17:15 〜 18:45
[SVC31-P01] Magma ascent and pyroclastic flow formation in 7.6 ka Mashu eruption :Insights from textural and synchrotron analyses of pumice deposit
キーワード:火砕流、酸化、軽石、組織
火砕流のような広範囲に影響が及ぶ噴火は人間社会にも大きな影響を与えることから,火砕流の発生過程を解明することは噴火推移の予測や火山防災・減災において重要である.火砕流は爆発的な噴火が発生した際に噴煙柱が不安定になり,崩壊した際に発生すると考えられている.特に,噴煙柱を形成し維持するためには,マグマの噴出率,噴煙の温度,噴煙が大気を取り込む効率が支配要因であり1,噴煙が大気を取り込み,温度を上昇させることで大気は膨張し,噴煙全体の密度が周囲の大気よりも低下することで噴煙柱が形成・維持される.一方で,マグマの噴出率や噴煙の温度が低下することで噴煙の密度は低下し,噴煙柱は崩壊し,火砕流が発生すると理解されている.高温状態で噴煙が大気を取り込む際に火山噴出物は酸化され,Fe3+/Fe2+比が高くなるのに対し,低温状態ではFe3+/Fe2+比が低下すると考えられる.
北海道東部の阿寒-知床火山列にある摩周火山は,約4万年前から活動を開始し,約7600年前にプリニー式噴火および火砕流噴火を発生させ,カルデラを形成した2, 3.日本におけるカルデラ形成噴火では鬼界カルデラに次いで新しく,強度の大きな噴火を繰り返してきた活動的な火山である.本研究では摩周火山カルデラ形成期の軽石を対象に組織解析と放射光分析を実施し,気泡組織と軽石のFe3+/Fe2+比から火砕流発生に至るまでの噴火推移を解明する.
本研究では約7600年前の摩周カルデラ形成期の降下火砕物(Ma-jからMa-g層)を対象に4地点の露頭で観察を行い,先行研究で報告されている噴出物との対応関係を整理した後,試料を採取した.採取した試料はビーカーにとって超音波洗浄し,110°Cの恒温機で乾燥させ,-4φから2φまでを1φ間隔でふるいにかけた.そのうち-2φ以上の大きさの軽石を抽出し,EPMAおよび放射光分析の試料とした.放射光分析にはタングステン乳鉢で粉砕した軽石を用いた.EPMA分析には光硬化性樹脂にてマウントした後に岩石カッターで切断,研磨して岩石薄片を作成し,鏡面研磨後に炭素蒸着した試料を用いた.
放射光分析はニュースバル放射光施設のビームラインBL-10で実施した.軟X線放射光(〜750 eV)を用いた全電子収量法によってスペクトルを取得し,軽石のFe3+/Fe2+比を推定した.軟X線放射光を用いたFe3+/Fe2+比の推定には湿式分析でFe3+/Fe2+比を定量した標準試料(黒曜石および軽石)を用いてピーク強度とFe3+/Fe2+比との関係を示す検量線を作成し,Ma-g, h, iのFe3+/Fe2+比を見積もった.検量線は709 eV,713 eVおよび723 eV にみられるFeのL3 およびL2由来のピーク4を用いて下記の計算からPeak characterを計算し,湿式分析で得られたFe3+/Fe2+比に基づきPeak characterからFe3+/Fe2+比を推定する検量線を作成した.
Peak character = (I709 / I713 ) × A723 × A713
ここでI はピーク強度, A はGaussianでピーク分離した際の面積を用いた.
Ma-iではFe3+/Fe2+比が10.9から24.5の範囲を示す一方で,Ma-hは9.2から13.1,Ma-gは5.9〜27.5の範囲を示した.また,火砕流に含まれる軽石(Ma-f)のFe3+/Fe2+比は9.6であった.本研究では,軽石の放射光分析と気泡組織に基づき,約7600年前の摩周カルデラ形成期における噴火推移と火砕流の発生過程を議論する.
引用文献
[1] A. W. Woods: Bulletin of Volcanology. 50, 169-193 (1988).
[2] H. Kishimoto, T. Hasegawa, M. Nakagawa, K, Wada: Bulletin of the Volcanological Society of Japan. 54, 15-36 (2009).
[3] T. Hasegawa, S. Shibata, T. Kobayashi, N. Mochizuki, M. Nakagawa, H. Kishimoto: Bulletin of the Volcanological Society of Japan. 66, 187-210 (2021).
[4] S.J. Brotton, R. Shapiro, G. Laan, J. Guo, P. Glans, J. M. Ajello: Journal of Geophysical Research. 112 (2007).
北海道東部の阿寒-知床火山列にある摩周火山は,約4万年前から活動を開始し,約7600年前にプリニー式噴火および火砕流噴火を発生させ,カルデラを形成した2, 3.日本におけるカルデラ形成噴火では鬼界カルデラに次いで新しく,強度の大きな噴火を繰り返してきた活動的な火山である.本研究では摩周火山カルデラ形成期の軽石を対象に組織解析と放射光分析を実施し,気泡組織と軽石のFe3+/Fe2+比から火砕流発生に至るまでの噴火推移を解明する.
本研究では約7600年前の摩周カルデラ形成期の降下火砕物(Ma-jからMa-g層)を対象に4地点の露頭で観察を行い,先行研究で報告されている噴出物との対応関係を整理した後,試料を採取した.採取した試料はビーカーにとって超音波洗浄し,110°Cの恒温機で乾燥させ,-4φから2φまでを1φ間隔でふるいにかけた.そのうち-2φ以上の大きさの軽石を抽出し,EPMAおよび放射光分析の試料とした.放射光分析にはタングステン乳鉢で粉砕した軽石を用いた.EPMA分析には光硬化性樹脂にてマウントした後に岩石カッターで切断,研磨して岩石薄片を作成し,鏡面研磨後に炭素蒸着した試料を用いた.
放射光分析はニュースバル放射光施設のビームラインBL-10で実施した.軟X線放射光(〜750 eV)を用いた全電子収量法によってスペクトルを取得し,軽石のFe3+/Fe2+比を推定した.軟X線放射光を用いたFe3+/Fe2+比の推定には湿式分析でFe3+/Fe2+比を定量した標準試料(黒曜石および軽石)を用いてピーク強度とFe3+/Fe2+比との関係を示す検量線を作成し,Ma-g, h, iのFe3+/Fe2+比を見積もった.検量線は709 eV,713 eVおよび723 eV にみられるFeのL3 およびL2由来のピーク4を用いて下記の計算からPeak characterを計算し,湿式分析で得られたFe3+/Fe2+比に基づきPeak characterからFe3+/Fe2+比を推定する検量線を作成した.
Peak character = (I709 / I713 ) × A723 × A713
ここでI はピーク強度, A はGaussianでピーク分離した際の面積を用いた.
Ma-iではFe3+/Fe2+比が10.9から24.5の範囲を示す一方で,Ma-hは9.2から13.1,Ma-gは5.9〜27.5の範囲を示した.また,火砕流に含まれる軽石(Ma-f)のFe3+/Fe2+比は9.6であった.本研究では,軽石の放射光分析と気泡組織に基づき,約7600年前の摩周カルデラ形成期における噴火推移と火砕流の発生過程を議論する.
引用文献
[1] A. W. Woods: Bulletin of Volcanology. 50, 169-193 (1988).
[2] H. Kishimoto, T. Hasegawa, M. Nakagawa, K, Wada: Bulletin of the Volcanological Society of Japan. 54, 15-36 (2009).
[3] T. Hasegawa, S. Shibata, T. Kobayashi, N. Mochizuki, M. Nakagawa, H. Kishimoto: Bulletin of the Volcanological Society of Japan. 66, 187-210 (2021).
[4] S.J. Brotton, R. Shapiro, G. Laan, J. Guo, P. Glans, J. M. Ajello: Journal of Geophysical Research. 112 (2007).