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[U03-P05] 日本産樹木年輪中のΔ14C・δ13C測定と気象データに基づく1950年以降の東アジア周辺の大気中14C分布に関する研究
キーワード:樹木年輪、放射性炭素同位体比、炭素安定同位体比、亜熱帯ジェット気流、大気圏内核実験、日本
大気圏内核実験以降の1950年代からの放射性炭素(14C)較正曲線は、世界中から取得された大気および樹木年輪セルロース中の放射性炭素同位体比(Δ14C)をもとに整備がなされている。その中で、1955年から1967年頃にかけての突出したΔ14Cのピーク(Bombピーク)値が地域ごとに異なることから、全球を5つの地域(NH zone1, NH zone2, NH zone3, SH zone1~2, SH zone3)に区分した夏の大気中のΔ14Cデータが提供されている。それぞれの地域の境界位置については、極域や亜熱帯のジェット気流の位置などの大気循環を考慮したものとなっている。しかし、東アジア地域では、Bombピークを捉えている樹木年輪セルロース中のΔ14Cデータの不足から、その境界位置の検証がいまだ不十分であり、当該地域の夏の大気循環で重要な役割を担っている亜熱帯ジェット気流の影響は評価されていない。そこで本研究では、九州(熊本)および中部地方中部(木曽)から、それぞれ熊本ヒノキと木曽サワラ試料を新規に取得し、樹木年輪セルロース中のΔ14Cおよび炭素安定同位体比(δ13C)を測定した。そして、δ13Cの気候応答から年輪セルロース中の炭素が年輪形成期の大気情報を記録しているか検証した上で、Δ14Cへの亜熱帯ジェット気流の影響を評価した。
δ13Cの気候応答評価から、中部地方中部で取得されたサワラは、主な年輪形成時期と考えられる6月の日照時間の月合計値と有意な正相関関係にあることを確認することができた。そして、本研究で取得した木曽サワラおよび熊本ヒノキのΔ14Cと、先行研究で報告されている石川クロマツおよび韓国アカマツのΔ14Cを比較したところ、Bomb ピークの立ち上がり時期に相当する1963年に、木曽サワラおよび熊本ヒノキのΔ14Cは相対的に低い値を示すことが明らかになった。これは、亜熱帯ジェット気流が木曽や熊本よりも相対的に北、石川や韓国よりも相対的に南に位置したことにより、Δ14Cが低い値をもつ南の大気の影響を木曽サワラと熊本ヒノキが相対的に強く受けたからだと考えられる。1963年6月頃、日本上空300 hPaの強風軸の北上が相対的に遅いことは観測からも報告されており、この解釈を支持している。本研究で得られた知見は、1950年代以降の東アジア地域における14C較正曲線の地域境界のアップデートの際に役立つと思われる。
δ13Cの気候応答評価から、中部地方中部で取得されたサワラは、主な年輪形成時期と考えられる6月の日照時間の月合計値と有意な正相関関係にあることを確認することができた。そして、本研究で取得した木曽サワラおよび熊本ヒノキのΔ14Cと、先行研究で報告されている石川クロマツおよび韓国アカマツのΔ14Cを比較したところ、Bomb ピークの立ち上がり時期に相当する1963年に、木曽サワラおよび熊本ヒノキのΔ14Cは相対的に低い値を示すことが明らかになった。これは、亜熱帯ジェット気流が木曽や熊本よりも相対的に北、石川や韓国よりも相対的に南に位置したことにより、Δ14Cが低い値をもつ南の大気の影響を木曽サワラと熊本ヒノキが相対的に強く受けたからだと考えられる。1963年6月頃、日本上空300 hPaの強風軸の北上が相対的に遅いことは観測からも報告されており、この解釈を支持している。本研究で得られた知見は、1950年代以降の東アジア地域における14C較正曲線の地域境界のアップデートの際に役立つと思われる。