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[SVC30-P11] 溶岩樹型の形状から溶岩流の温度と流速及び流動挙動を推定する試み
キーワード:溶岩樹型、溶岩流、富士火山
[はじめに]
富士山の裾野には多くの溶岩流あとに溶岩樹型(写真1~4)が残されている. ここでは, その溶岩樹型の深さ,不動と呼ばれる突起物の寸法から,溶岩流の温度,流速及び流動挙動の指標となる無次元パラメータ(レイノルズ数,ビンガム数,ヘドストロム数)の推定を試みた.検討対象は東臼塚南溶岩流で東臼塚スコリア丘の山腹最下部付近から南に続く約2km程度の割れ目からAD870頃に流出した珪酸重量51%の溶岩流である[1]. 最近の調査により,噴出口近くから溶岩末端部までの全長4kmほどの距離に渡って溶岩樹型72個の位置・深さ・不動と呼ばれる突起の高さ等が計測された[2,3].図1に計測した溶岩樹型の分布を示す[2,3].これらのデータ[2,3]に基づいて以下の検討を行った.
[溶岩流の温度,流速及び流動挙動の推定の方法]
図2に溶岩樹型の断面のモデル図を示す. 火口からの溶岩噴出により傾斜角度αの斜面を流れる厚さHの溶岩流が立ち木を襲い,その後噴出が止まり溶岩が厚さhBで停止した状態を示している. 樹型の不動と呼ばれる突起物の高さはH-hBである.図3に推定の検討手順を示す.溶岩流をビンガム流体とすると,溶岩流停止厚さhBから降伏値fB=hB(ρgsinα)を得ることができる(ここでρ=2.5g/cm3,g=980cm/sec2).あらかじめ得られている溶岩降伏値の温度依存式から温度が分かり,その温度から,あらかじめ得られている溶岩粘性係数の温度依存式から粘性係数を得ることができる.これにより斜面を流れた溶岩流の最大流速u=(H-hB)2[(ρgsinα)/2ηB]が分かり,レイノルズ数:Re=ρuH/ηB,ビンガム数:B=fBH/ηBu,ヘドストロム数:He=Re・B=ρfBuH2/ηB2の推定を行うことができる.
[溶岩降伏値と粘性係数の温度依存式について]
ここでは,伊豆大島三原山1951年溶岩流における,石原他[4]の降伏値温度依存式
logfB=13.67-0.0089θ(fBの単位はdyne/cm2), Minakami[5]の粘性係数温度依存式logηB=24.255-0.0181θ(ηBの単位はpoise),を利用した.
[推定結果とまとめ]
推定は最上流の樹型から最下流の樹型を含む4ケースの樹型:HUM-1,HUM-22,HUM-50,HUM-69について行った. それぞれの位置を図1に,推定条件と結果を表1に示す. 上流から下流にかけて不動高さは減少し(1.1m → 0m), 樹型深さが増大している(1.1m → 3.0m).それに対応して温度,流速が低下し(1015℃→996℃,3.1cm/sec → 0cm/sec),粘性係数,降伏値が増加している(7.6x105poise →1.7x106poise,
4.3x104dyne/cm2 →6.4x105dyne/cm2).それぞれのレイノルズ数,ビンガム数,ヘドストロム数も表1に示した.
参考文献:
[1]高田亮,山元孝広,石塚吉浩,中野俊(2016):富士火山地質図(第2版)・説明書,産総研,地質調査総合センター
[2]本多力,勝間田隆吉,畑中将,川村一之(2020): P11 富士山・東臼塚南溶岩流の流動停止時の降伏値,温度,粘性係数の推定.日本火山学会秋季大会
[3]本多力,畑中将,勝間田隆吉,川村一之(2020):富士南麓・東臼塚南溶岩流の樹型による溶岩降伏値と溶岩流速の推定,ケイビングジャーナル,2020.8 No.69.p42-45
[4]石原和弘,井口正人,加茂幸介(1988):数値計算による1986年伊豆大島溶岩流の再現,火山,第2集,第33巻,伊豆大島噴火特集号,S64-S76
[5]Takeshi Minakami(1951):On the temperature and Viscosity of the Fresh Lava Extruded in the1951 Oo-shimaEruption, Bulletin of the Earthquake Research Institute, University of Tokyo(東大地震研彙報)29,487
富士山の裾野には多くの溶岩流あとに溶岩樹型(写真1~4)が残されている. ここでは, その溶岩樹型の深さ,不動と呼ばれる突起物の寸法から,溶岩流の温度,流速及び流動挙動の指標となる無次元パラメータ(レイノルズ数,ビンガム数,ヘドストロム数)の推定を試みた.検討対象は東臼塚南溶岩流で東臼塚スコリア丘の山腹最下部付近から南に続く約2km程度の割れ目からAD870頃に流出した珪酸重量51%の溶岩流である[1]. 最近の調査により,噴出口近くから溶岩末端部までの全長4kmほどの距離に渡って溶岩樹型72個の位置・深さ・不動と呼ばれる突起の高さ等が計測された[2,3].図1に計測した溶岩樹型の分布を示す[2,3].これらのデータ[2,3]に基づいて以下の検討を行った.
[溶岩流の温度,流速及び流動挙動の推定の方法]
図2に溶岩樹型の断面のモデル図を示す. 火口からの溶岩噴出により傾斜角度αの斜面を流れる厚さHの溶岩流が立ち木を襲い,その後噴出が止まり溶岩が厚さhBで停止した状態を示している. 樹型の不動と呼ばれる突起物の高さはH-hBである.図3に推定の検討手順を示す.溶岩流をビンガム流体とすると,溶岩流停止厚さhBから降伏値fB=hB(ρgsinα)を得ることができる(ここでρ=2.5g/cm3,g=980cm/sec2).あらかじめ得られている溶岩降伏値の温度依存式から温度が分かり,その温度から,あらかじめ得られている溶岩粘性係数の温度依存式から粘性係数を得ることができる.これにより斜面を流れた溶岩流の最大流速u=(H-hB)2[(ρgsinα)/2ηB]が分かり,レイノルズ数:Re=ρuH/ηB,ビンガム数:B=fBH/ηBu,ヘドストロム数:He=Re・B=ρfBuH2/ηB2の推定を行うことができる.
[溶岩降伏値と粘性係数の温度依存式について]
ここでは,伊豆大島三原山1951年溶岩流における,石原他[4]の降伏値温度依存式
logfB=13.67-0.0089θ(fBの単位はdyne/cm2), Minakami[5]の粘性係数温度依存式logηB=24.255-0.0181θ(ηBの単位はpoise),を利用した.
[推定結果とまとめ]
推定は最上流の樹型から最下流の樹型を含む4ケースの樹型:HUM-1,HUM-22,HUM-50,HUM-69について行った. それぞれの位置を図1に,推定条件と結果を表1に示す. 上流から下流にかけて不動高さは減少し(1.1m → 0m), 樹型深さが増大している(1.1m → 3.0m).それに対応して温度,流速が低下し(1015℃→996℃,3.1cm/sec → 0cm/sec),粘性係数,降伏値が増加している(7.6x105poise →1.7x106poise,
4.3x104dyne/cm2 →6.4x105dyne/cm2).それぞれのレイノルズ数,ビンガム数,ヘドストロム数も表1に示した.
参考文献:
[1]高田亮,山元孝広,石塚吉浩,中野俊(2016):富士火山地質図(第2版)・説明書,産総研,地質調査総合センター
[2]本多力,勝間田隆吉,畑中将,川村一之(2020): P11 富士山・東臼塚南溶岩流の流動停止時の降伏値,温度,粘性係数の推定.日本火山学会秋季大会
[3]本多力,畑中将,勝間田隆吉,川村一之(2020):富士南麓・東臼塚南溶岩流の樹型による溶岩降伏値と溶岩流速の推定,ケイビングジャーナル,2020.8 No.69.p42-45
[4]石原和弘,井口正人,加茂幸介(1988):数値計算による1986年伊豆大島溶岩流の再現,火山,第2集,第33巻,伊豆大島噴火特集号,S64-S76
[5]Takeshi Minakami(1951):On the temperature and Viscosity of the Fresh Lava Extruded in the1951 Oo-shimaEruption, Bulletin of the Earthquake Research Institute, University of Tokyo(東大地震研彙報)29,487