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[SVC30-P04] 蔵王火山,最新期溶岩類の直方輝石斑晶組織及び組成

キーワード:蔵王、安山岩質溶岩、マグマ混合、時間変化
蔵王火山は東北日本弧火山フロントの中央部に位置する成層火山である.蔵王火山の活動は6つに分けられ,最新の活動期Ⅵは約3.5年前から始まり現在も継続している.最新期の噴出物は火砕岩と溶岩からなるが,溶岩に関しては研究がそれほど進んでいなかった.私たちはこれまでに最新期溶岩類の記載岩石学的な特徴と全岩化学組成について明らかにしてきた.今回は最新期溶岩類の輝石斑晶の組織と化学組成について報告する.
最新期溶岩類は約3.5万年前の最初期に噴出した濁川溶岩(Ngl),約3–1万年前の濁川上流溶岩(Nul),五色岳東方溶岩類(Gel),約1万年前以降の振子滝溶岩(Fkl),五色岳南方溶岩(Gsl)がある.岩石はかんらん石斑晶を含まないGelを除き,かんらん石含有両輝石玄武岩質安山岩~安山岩である.Ngl,NulとGel,GslとFklのSiO2量は,各々55–56wt. %,54–57wt. %,57.5–58wt. %である.またNglはNulとGelに比べて,K2O, Rb, Ba, Zr, TiO2量がやや高く,MgO, Cr, Ni量がやや低い.モード組成では輝石量にやや差があり,Ngl,FklとGslは約5wt. %であるのに対し,NulとGelは約6–11wt. %とやや多い.なお,全ての溶岩は溶融組織を持つ斜長石が含まれることなどから,混合岩であると考えられる.
直方輝石斑晶の組織・化学組成による分類
直方輝石斑晶は自形性の良いものが多いが,溶岩によっては半自形~他形のものも一部ある.
直方輝石斑晶は累帯構造の特徴からHomogeneous(Hタイプ),Broad(Bタイプ),Medium(Mタイプ),Thin(Tタイプ),Oscillatory(Osタイプ)の5つのタイプに分類できる.Hは斑晶全体が均質なものである.B,M,Tはリム付近に中~高Mg帯を持つ斑晶で,その幅は各々> 50 μm,30–50 μm,< 20 μmである.Osはコアが高Mgあるいは低Mgで,組成波動累帯を繰り返すものである.高Mg帯はM相当で,T相当はリムにしかない.なお,高Mg帯の外側はより低Mgの部分が成長していることが多い.
各組織タイプのMg#は次の通りである.Hは低Mg#(約62–65),中Mg#(約66–68),高Mg#(約69以上)のものがある.B,M,Tは,Gelの一部を除いて,コアが低Mg#であり,高Mg帯はB,Mは中~高Mg#で,Tは高Mg#である.Osのコアは低Mg#と高Mg#の場合があり,波動累帯の高Mg部はM相当の場合は中~高Mg#で,T相当の場合は高Mg#である.
グループごとの直方輝石斑晶の特徴
全ての溶岩に概ねどのタイプも存在するが,ユニットによってタイプの割合は大きく異なる.
約3.5万年前のグループ
NglはOsが50%以上を占め,それ以外のタイプの中ではTがやや多く,H,B,Mは非常に少ない.Osの中でもリムにT相当の高Mg帯があるものが半数以上である.NglのOsのコアは低Mg#と高Mg#のものが同程度存在する.
約3–1万年前のグループ
約3–1万年前のNulとGelは他のグループと比較してHが多いことが特徴である.なおOsは少なく,B,M,Tの割合はユニットごとに異なる.T相当のリムを持つ斑晶は30%以下~ほぼないものまである.ユニットごとに見ると,NulはB,M,TはHと同程度に存在する.Gelは,Hが60%を超えTが約20%でBとMは僅かなもの,Nulと似たタイプ割合のもの,Hがほとんどのものである.Hのコア組成はNulでは低Mg#,Gelでは低Mg#,低~中Mg#,高Mg#のものがある.最後のものは,詳しく見るとやや組成不均質性が認められる.
約1万年前のグループ
約1万年前以降のFklとGslはBとMが全体の75%以上を占め,HやTはほとんどない.なお,FklはMよりもBが多く,Gslはその逆である.少量含まれるHは中~高Mg#である.
最新期溶岩類の直方輝石に記録されたマグマプロセス
上記のようにグループごとに直方輝石の組織・化学組成の特徴が異なっており,それは供給系内マグマプロセスの違いを反映していると考えられる.低Mg#コアを持つ斑晶,及び中~高Mg#の高Mg帯を持つ斑晶が多くのユニットで認められることから,浅部珪長質マグマ溜りに深部由来の苦鉄質マグマが組成を変化させながら注入し,その注入は繰り返されることがあり,その後に均質化が進むというマグマ供給系の基本構成が考えられる.BやMは過去の深部からのマグマ注入,Tは噴火直前の噴火を引き起こしたマグマ注入を記録していると考えられる.
NglはOsが多いことから,珪長質のマグマだまりへの深部からのマグマの注入が,噴火以前に過去に複数回あったと考えられる.NulとGelはHが多いことが特徴である.これは深部から注入してきたマグマについて,直接的な混合よりも熱源としての寄与が他のグループより大きかったと考えられる.またMやTの割合が異なるため,寄与の程度は溶岩によって差があったことが示唆される.なお,一部の溶岩のHは高Mg# コアを持つが,これは深部由来のマグマ注入後,非常に均質化が進んだ可能性が考えられる.FklとGslはBやMが多くTが少ないことから,過去の注入は1回のみ記録され,また噴火を引き起こしたマグマ注入は輝石組成にあまり影響を与えないものであったと考えられる.
最新期溶岩類は約3.5万年前の最初期に噴出した濁川溶岩(Ngl),約3–1万年前の濁川上流溶岩(Nul),五色岳東方溶岩類(Gel),約1万年前以降の振子滝溶岩(Fkl),五色岳南方溶岩(Gsl)がある.岩石はかんらん石斑晶を含まないGelを除き,かんらん石含有両輝石玄武岩質安山岩~安山岩である.Ngl,NulとGel,GslとFklのSiO2量は,各々55–56wt. %,54–57wt. %,57.5–58wt. %である.またNglはNulとGelに比べて,K2O, Rb, Ba, Zr, TiO2量がやや高く,MgO, Cr, Ni量がやや低い.モード組成では輝石量にやや差があり,Ngl,FklとGslは約5wt. %であるのに対し,NulとGelは約6–11wt. %とやや多い.なお,全ての溶岩は溶融組織を持つ斜長石が含まれることなどから,混合岩であると考えられる.
直方輝石斑晶の組織・化学組成による分類
直方輝石斑晶は自形性の良いものが多いが,溶岩によっては半自形~他形のものも一部ある.
直方輝石斑晶は累帯構造の特徴からHomogeneous(Hタイプ),Broad(Bタイプ),Medium(Mタイプ),Thin(Tタイプ),Oscillatory(Osタイプ)の5つのタイプに分類できる.Hは斑晶全体が均質なものである.B,M,Tはリム付近に中~高Mg帯を持つ斑晶で,その幅は各々> 50 μm,30–50 μm,< 20 μmである.Osはコアが高Mgあるいは低Mgで,組成波動累帯を繰り返すものである.高Mg帯はM相当で,T相当はリムにしかない.なお,高Mg帯の外側はより低Mgの部分が成長していることが多い.
各組織タイプのMg#は次の通りである.Hは低Mg#(約62–65),中Mg#(約66–68),高Mg#(約69以上)のものがある.B,M,Tは,Gelの一部を除いて,コアが低Mg#であり,高Mg帯はB,Mは中~高Mg#で,Tは高Mg#である.Osのコアは低Mg#と高Mg#の場合があり,波動累帯の高Mg部はM相当の場合は中~高Mg#で,T相当の場合は高Mg#である.
グループごとの直方輝石斑晶の特徴
全ての溶岩に概ねどのタイプも存在するが,ユニットによってタイプの割合は大きく異なる.
約3.5万年前のグループ
NglはOsが50%以上を占め,それ以外のタイプの中ではTがやや多く,H,B,Mは非常に少ない.Osの中でもリムにT相当の高Mg帯があるものが半数以上である.NglのOsのコアは低Mg#と高Mg#のものが同程度存在する.
約3–1万年前のグループ
約3–1万年前のNulとGelは他のグループと比較してHが多いことが特徴である.なおOsは少なく,B,M,Tの割合はユニットごとに異なる.T相当のリムを持つ斑晶は30%以下~ほぼないものまである.ユニットごとに見ると,NulはB,M,TはHと同程度に存在する.Gelは,Hが60%を超えTが約20%でBとMは僅かなもの,Nulと似たタイプ割合のもの,Hがほとんどのものである.Hのコア組成はNulでは低Mg#,Gelでは低Mg#,低~中Mg#,高Mg#のものがある.最後のものは,詳しく見るとやや組成不均質性が認められる.
約1万年前のグループ
約1万年前以降のFklとGslはBとMが全体の75%以上を占め,HやTはほとんどない.なお,FklはMよりもBが多く,Gslはその逆である.少量含まれるHは中~高Mg#である.
最新期溶岩類の直方輝石に記録されたマグマプロセス
上記のようにグループごとに直方輝石の組織・化学組成の特徴が異なっており,それは供給系内マグマプロセスの違いを反映していると考えられる.低Mg#コアを持つ斑晶,及び中~高Mg#の高Mg帯を持つ斑晶が多くのユニットで認められることから,浅部珪長質マグマ溜りに深部由来の苦鉄質マグマが組成を変化させながら注入し,その注入は繰り返されることがあり,その後に均質化が進むというマグマ供給系の基本構成が考えられる.BやMは過去の深部からのマグマ注入,Tは噴火直前の噴火を引き起こしたマグマ注入を記録していると考えられる.
NglはOsが多いことから,珪長質のマグマだまりへの深部からのマグマの注入が,噴火以前に過去に複数回あったと考えられる.NulとGelはHが多いことが特徴である.これは深部から注入してきたマグマについて,直接的な混合よりも熱源としての寄与が他のグループより大きかったと考えられる.またMやTの割合が異なるため,寄与の程度は溶岩によって差があったことが示唆される.なお,一部の溶岩のHは高Mg# コアを持つが,これは深部由来のマグマ注入後,非常に均質化が進んだ可能性が考えられる.FklとGslはBやMが多くTが少ないことから,過去の注入は1回のみ記録され,また噴火を引き起こしたマグマ注入は輝石組成にあまり影響を与えないものであったと考えられる.