16:30 〜 16:45
[AHW32-05] 湿原に隣接した未利用草地における地表水と地下水の栄養塩供給源の推定
キーワード:nitrogen stable isotope, nutrient cycling function, peatland, spatial variation, waterlogging
北海道東部の釧路湿原周縁部では、近年、排水不良によって耕作が困難な牧草地(未利用草地)が増加しつつある。未利用草地の増加は酪農経営を圧迫する他、農作物被害をもたらす野生生物の増加や景観の悪化など様々な負の影響をもたらすことから、未利用草地の有効活用が課題となっている。我々は、湿地の水質浄化機能に着目し、未利用草地の有効活用策のひとつとして、湿原と牧草地の間の緩衝帯としての役割について検討している。本報ではとくに栄養塩循環機能の定量的評価を目指し、鶴居村の未利用草地を対象に、(1) 未利用草地の地表水・地下水の水質の現状を評価すること、(2) 水位と水質の空間変化と地下水の窒素安定同位体比から栄養塩類の供給源を明らかにすることを目的とした。
湿原に隣接した未利用草地において、四方を明渠排水路に囲まれた約100 m×175 mを調査区とした。調査区は北から南にかけて1/200程度の勾配で緩やかに傾斜するとともに、東側と西側の明渠排水路に沿って地盤が低下していた。調査区内に25 m四方の方形区を28区画設け、各区画の中心点に地下水位観測管とピエゾメータを設置した。ピエゾメータは受圧部が地面から30、80、130 cmの深さになるよう各地点3本ずつ設置した。2015年8・10月、2016年には5~11月に月1回程度、調査区の地表水とピエゾメータ内の地下水、明渠排水路と近隣河川の表流水、降水を採取した。試料水のEC、pH、DO、ORP、窒素、リン濃度を測定した。2016年11月には調査区内4地点と、近隣河川の河畔湿地2地点で30 cm深ピエゾメータ内の地下水を対象にδ15N値を分析した。調査区の水文環境を調べるために、調査区内で標高が低く常時冠水している地点に1箇所、調査区の北側と南側の明渠排水路各1箇所に自記水位計を設置して水位を連続観測した。
調査区内の水位は地盤高の最高地点からやや下がった地点で高かった。地盤高の低い東側及び南西側の明渠排水路近傍では常時冠水していた。調査区の水位は観測期間で90 cm近くの変動を示した。2016年8月には台風に伴う異常出水により明渠排水路の水が逆流し、調査区全域が冠水した。
2016年8月を除く平常時の溶存態窒素(DTN)は調査区中央部の30 cm深地下水で濃度のピークが認められた。地下水中のDTNの内、有機態窒素(DON)とNH4-Nがそのほとんどを占めた。溶存態リン(DTP)は常時冠水する明渠排水路近傍の30 cm深地下水で比較的高い濃度を示した。地下水中のDTPの大部分は有機態リン(DOP)だった。調査区の地表水や地下水のDTN、DTP濃度は、明渠排水路や河川の表流水に比べて高かった。
2016年8月の異常出水時には、地表水のDTN、DTPが平常時に比べて高濃度を示した。そのDTNの6割は無機態窒素(DIN)で、内NO3-Nの割合が大きかった。DTPの7割はPO4-Pだった。調査区の地表水はすべての水質項目で明渠排水路の表流水と類似していた。このことから、明渠排水路の水が調査区内に流入して、地表水の水質に影響していると考えられる。
DTP濃度の高かった明渠排水路近傍の地下水で、15~30‰程度の高いδ15N値を示した。この地下水中の栄養塩類の起源として堆肥の影響が示唆される。一方、DTN濃度の高かった調査区中央部の地下水のδ15N値は5~8‰程度と比較的低かった。このことから、調査区中央部には明渠排水路近傍とは異なった栄養塩の起源が存在し、これが調査区の地下水の主要な窒素供給源になっていると考えられる。
湿原に隣接した未利用草地において、四方を明渠排水路に囲まれた約100 m×175 mを調査区とした。調査区は北から南にかけて1/200程度の勾配で緩やかに傾斜するとともに、東側と西側の明渠排水路に沿って地盤が低下していた。調査区内に25 m四方の方形区を28区画設け、各区画の中心点に地下水位観測管とピエゾメータを設置した。ピエゾメータは受圧部が地面から30、80、130 cmの深さになるよう各地点3本ずつ設置した。2015年8・10月、2016年には5~11月に月1回程度、調査区の地表水とピエゾメータ内の地下水、明渠排水路と近隣河川の表流水、降水を採取した。試料水のEC、pH、DO、ORP、窒素、リン濃度を測定した。2016年11月には調査区内4地点と、近隣河川の河畔湿地2地点で30 cm深ピエゾメータ内の地下水を対象にδ15N値を分析した。調査区の水文環境を調べるために、調査区内で標高が低く常時冠水している地点に1箇所、調査区の北側と南側の明渠排水路各1箇所に自記水位計を設置して水位を連続観測した。
調査区内の水位は地盤高の最高地点からやや下がった地点で高かった。地盤高の低い東側及び南西側の明渠排水路近傍では常時冠水していた。調査区の水位は観測期間で90 cm近くの変動を示した。2016年8月には台風に伴う異常出水により明渠排水路の水が逆流し、調査区全域が冠水した。
2016年8月を除く平常時の溶存態窒素(DTN)は調査区中央部の30 cm深地下水で濃度のピークが認められた。地下水中のDTNの内、有機態窒素(DON)とNH4-Nがそのほとんどを占めた。溶存態リン(DTP)は常時冠水する明渠排水路近傍の30 cm深地下水で比較的高い濃度を示した。地下水中のDTPの大部分は有機態リン(DOP)だった。調査区の地表水や地下水のDTN、DTP濃度は、明渠排水路や河川の表流水に比べて高かった。
2016年8月の異常出水時には、地表水のDTN、DTPが平常時に比べて高濃度を示した。そのDTNの6割は無機態窒素(DIN)で、内NO3-Nの割合が大きかった。DTPの7割はPO4-Pだった。調査区の地表水はすべての水質項目で明渠排水路の表流水と類似していた。このことから、明渠排水路の水が調査区内に流入して、地表水の水質に影響していると考えられる。
DTP濃度の高かった明渠排水路近傍の地下水で、15~30‰程度の高いδ15N値を示した。この地下水中の栄養塩類の起源として堆肥の影響が示唆される。一方、DTN濃度の高かった調査区中央部の地下水のδ15N値は5~8‰程度と比較的低かった。このことから、調査区中央部には明渠排水路近傍とは異なった栄養塩の起源が存在し、これが調査区の地下水の主要な窒素供給源になっていると考えられる。