累積するにつれ,断層を伴わない地殻のたわみ変形(ダウンサグ),カルデラの外側へ傾斜する逆断層(Outward-Dipping Reverse Fault; ODRF),カルデラの内側へ傾斜する正断層(Inward-Dipping Normal Fault; IDNF)が順に発達することが分かっている[1].さらに,近年の画像解析技術の普及により,カルデラ境界断層形成過程の詳細な解析が可能となりつつある[3].そこで本研究は,アナログ砂箱実験におけるカルデラ境界断層形成過程の再現と,画像解析技術を用いた解析を行う.そして,その結果を基にカルデラ境界断層形成過程のより詳細なモデル化を試みる.
〇手法
直径1–10 kmのカルデラを直径10 cm程度,すなわち10-4–10-5の縮尺で再現する.砂箱は透明アクリル板製で,これに地殻アナログを敷き詰める.地殻アナログとして,自然界の地殻を10-4–10-5縮尺で再現するにあたり適切な物性である,7号乾燥硅砂と小麦粉を重量比5:1で混合したものを用いる.砂箱底面にはマグマ溜まりのアナログとして,発泡スチロール製の半円柱(直径10 cm)を,断面が手前側壁面に接するように設置する.このマグマ溜まりアナログを電動ジャッキで最大5 cmまで引き下げ,地殻アナログの陥没,すなわちカルデラの形成を再現する.
砂箱の側方と頂部に設置したデジタルカメラで,地殻アナログの断面と平面の変化を動画撮影する.この動画をPIVソフトに供し,地殻アナログの運動状態を解析する.また,マグマ溜まりアナログの引き下げ量が1 cm増加する毎に,地殻アナログ平面を写真測量し,地殻アナログの地形変化を観察する.以上の観察・解析結果を総合し,カルデラ境界断層形成過程の解釈を行う.
〇結果・考察
地殻アナログ平面と断面の運動状態,ならびに,地形変化の総合解釈はFig. 1の通りである.マグマ溜まりの収縮量が大きくなると,Fig. 1AからFの順で,地下の構造と地表の変動が生じる.
A:マグマ溜まり直上におけるダウンサグの発生.
B:マグマ溜まり肩部における,外側へ傾斜する逆断層(ODRF)の発生.地表のダウンサグの拡大,ダウンサグ発生域内の最大水平変位速度分布位置の収束.
C:ODRF一部の地表到達と円弧状逆断層の成立,および円弧状逆断層に向かう地表の傾動(トラップドア陥没).
D:ODRF全体の地表到達と環状逆断層の成立,および地表の鉛直下方への変位(ピストン陥没).
E:ODRF上盤側における,内側へ傾斜する正断層(IDNF)の発生と円弧状正断層の成立.断層内側ブロックの斜め下方への変位(トラップドア陥没).
F:IDNFの全周への伝播と環状正断層の成立.断層内側ブロックのピストン陥没.
本研究で得られた新知見として,① マグマ溜まりの収縮とともに,ダウンサグの面積は拡大する一方,最大変位速度の現れる位置は,ODRFの発生とともにその近傍へ局在化する,② マグマ溜まりの均一な収縮時にも,ODRFおよびIDNFの形成初期にトラップドア陥没が生じる,の2点が挙げられる.特に前者は,ダウンサグの変動が,伏在するカルデラ境界断層の発達の程度,ひいてはカルデラ形成と大規模火砕流噴火の切迫度を推定する手掛かりとなることを示唆する.また後者は,トラップドア型カルデラの地下の断層構造や,マグマの動態を推定する新たな手掛かりとなり得る.
以上の観察結果は,火山活動の推移予測や地下構造の復元に寄与すると期待される.今後はマグマの流動や火山体の地形を再現した実験を行い,それらの効果の検討によるモデルの高度化が必要である.
[1] Acocella (2007). Earth Sci. Rev., 85, 125–160.
[2] Geshi et al. (2023). Sci. Rep., 13, 7463.
[3] Liu et al. (2019). Earth Planet. Sci. Lett., 526, 115784.