JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS11] [JJ] 大気化学

2017年5月24日(水) 09:00 〜 10:30 301B (国際会議場 3F)

コンビーナ:入江 仁士(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、町田 敏暢(国立環境研究所)、谷本 浩志(国立環境研究所)、岩本 洋子(広島大学 生物圏科学研究科)、座長:板橋 秀一(電力中央研究所)

10:00 〜 10:15

[AAS11-17] 気象研究所地球システムモデルによるブラックカーボンの空間分布と放射効果

*大島 長1田中 泰宙1神代 剛1吉村 裕正1川合 秀明1工藤 玲1行本 誠史1出牛 真2小池 真3 (1.気象研究所、2.気象庁・地球環境・海洋部、3.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

キーワード:エアロゾル、ブラックカーボン、気候モデル、変質過程、湿性沈着、放射効果

大気中の多くのエアロゾル成分が太陽放射を散乱する特性のみを持つのに対し、ブラックカーボンは太陽放射を効率的に吸収し、大気を加熱する。このためブラックカーボンが気候システムに果たす役割は非常に重要であると認識されている。しかしながら、従来の気候モデルによるブラックカーボンの空間分布や放射効果の推定には、未だ大きな不確定性が含まれている。
 気象研究所では、気象研究所地球システムモデルMRI-ESM1に数多くの改良を実施することで、第6期結合モデル比較計画CMIP6に向けた新しいバージョンのモデルMRI-ESM2を開発した。この中で、本研究では、従来の気候モデルが含む問題点を克服するために、ブラックカーボンに関する表現については、大きく3つの改良を実施した。第一に、ブラックカーボンが疎水性から親水性へと変換される変質過程(aging)については、従来は一定値の時定数(1.2日)を用いた表現であるのに対し、本研究では物理化学法則に基づき変換速度を表現するパラメタリゼーションを導入することで、大気環境に応じた変換速度を表現できるようにした。第二に、エアロゾルの湿性沈着過程については、従来はエアロゾルの積雲対流による鉛直輸送と降水による除去過程を独立して扱うのに対し、本研究では積雲対流パラメタリゼーションにおいて、エアロゾルが降水除去を経ながら鉛直輸送されるように、鉛直輸送と除去過程を整合的に扱う表現にした。第三に、エアロゾルの放射過程については、従来はブラックカーボンと他エアロゾル成分の内部混合を考慮しないのに対し、本研究では親水性ブラックカーボンについては硫酸塩エアロゾルとの内部混合を仮定することで、被覆による光吸収の増大効果(レンズ効果)を扱うようにした。
 MRI-ESM2を用いて、2008-2015年の期間について、計算を実施した。本研究では、水平解像度は約110 km(TL159)、鉛直解像度は80層(上端0.01 hPa)として、現実的な気象場と海面水温を与える再現計算を行った(海洋モデルを結合した計算は実施しない)。
 モデル計算結果と地上・航空機観測との比較を行った。北極域の地上においては、従来の変質過程を用いた計算では、観測されたブラックカーボン濃度を過小評価し、季節変化を再現することができなかったのに対し、MRI-ESM2では、ブラックカーボン濃度の季節変化の再現性が向上した。また、従来の湿性沈着過程を用いた計算では、上部・中部対流圏中でブラックカーボン濃度を過大評価したのに対し、MRI-ESM2では、高度分布の再現性が向上した。これらのモデル感度実験を組み合わせた結果から、北極域でのブラックカーボンの季節変化を決める上では、変質過程が重要であるのに対し、上部・中部対流圏中のブラックカーボン濃度を決める上では、積雲対流に伴うエアロゾルの湿性沈着過程が重要な役割を果たすことが示唆された。
 大気上端における全球平均のブラックカーボンの直接放射強制力を推定したところ、本研究では、約0.2 W m-2と推定された。また、従来の手法を用いたモデル計算結果との比較から、ブラックカーボンの直接放射強制力は、内部混合に伴うレンズ効果により約40%増大し、変質過程の改良により約20%増大することが示唆された。