09:00 〜 09:15
[U07-01] 海洋・生態系変動システマティクス:WPI-AIMECが目指すサイエンス
★招待講演
キーワード:海洋生態系、アルゴ、環境DNA、地球システムモデル
産業革命以降、人間活動は地球システムを構成するあらゆるサブシステムに重大な影響を与えるまでに拡大し、その結果、地球温暖化、海洋酸性化、生物多様性の損失、生態系の崩壊などが顕在化している。この危機に直面し、地球システムの変動メカニズムを理解し予測することは、⼈間社会の持続可能性にとって最も重要な課題である。海洋生態系は、地球上の全基礎生産の約半分を占め、地球上の全動物量の約80%を支えている。実際、海洋生態系は、食糧供給、大気・海洋の化学成分の調整、栄養塩循環、廃水処理、レクリエーション・文化、海岸線の保護など、「生態系サービス」として知られる様々な物質的・機能的利益を人間に提供している。それにもかかわらず、海洋生態系が人為的な環境変化にどのように応答し、適応していくのかについては、陸上生態系に比べて根本的な理解が不足している。このような背景のもと、東北大学と海洋研究開発機構(JAMSTEC)が共同提案した「変動海洋エコシステム高等研究所(WPI-AIMEC)」が、2023年度の世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択され、2024年1月1日に正式に設立された。WPI-AIMECでは、日本周辺海域を含む北西太平洋を重点研究海域と定め、海洋物理学、生態学、数理・データ科学を融合したアプローチにより、1)気候―海洋―生態系の相互作用の解明、2)海洋生態系の環境への応答・適応メカニズムの解明、3)海洋生態系の変動予測、に挑む。具体的には、海洋生態系が広域で急激な構造変化を起こす「レジームシフト」と呼ばれる現象に着目しつつ、生物地球化学(BGC)Argoデータを含む広域の地球物理観測、環境DNA分析、室内実験などを行い、海洋生態系の維持に重要な連動性・安定性・適応性の理解を深化させる。さらに、AIや機械学習をフル活用することで、海洋物理-生態系ビッグデータの統合解析を推進し、全球海洋に適用可能な海洋生態系変動モデルを構築する。これらの取り組みにより、「海洋・生態系変動システマティクス」を新たな学問分野として確立することを目指す。
