[ACG48-P05] 領域モデルWRF/Chemを用いた2016年9月のシベリア森林火災由来のBCおよびオゾン輸送推定
キーワード:ブラックカーボン、領域化学輸送モデル、周北極域、森林火災
ブラックカーボン(BC)粒子は化石燃料やバイオマスなどの不完全燃焼により発生する黒色のエアロゾル粒子で、PM2.5の一成分として知られている。BCは大気中で光を吸収する性質を持ち、IPCCなどでも二酸化炭素やメタンなどに次ぐ主要な温室効果気体の一つとして考えられている。とくに高緯度域においてはBCを含むことにより雪や氷のアルベドが大きく変化し、その融解を加速させることから、気候変動に大きな影響を持つことが示唆されている。BCの発生源としては全球的には工業、輸送、家庭などでの化石燃料や薪などに由来するものと森林火災とがそれぞれほぼ同程度と推定されている(cf. Lamarque et al., 2010)が、周北極域内での放出源としてはシベリア、北米大陸高緯度域などでの森林火災の寄与がかなり大きいと考えられる。これら周北極域でのBCの気候および環境への影響を評価するため、周北極域を対象とした領域化学輸送モデルWRF-Chem version 3.8.1 を用いた数値計算を実施した。気象場の初期条件、境界条件はNCEP-GFSを利用した。また人為起源エミッションについては EDGAR4.2を使用した。森林火災エミッションについては NCAR FINNを用い、かつ森林火災由来の熱対流による鉛直分布も考慮している。生物起源エミッションについてはモデル内でオンラインモジュール化されたMEGAN2.1を用いた。気相およびエアロゾルモジュールはそれぞれRACMおよびGOCARTを使用した。BCについては疎水性BCとして放出され、2.5日の時定数で親水性BCに変換されるものとした。NCAR FINNのシベリア域での森林火災エミッションについて2014年以降を比較したところ、2016年9月は過去3年間の中でも顕著なイベントが見られていたため、対象期間を 2016年8月から9月の2か月間として計算を行った。また領域内での森林火災の影響を評価するため、人為起源、生物起源、森林火災のすべてを考慮した場合と人為起源および生物起源のみ考慮した場合の2ケースの実験を行った。当該計算期間は観測船「みらい」の北極航海期間中であり、モデルによる気象場(風速、風向、気圧、気温)を「みらい」による観測値と比較したところ概ね妥当な再現性を示していた。また9/25以降ベーリング海周辺でBC濃度の増加が見られていたが、2ケースを比較したところ、9/20以降にバイカル湖周辺で見られた森林火災に由来すると推定された。当該火災域ではBC以外にもNOxおよびCOなどのオゾン前駆物質の濃度も森林火災により顕著に増加していたため、モデル結果ではオゾン濃度も最大で40ppbv程度、森林火災により増加していた。