10:45 〜 11:05
[AHW35-06] トゥファ年輪δ13Cに基づく火山活動の評価
★招待講演
キーワード:トゥファ、安定炭素同位体、安定酸素同位体
浅間火山は日本列島で最も活動的な火山のひとつであり、山体とその周辺には多くの湧水が存在する。山体南麓に位置する濁川源泉は高濃度の鉄質炭酸泉からなり、1180年の大噴火の際に生じた追分火砕流堆積層を侵食しながら流れ下っており、その河床には方解石を主体とする縞状堆積物(トゥファ)が沈積している。また、濁川の段丘涯中にも、過去に河床で生成された古トゥファが埋没する。トゥファは一般に、石灰岩地帯の沢や湖沼などの淡水環境で生成されており、その縞状組織は水の化学成分、水温や降水量などの季節変動を反映することが知られている(Ihelnfeld et al. 2003; Kano et al., 2003)。我々は、活火山の湧水から湧出した沢で初めて確認されたトゥファの形成過程とそこに記録される情報を解明するために、水文調査と同位体及び化学組成の分析を行っており、本発表ではこれまでの研究結果を報告する。
調査地域は、濁川の鉄質炭酸源泉群から下流約4 kmの範囲である。その河床には、源泉群付近から下流約1 kmで水酸化鉄、そこから下流約3 kmでトゥファがそれぞれ堆積している。我々は、源泉群(2地点)、水酸化鉄の沈殿場(1地点)、トゥファ堆積場(3地点)、非堆積場(1地点)の定点観測点を7地点設け、2011年12月~現在にかけて2ヶ月ごとの観測を行っている。現地では、採水及び水質測定(pH, ORP, DO, EC, 水温、アルカリ度)を行い、水の陽イオン濃度と陰イオン濃度の分析結果をもとに方解石の飽和度指数とPWP-rate(方解石沈殿速度)が求められた。また、河川水と天水の安定同位体比(δDw, δ13Cw, δ18Ow)、トゥファ試料の安定同位体比(δ13Cc, δ18Oc)、水とトゥファの放射性炭素同位体比(Δ14C)分析、EPMAを用いたトゥファの化学組成分析が行われた。
濁川の水のδ18OwとδDwは源泉からトゥファ堆積場にかけて季節によらず誤差範囲内で一定に推移する(δ18Ow=-12.9~-12.2‰, δDw=-90.0~-86.1‰)。そのδ18Ow-δDw関係は天水線上に分布し、天水に比べて狭い範囲(δ18Ow=-12.9~-12.2‰, δDw=-90.0~-86.1‰)に分布することから、山体内部でよく混合された水が源泉から湧出しているとみなすことができる。
トゥファ年輪方解石δ13Cc・δ18Ocは共に、Mgに富む夏季の縞では相対的に低い値(δ18Oc=-10.1‰, δ13Cc=-6.5‰)、Mnに富む冬季の縞では高い値(δ18Oc=-9.2‰, δ13Cc=-7.0‰)を示す。トゥファδ18Ocで見られる季節変動は、δ18Owが時間的空間的にほぼ一定であることから、水温効果で生じているとみなされる(δ18OC - δ18OW = -0.0051T + 3.2509; R = 0.75)。Zheng (1999)に基づくδ18Ocから推定される年平均水温は、エルニーニョ発生年の2003年と2010年で増加が認められた。
トゥファ堆積場におけるδ13Cw起源を求めるために、河川水δ13Cw、DIC濃度、Δ14Cをもとに炭素収支計算を行った。結果、トゥファ堆積場では夏季に有機物由来の炭素付加の増加が見られ、有機物付加がトゥファδ13Cc増減を決めていると推察される。さらに、そうしたδ13Ccの季節変動幅(年間の最大と最小値幅)は0.57‰(平均5.6‰)であるとのに対し、2004年晩夏に顕著な低値(δ13C=4.8‰)とδ18Oc増加(水温低下)が認められた。浅間火山では2004年9月に中規模噴火が生じており、トゥファδ13Ccで見られた低値は山体内部の活動度の上昇で火山性起源の水の供給が一時的に増加したものと見なされる。
調査地域は、濁川の鉄質炭酸源泉群から下流約4 kmの範囲である。その河床には、源泉群付近から下流約1 kmで水酸化鉄、そこから下流約3 kmでトゥファがそれぞれ堆積している。我々は、源泉群(2地点)、水酸化鉄の沈殿場(1地点)、トゥファ堆積場(3地点)、非堆積場(1地点)の定点観測点を7地点設け、2011年12月~現在にかけて2ヶ月ごとの観測を行っている。現地では、採水及び水質測定(pH, ORP, DO, EC, 水温、アルカリ度)を行い、水の陽イオン濃度と陰イオン濃度の分析結果をもとに方解石の飽和度指数とPWP-rate(方解石沈殿速度)が求められた。また、河川水と天水の安定同位体比(δDw, δ13Cw, δ18Ow)、トゥファ試料の安定同位体比(δ13Cc, δ18Oc)、水とトゥファの放射性炭素同位体比(Δ14C)分析、EPMAを用いたトゥファの化学組成分析が行われた。
濁川の水のδ18OwとδDwは源泉からトゥファ堆積場にかけて季節によらず誤差範囲内で一定に推移する(δ18Ow=-12.9~-12.2‰, δDw=-90.0~-86.1‰)。そのδ18Ow-δDw関係は天水線上に分布し、天水に比べて狭い範囲(δ18Ow=-12.9~-12.2‰, δDw=-90.0~-86.1‰)に分布することから、山体内部でよく混合された水が源泉から湧出しているとみなすことができる。
トゥファ年輪方解石δ13Cc・δ18Ocは共に、Mgに富む夏季の縞では相対的に低い値(δ18Oc=-10.1‰, δ13Cc=-6.5‰)、Mnに富む冬季の縞では高い値(δ18Oc=-9.2‰, δ13Cc=-7.0‰)を示す。トゥファδ18Ocで見られる季節変動は、δ18Owが時間的空間的にほぼ一定であることから、水温効果で生じているとみなされる(δ18OC - δ18OW = -0.0051T + 3.2509; R = 0.75)。Zheng (1999)に基づくδ18Ocから推定される年平均水温は、エルニーニョ発生年の2003年と2010年で増加が認められた。
トゥファ堆積場におけるδ13Cw起源を求めるために、河川水δ13Cw、DIC濃度、Δ14Cをもとに炭素収支計算を行った。結果、トゥファ堆積場では夏季に有機物由来の炭素付加の増加が見られ、有機物付加がトゥファδ13Cc増減を決めていると推察される。さらに、そうしたδ13Ccの季節変動幅(年間の最大と最小値幅)は0.57‰(平均5.6‰)であるとのに対し、2004年晩夏に顕著な低値(δ13C=4.8‰)とδ18Oc増加(水温低下)が認められた。浅間火山では2004年9月に中規模噴火が生じており、トゥファδ13Ccで見られた低値は山体内部の活動度の上昇で火山性起源の水の供給が一時的に増加したものと見なされる。