日本地球惑星科学連合2024年大会

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[U-15] 2024年能登半島地震(1:J)

2024年5月28日(火) 13:45 〜 15:15 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

座長:鷺谷 威(名古屋大学減災連携研究センター)、卜部 厚志(新潟大学災害・復興科学研究所)、和田 章(東京工業大学)、宮地 良典(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター)

13:45 〜 14:00

[U15-01] 能登半島の地震活動と令和6年能登半島地震

★招待講演

*平松 良浩1 (1.金沢大学理工研究域地球社会基盤学系)

キーワード:群発地震、流体、海底活断層、非地震性断層運動

令和6年(2024年)1月1日に能登半島北東部を震源として、マグニチュード(M)7.6、最大震度7の令和6年能登半島地震が発生し、地震動や津波により甚大な被害が生じた。本講演では、能登半島のこれまでの地震活動を踏まえ、M7.6の地震の発生過程について報告する。

能登半島北岸沖には海底活断層が分布し、4つのセグメント(東から珠洲沖、輪島沖、猿山沖、門前沖)に区分される(井上・岡村, 2010)。これらは日本海拡大時の正断層が圧縮応力場の下で逆断層として活動する南東傾斜の断層で、その活動により能登半島を隆起させている。門前沖セグメントの東半分を震源断層として2007年能登半島地震(M6.9)が発生した。また、離水生物遺骸群集から推定された能登半島北岸での隆起量とその年代から、1729年の能登・佐渡の地震(M6.6–7.0)は輪島沖セグメントの活動である可能性が指摘されている(Hamada et al., 2016)。

能登半島北東部では、活発な地震活動と非定常地殻変動が2020年12月頃から継続していた。この地震活動は主に4つの領域(発生順に南部、西部、北部、東部)で発生し、2023年5月5日にはM6.5(最大震度6強)の地震が発生した。西部・北部・東部では主に南東傾斜の複数の断層で地震が発生し、逆断層型のメカニズムが支配的であるが、南部では15km以深でも地震活動があり、正断層型や横ずれ型のメカニズムの地震があることが特徴的である(高野・他, 2023)。南部の15km以深の領域は、流体の分布域であることが地震波速度構造や比抵抗構造から示唆されている(Okada et al., 2024; 吉村・他, 2023)。

時空間的な震源移動が流体の拡散モデルに従うことから、流体が地震活動を駆動していると解釈され、この流体は南部の深部領域から上昇して南東傾斜の断層帯に浸透したと考えられる(Amezawa et al., 2023; Yoshida et al., 2023a)。なお、南部近辺で採取された温泉水からは、高いHe3/He4比が観測され、深部起源の流体成分の混入が示唆される(鹿児島・他, 2024)。

2023年5月5日のM6.5(最大震度6強)の地震は、それ以前の東部の地震活動域の浅部端で発生し、この地震後に地震活動域は浅部延長側に大きく広がった。震源分布から、M6.5の地震の断層は、海底活断層とは異なる断層であると考えられる(Yoshida et al., 2023b; Kato, 2024)。

群発地震と同期して始まった非定常地殻変動は、主として非地震活動域、すなわち西部・北部・東部の震源域の深部延長側に位置する低角の南東傾斜の断層の開口や逆断層型のスロースリップによってモデル化され、流体の浸透を示唆する(Nishimura et al., 2023)。この非地震性の断層運動はその浅部側の地震活動域での断層運動を促進させる応力の増加をもたらす。この応力の増加と地震活動域の断層への流体の浸透により、長期間継続する群発地震活動が生じたと考えられる(Nishimura et al., 2023)。

M7.6の地震の震源はこの非地震性の断層と群発地震の断層との間に位置し、そのメカニズムは南東傾斜の節面を持つ逆断層型であることから、断層への流体の浸透と非地震性の断層運動による断層運動を促進させる応力の増加により、震源付近の断層すべりがトリガーされた可能性がある。

余震の精密震源決定結果等から、M7.6の地震は複数の海底活断層の連動の可能性が高い。非地震性の断層運動による応力の増加は、震源周辺の珠洲沖、輪島沖の両セグメントにも及び、震源の両側に断層破壊が拡大しやすかったと考えられる。さらに、2007年能登半島地震により、輪島沖セグメントの西部や猿山沖セグメントでも断層運動を促進させる応力が増加したことが、震源域西部への断層運動の拡大を容易にした可能性がある。上記のような状況の下で、100 kmを超える範囲で複数の断層が連動し、最終的にM7.6という地震規模に達したと考えられる。

地震波形や地殻変動、津波波形に基づき、M7.6の地震の様々な断層モデルが報告されている。大きなすべり域は、震源域の南西部と震源付近および北東部の断層面の浅部で推定され、前者2つは大きな海岸隆起をもたらし、後者は津波の主要な成因となった。これらの大きなすべり域は継続時間の長い強い揺れの成因でもあり、地震動による甚大な被害をもたらすものとなった。

本報告の成果の多くは科学研究費助成事業(特別研究促進費)22K19949と23K17482により得られた。現地での調査観測では自治体や企業、住民の方々のご協力をいただいた。令和6年能登半島地震で亡くなられた方々に深く哀悼の意を表すとともに被災者の皆様に心よりお見舞い申し上げます。