[S-VC31] 火山噴火のメカニズム

[SVC31-09] 安山岩質マグマによる溶岩流出噴火を再現する火道流数値モデルの感度解析

*土屋 彰登¹、小園 誠史²、奥村 聡³ (1.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻、2.防災科学技術研究所、3.東北大学大学院理学研究科地学専攻)

キーワード：火道流、溶岩流出噴火、桜島

桜島大正噴火や浅間山天明噴火など、安山岩質マグマによる噴火イベントでは、溶岩が比較的高い噴出率(10⁶～10⁷ kg s^-1程度)で流出する現象が確認されている。このような高流量の溶岩流出やその時間的減衰の根本的な要因は、十分に調べられていない。一般に、噴火様式とマグマ噴出率の関係は、噴火時におけるマグマ上昇過程である火道流によって支配される。そこで本研究では、安山岩質マグマ噴火の代表例である桜島大正噴火における溶岩流出を対象とし、マグマ物性や地質条件が噴出率に与える影響を、火道流数値モデルの感度解析を用いて明らかにすることを試みた。
桜島大正噴火においては、桜島西側火口からの溶岩流の進行が航空写真によって観測されている。この写真データに基づき、石原・他（1985）は当時の溶岩流出における最大噴出率と、噴出率減衰の時間変化を推定している。本研究では、この噴出率の推定値に基づいて溶岩流出の火道流ダイナミクスを検討するために、1次元定常火道流モデルを構築した。このモデルでは、火道内をマグマが上昇する際に生じる揮発性成分の発泡や脱ガス、および結晶化カイネティクスを再現している。また、減圧結晶化実験および岩石学的実験の結果に基づき、平衡結晶度、結晶成長率および液相粘性を、桜島に特化したマグマ物性としてモデルに適用した。この数値モデルは、地下マグマシステムの特徴に関する入力パラメータ（マグマ物性、地質条件）を設定することにより、噴出率を出力することが可能となる。そこで、多変量である入力パラメータに対する火道流モデルの感度解析を行い、平行座標プロットによる結果の可視化から、出力値（噴出率）に対する影響を評価した。
感度解析の結果、桜島大正噴火における最大噴出率を再現するために重要なマグマ物性と地質条件に関するパラメータを導出した。第一に、マグマ粘性を制御するパラメータである最密充填結晶度によって最大噴出率が強く支配されることがわかった。最密充填結晶度が低いほどマグマ粘性は高くなり、効率よく脱ガスが生じる。これにより流れが安定化することで、より高い最大噴出率が得られる。また、桜島大正噴火における実際の最大噴出率を再現するためには、このパラメータの値が0.4程度以下である必要があるという制約が可能となった。第二に、火道壁方向の脱ガス浸透率が増加すると、最大噴出率が効果的に増加することがわかった。この結果は、火道を取り囲む母岩の地質条件が、高流量の溶岩流出が生じる重要な要因であることを示唆している。以上に加えて、弾性変形を考慮したマグマ溜りの圧力変化の定式と火道流数値モデルを組み合わせることで、噴出率の時間的減衰に関する感度解析を行った。この結果、実際の噴出率の時間変化を達成するために必要なマグマ溜り体積の最小値を制約することが可能となった。以上の結果によって、安山岩質マグマによる溶岩流出噴火の空間的・時間的スケールが、火道―マグマ溜りシステムにおける物質科学的・地質学的特性にどのように依存するのかを定量的に明らかにすることができた。