17:15 〜 18:45
[SVC30-P16] 古地磁気測定による鬼界カルデラ幸屋火砕流堆積物の定置温度
鬼界カルデラは薩摩半島の南方約50 kmに位置し、大部分は海底に存在する活カルデラ火山である。鬼界カルデラでは過去に複数のカルデラ噴火が発生し、大規模火砕流が噴出した(小野・他,1982)。最新の約7300年前の鬼界アカホヤ噴火はプリニー式噴火に始まり、船倉降下軽石と船倉火砕流が堆積した。その後、カルデラ陥没を伴い大規模火砕流である幸屋火砕流が発生し、アカホヤ火山灰が広域に堆積した(小野・他,1982;Maeno and Taniguchi, 2007)。幸屋火砕流堆積物はカルデラ壁である竹島、薩摩硫黄島で層厚30mと厚く堆積し、40-60 km 海を隔てた薩摩半島、大隅半島、種子島、屋久島、口永良部島にも層厚1m以内で薄く堆積する。幸屋火砕流堆積物は、陸上において、薩摩・大隅半島南部の広範囲に極めて薄く堆積していることから、拡散型火砕流として知られてきた(宇井,1973)。また、神戸大学練習船深江丸による反射法地震探査で、周辺の海底にも幸屋火砕流に対応する噴出物が広範囲に厚く堆積することが明らかになった(Shimizu et al., 2024)。しかし、海域で発生した大規模火砕流がどのように海上と海底に分離し流動したか、温度などの定量的な情報を用いた検討はなされていない。本研究では、古地磁気測定から海域を渡った幸屋火砕流堆積物の定置温度を推定し、その流動・堆積様式を明らかにすることを目的とする。試料は薩摩硫黄島で幸屋火砕流堆積物の最下部に含まれるラグブレッチャ部から2地点でそれぞれ10試料(石質岩片と軽石)、火砕流堆積物最下部のマトリックスを1地点で5試料定方位採取した。竹島では火砕流堆積物を4層準からそれぞれ7~9試料(軽石とスコリアと石質岩片)定方位採取した。海域を渡り、カルデラ縁から50〜60km離れた大隅半島ではマトリックス試料を3地点でそれぞれ4~9試料定方位採取した。それぞれの試料に段階熱消磁実験を施し、主成分解析を行った。薩摩硫黄島の幸屋火砕流堆積物の最下部のラグブレッチャ部と火山灰の残留磁化は主に最高消磁温度が590または640℃までの安定した磁化を持ち、その方向が揃うことから590または640℃以上で定置したと推定される。一方、竹島の幸屋火砕流堆積物中の軽石とスコリアと外来岩片は、安定した磁化成分が認められず、高温で定置した証拠は得られなかった。大隅半島で採取したマトリックス試料の残留磁化は主に最高消磁温度が350~550℃の安定した磁化を持ち、その方向が同一地点内で同じ方向に揃うことから、350~550℃で定置したと推定される。
給源近傍の幸屋火砕流堆積物中の火山ガラスの化学組成は、下部では高シリカガラスのみを含み、上部に向かい低シリカガラスの含有量が増加し20%以上に達する。遠方の幸屋火砕流堆積物でも同様に下部は高シリカガラスのみを含み、上部に向かい低シリカガラスは増加するが、その含有量は5%程度である。したがって、幸屋火砕流は、初期は遠方まで到達したが、噴火が進行し低シリカガラスが20%以上まで増加した時には、遠方には到達せず、近傍のみに堆積したと推定される。そのため、幸屋火砕流は噴火初期は給源近傍ではラグブレッチャ部として高温で堆積し、遠方でも高温を保持し堆積したが、噴火が進行するに連れ、給源で外来水などで冷却され近傍のみに低温で堆積した可能性が考えられる。
給源近傍の幸屋火砕流堆積物中の火山ガラスの化学組成は、下部では高シリカガラスのみを含み、上部に向かい低シリカガラスの含有量が増加し20%以上に達する。遠方の幸屋火砕流堆積物でも同様に下部は高シリカガラスのみを含み、上部に向かい低シリカガラスは増加するが、その含有量は5%程度である。したがって、幸屋火砕流は、初期は遠方まで到達したが、噴火が進行し低シリカガラスが20%以上まで増加した時には、遠方には到達せず、近傍のみに堆積したと推定される。そのため、幸屋火砕流は噴火初期は給源近傍ではラグブレッチャ部として高温で堆積し、遠方でも高温を保持し堆積したが、噴火が進行するに連れ、給源で外来水などで冷却され近傍のみに低温で堆積した可能性が考えられる。