日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

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[U-15] 2024年能登半島地震(1:J)

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

17:15 〜 18:45

[U15-P58] 2022年以降の能登半島北東部地下の物質循環に関する地球化学的研究

*鹿児島 渉悟1、河本 結名1森下 知晃2高畑 直人3佐野 有司4平松 良浩2 (1.富山大学、2.金沢大学、3.東京大学、4.高知大学)

キーワード:能登群発地震、令和6年能登半島地震、物質循環、希ガス同位体

能登半島北東部を震源とする群発地震が長期的に継続しており、令和6年能登半島地震では甚大な被害がもたらされた。地下深部に存在する高圧流体の挙動が群発地震を駆動している可能性が指摘されており(Amezawa et al., 2023; Yoshida et al., 2023; Nishimura et al., 2023)、大地震との関連性について解明が急がれる。Umeda et al. (2009) によると、当該地域には大気より高い3He/4He比を持つ温泉が存在し、これは温泉水成分におけるマントル起源物質の寄与が大きいことを示唆している。地震活動に伴う地下水系の構造変化などに起因して地下水の化学・同位体組成が変動することが知られており(e.g., Tsunogai and Wakita, 1995)、同様に、能登半島北東部の温泉水の化学・同位体組成も地下深部―表層の状態に応じて変動してきた可能性がある。
 本研究では、能登半島北東部の地震現象に伴い地下で生じた物質循環を解明することを目的として、温泉水・遊離ガスの化学・同位体組成の時間変動を調査した。2022年6月から2024年2月にかけて、継続的に能登半島北東部の8か所で温泉水・遊離ガス試料を採取した。水試料について、富山大学において、陰イオン(Cl-, SO42-)濃度をイオンクロマトグラフィー装置 883 basic IC plusで、水のδ18O値、δD値を安定同位体比分析装置L2130-iを用いて測定した。また、銅管・ガラス容器内に採取した水試料温泉水の溶存ガスをヘッドスペース法で気相に抽出した。得られたガス試料を東京大学大気海洋研究所に設置された真空ラインに導入して精製を行い、四重極型質量分析計で4He/20Ne比を、希ガス用質量分析計Helix-SFTで3He/4He比を測定した。希ガスのデータはASW (air-saturated water)、空気の測定値に対して較正規格化を行った。
 Amezawa et al. (2023) において、深部流体の供給源が直下に存在する可能性が指摘されている震源集中地域cluster S内に位置する地点ASYでは、特に顕著な化学データの変動が観測された。陰イオン濃度、δ18O値、δD値に関しては、2023年5-10月においては2022年時点よりも低い状態が継続したが、その後2024年1月のM7.6地震直後にかけて上昇し、2022年時点と近い組成に変動した。また、2022年における大気成分を補正した3He/4He比(air-corrected 3He/4He)の平均値は2.94+/-0.07 Ra (1σ)(1Ra: 大気の3He/4He比1.4×10-6)であったが、2023年7月にかけて2.3 Raまで低下し、その後2024年1月のM7.6地震直後にかけて3.2 Raまで上昇した。陰イオン濃度やδ18O値、δD値の変動は、地震活動に伴う岩盤の透水性の変化と関係しているものと考えられる。3He/4He比の変動は、深部流体の挙動に伴うマントル起源物質を含む深部流体成分の混入率の変化や、岩盤亀裂の増大に伴う一時的な水―岩石反応の促進を反映した可能性がある。本発表では他の地点のデータとも比較を行い、2022年以降に能登半島北東部地下で生じた物質循環に関して議論を行う。

(参考文献)
Amezawa et al. (2023) GRL 50, e2022GL102670.; Nishimura et al. (2023) Sci. Rep. 13, 8381.; Tsunogai and Wakita (1995) Science 269, 61-63.; Umeda et al. (2009) JGR solid Earth 114, B01202.; Yoshida et al. (2023) JGR solid Earth 128, e2022JB026047.