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[SVC26-P09] 焼岳,岩坪谷噴気孔のガス組成から推定される山体内部のガス輸送システム
北アルプス南部に位置する焼岳は,1907-39年に水蒸気噴火を繰り返し,1962-63年に山頂北側斜面で水蒸気噴火を起こして以降噴火へは至っていないものの,活発な噴気活動や地震活動の認められる活火山である.山頂付近には北峰の南側や,北東側斜面に位置する1962-63火口,東側に位置する醇ケ池火口など,複数の地点で噴気活動が確認され,我々は2013年から噴気孔の温度・ガス観測を行ってきた(齋藤ほか,2019).山頂の約500m南西側に位置する岩坪谷噴気孔は,登山道から大きく外れて位置し,急峻な地形に囲まれていることもあり,噴気に接近した観測を行えていなかった.2022年に検知管と火山ガス多成分観測装置(マルチガス:Shinohara, 2005)を用いた噴気の風下での遠隔観測を行ったところ,他の噴気孔に比べて高いH2,SO2濃度を有していることがわかり,焼岳の噴気の中でも最もマグマ性流体の影響を強く受けている可能性が示されていた(齋藤ほか,2022).今回,岩坪谷噴気孔へアクセスし,噴気孔の出口温度と噴気採取を行った.新たに得られた岩坪谷噴気のガス組成から推定される山体内部のガス輸送システムに着目して報告する.
岩坪谷噴気孔は,北峰南の下堀沢溶岩最北部を西にトラバースし,山体南西部の斜面を標高で約100m下った岩坪谷源頭部の標高2170m付近に位置する.2022年の現地観測では,噴出孔が2021年と比べて約5m高い位置に移動し,約1m離れた2か所から勢いの強い噴気が放出されていた.2023年の観測では,片方の噴気が止まり1か所からのみ強い噴気が放出されていた.噴気孔の最大温度は約101℃と北峰南の温度(110℃)よりも低い値を示した.勢いの強い噴気孔から噴気試料を注射器に採取し(網田・大沢,2001),実験室で化学組成分析を行った.その結果,岩坪谷噴気はH2,SO2に加え,CO2,Heも北峰南などの他の噴気より富んでいること分かった.He・Ar成分比や噴気凝縮水の水素酸素同位体組成もマグマ性流体の強い影響を受けている領域にプロットされる.CO2/Heは,焼岳の他の噴気と同程度の値を示しており,焼岳に共通のガス供給源に由来すると考える.硫黄を含むガス成分から計算される見かけの平衡温度(AETs,Ohba et al., 1994)は約455℃と,北峰南噴気(約290℃)等の他の噴気よりも高い値を示した.このことも,岩坪谷噴気がより深部の温度条件を保持したまま上昇し,放出されていることを示す.一方で,岩坪谷噴気は他の噴気よりも約10倍高いCH4を示した.やや高濃度のCH4の存在は,北峰南と比べ噴気出口温度が低いこととともに,岩坪谷に供給される深部マグマ性流体ガスが浅部熱水系の影響を受けている可能性を示唆する.
岩坪谷噴気孔は,北峰南の下堀沢溶岩最北部を西にトラバースし,山体南西部の斜面を標高で約100m下った岩坪谷源頭部の標高2170m付近に位置する.2022年の現地観測では,噴出孔が2021年と比べて約5m高い位置に移動し,約1m離れた2か所から勢いの強い噴気が放出されていた.2023年の観測では,片方の噴気が止まり1か所からのみ強い噴気が放出されていた.噴気孔の最大温度は約101℃と北峰南の温度(110℃)よりも低い値を示した.勢いの強い噴気孔から噴気試料を注射器に採取し(網田・大沢,2001),実験室で化学組成分析を行った.その結果,岩坪谷噴気はH2,SO2に加え,CO2,Heも北峰南などの他の噴気より富んでいること分かった.He・Ar成分比や噴気凝縮水の水素酸素同位体組成もマグマ性流体の強い影響を受けている領域にプロットされる.CO2/Heは,焼岳の他の噴気と同程度の値を示しており,焼岳に共通のガス供給源に由来すると考える.硫黄を含むガス成分から計算される見かけの平衡温度(AETs,Ohba et al., 1994)は約455℃と,北峰南噴気(約290℃)等の他の噴気よりも高い値を示した.このことも,岩坪谷噴気がより深部の温度条件を保持したまま上昇し,放出されていることを示す.一方で,岩坪谷噴気は他の噴気よりも約10倍高いCH4を示した.やや高濃度のCH4の存在は,北峰南と比べ噴気出口温度が低いこととともに,岩坪谷に供給される深部マグマ性流体ガスが浅部熱水系の影響を受けている可能性を示唆する.