日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC29] 火山の監視と活動評価

2024年5月31日(金) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:高木 朗充(気象庁気象研究所)、宗包 浩志(国土地理院)、大湊 隆雄(東京大学地震研究所)

17:15 〜 18:45

[SVC29-P03] 2023年の硫黄島の翁浜沖の噴火について

*荒木 陽輔1、菅井 明1、井上 美幸1、山田 基史1藤松 淳1山里 平1、高橋 幸祐1、柳澤 宏彰1関 晋1、手操 佳子1 (1.気象庁)

キーワード:硫黄島、マグマ水蒸気噴火、海底噴火、翁浜、単色微動、空振

硫黄島は小笠原諸島に位置する火山島であり, 気象庁の常時観測火山のひとつである. 島の中北部には台地状の元山, 南端に急傾斜の火砕丘摺鉢山があり, 元山と摺鉢山とは未固結礫層の低い台地(千鳥ヶ原)でつながる. 島内は全体に地温が高く, 多くの噴気地帯, 噴気孔がある. 近年は異常な速さで島全体の隆起が続いており, 島内各所で噴火が発生している.
海上自衛隊硫黄島航空基地隊(以下, 「自衛隊」と記載)によると, 2021年以降は島南の翁浜沖で噴火が繰り返し発生している. 2021年は8月から9月, 2022年は7月から8月, 10月, 12月, 2023年には6月及び, 10月から2024年1月にかけて噴火が発生した. 2022年の噴火では観測史上初めてマグマの噴出が確認された.本発表では, 自衛隊からの現地情報と気象庁の観測データ等に基づき, 2023年に発生した翁浜沖の噴火について紹介する.
6月の噴火は, 2021年, 2022年にも発生した噴火と同規模の小規模な噴火であった. 噴火は数分から十数分に1回程度の頻度で発生し, 噴火地点付近では噴火に伴う変色水や軽石と思われる浮遊物が確認された. 翁浜沖の噴火に伴って, 単色型の火山性微動(TP型微動, 以下「TP型」と記載)が観測されることが知られている(手操他, 2022)が, 6月の噴火活動に際しても, TP型が15日から増加した. 千鳥空振計では, TP型に伴って, 空振が観測された. この噴火に伴う顕著な地殻変動は認められなかった.
10月21日から始まった噴火は, これまでの噴火より規模が大きく, 噴出したマグマにより新たな陸地が形成され拡大した. 自衛隊によると, この噴火では, 黒色の噴出物を含む水柱, 噴煙や白色の噴気が上がる様子も確認された. 噴火活動の初期から茶色の変色水や軽石が確認されており, 10月30日には噴火に伴う噴出物が堆積して新たな陸地が形成されている様子が確認された. 新たな陸地は, 噴火に伴い, 12月上旬にかけて面積が拡大したが, 12月15日頃からは噴火の停止や波浪の浸食により縮小していることが確認されている.噴火活動の初期には数分に1回程度であった噴出間隔は, 11月3日には数秒間隔と短くなり, 4日頃からは身体に感じる程度の爆発音, 空振を伴う数分間隔の噴火へと様式が変化した. 9日から11日までは噴火が一時的に停止したが, 12日から再開し, 12月10日まで数分から数十分間隔で噴火が断続的に発生した. 12月11日から30日まで噴火は停止したが, 31日より再開し, 2024年1月6日まで噴火が断続的に発生した.
噴火に伴い, TP型が10月21日から断続的に多発した. 千鳥空振計では, TP型に伴う空振が観測され, 空振振幅は10月29日頃までは1Pa以下であったが, 30日頃から1~3Pa程度と大きくなるとともに立ち上がりが明瞭になった. その頃から, TP型は振幅が小さくなり減少した. 代わって, 31日頃からは噴火に伴う空振により励起された地震動が観測されるようになり, 11月3日以降多発し, 9日未明まで続いた. 同時期の空振振幅は, 10Paを超えるものも多く観測された. この間のTP型及び空振の変化は,海底での噴火の水深が次第に浅くなって噴火地点が海上に変化したことと対応していると考えられる. 11月12日の噴火再開以降も, 噴火に伴いTP型が発生し, 空振も観測されたが, 空振振幅は11月3日からの活動に比べて小さいものであった. そのなかには,ハーモニックな空振を伴うものもみられた.
この期間、火山性地震は, 11月8日頃から14日にかけて, 及び11月24日から25日にかけてやや増加したが, 噴火に伴う増加は認められなかった. また、GNSS連続観測では, 11月8日頃から14日にかけて, 及び11月24日から25日にかけての火山性地震の増加に同期して, 南北の基線の伸びが一時的に加速した. 11月下旬には元山を中心とする沈降も見られた. これらの変化と噴火活動との関係は不明である.