[AHW35-P09] 熊本地震後に発生した地下水・温泉の変化
★招待講演
キーワード:熊本地震、地下水、湧出量、硝酸イオン、地殻歪変化、温泉
2016年4月14日から始まった一連の熊本地震の活動による地下水や温泉への影響を調べるため、熊本県内の8か所の湧水(図1のA~H)における調査を行った。また、21ヶ所の温泉施設における聞き取り調査と、阿蘇地区で新たに発生した湧水(図1のJ)の調査も行った。
調査を行った8ヶ所の湧水のうち6ヶ所(A~D, G, H)は、地震の1ヶ月前の2016年3月6-10日に湧出量測定や採取調査を行っていた場所である。また残りの2ヶ所(E, F)についても,2014年に同様の調査を行っている。このような地震前の調査によって、熊本地震に伴う湧出量や主成分濃度の変化が明らかになった。
湧出量は、3ヶ所(A~C)において増加(増加率は地震前の2-6倍)、2ヶ所(G, H)において減少(減少量は地震前の50-80%)が見られた(Fig.2)。残りの3ヶ所(D~F)は変動幅が地震前の30%以内であった。湧出量の増加および減少が見られた湧水は、地震を引き起こした布田川・日奈久断層から7km以内の距離に位置する湧水であった。
湧出量の増減と地震で発生した地殻の伸縮とを比較するため、国土地理院(2016)の断層モデルを基にして、地殻変動解析支援プログラムMICAP-G(Okada, 1992, 内藤・吉川, 1999)を用いて地表面で予想される体積歪変化量を計算した。両者の分布を図1上で比較したところ、明確な関係は見られなかった。
湧出量が増加した3ヶ所は、いずれも2016年11月の湧出量は地震前のレベルには戻っていない(図2)。一方、湧出量が減少した2ヶ所のうち1ヶ所(H)は2016年9月に地震前のレベルに戻ったが、残りの1ヶ所(G)は2016年9月には逆に地震前の7倍に増加し、その後減少が見られている。このように湧出量の時間変化は場所によって様々であり、地下水の混合比の変化といった地域性を重視しながら、変化の要因について考察する必要があると考えられる。
主要化学組成については、多くの成分ではほとんど変化が見られなかったが、唯一硝酸イオン濃度に明らかな変化が観測された(図3)。具体的には、8ヶ所の湧水すべてにおいて、2016年5月に10-90%の増加が生じ、2016年9月までに地震前と同程度かそれ以下の濃度に減少している。湧出量の増減とは関係なく、すべての湧水において同様の変化が起きていることは興味深い。地下水の混合や地殻歪のような地域性に強く依存する要因ではなく、強い地震動のようなすべての湧水に共通して影響する要因について考察する必要があると考えられる。
温泉施設における聞き取り調査の結果、自噴が発生したり自噴量が顕著に増加した源泉や地域があることが判明した。この分布を上記の地殻歪変化の分布と比較すると、いずれも縮みの地殻歪変化が予想される地域と重なることが分かった。
参考文献
国土地理院(2016)平成28年(2016年)熊本地震,地震予知連絡会会報,96,557-589.
Okada (1992) Internal deformation due to shear and tensile faults in a half-space, Bull. Seism. Soc. AM., 82, 1018-1040.
内藤宏人・吉川澄夫(1999)地殻変動解析支援プログラムの開発,地震2, 52, 101-103.
図1 熊本地震に伴う湧水の湧出量の変化
図2 湧水の湧出量の相対変化
図3 湧水の硝酸イオン濃度の相対変化
調査を行った8ヶ所の湧水のうち6ヶ所(A~D, G, H)は、地震の1ヶ月前の2016年3月6-10日に湧出量測定や採取調査を行っていた場所である。また残りの2ヶ所(E, F)についても,2014年に同様の調査を行っている。このような地震前の調査によって、熊本地震に伴う湧出量や主成分濃度の変化が明らかになった。
湧出量は、3ヶ所(A~C)において増加(増加率は地震前の2-6倍)、2ヶ所(G, H)において減少(減少量は地震前の50-80%)が見られた(Fig.2)。残りの3ヶ所(D~F)は変動幅が地震前の30%以内であった。湧出量の増加および減少が見られた湧水は、地震を引き起こした布田川・日奈久断層から7km以内の距離に位置する湧水であった。
湧出量の増減と地震で発生した地殻の伸縮とを比較するため、国土地理院(2016)の断層モデルを基にして、地殻変動解析支援プログラムMICAP-G(Okada, 1992, 内藤・吉川, 1999)を用いて地表面で予想される体積歪変化量を計算した。両者の分布を図1上で比較したところ、明確な関係は見られなかった。
湧出量が増加した3ヶ所は、いずれも2016年11月の湧出量は地震前のレベルには戻っていない(図2)。一方、湧出量が減少した2ヶ所のうち1ヶ所(H)は2016年9月に地震前のレベルに戻ったが、残りの1ヶ所(G)は2016年9月には逆に地震前の7倍に増加し、その後減少が見られている。このように湧出量の時間変化は場所によって様々であり、地下水の混合比の変化といった地域性を重視しながら、変化の要因について考察する必要があると考えられる。
主要化学組成については、多くの成分ではほとんど変化が見られなかったが、唯一硝酸イオン濃度に明らかな変化が観測された(図3)。具体的には、8ヶ所の湧水すべてにおいて、2016年5月に10-90%の増加が生じ、2016年9月までに地震前と同程度かそれ以下の濃度に減少している。湧出量の増減とは関係なく、すべての湧水において同様の変化が起きていることは興味深い。地下水の混合や地殻歪のような地域性に強く依存する要因ではなく、強い地震動のようなすべての湧水に共通して影響する要因について考察する必要があると考えられる。
温泉施設における聞き取り調査の結果、自噴が発生したり自噴量が顕著に増加した源泉や地域があることが判明した。この分布を上記の地殻歪変化の分布と比較すると、いずれも縮みの地殻歪変化が予想される地域と重なることが分かった。
参考文献
国土地理院(2016)平成28年(2016年)熊本地震,地震予知連絡会会報,96,557-589.
Okada (1992) Internal deformation due to shear and tensile faults in a half-space, Bull. Seism. Soc. AM., 82, 1018-1040.
内藤宏人・吉川澄夫(1999)地殻変動解析支援プログラムの開発,地震2, 52, 101-103.
図1 熊本地震に伴う湧水の湧出量の変化
図2 湧水の湧出量の相対変化
図3 湧水の硝酸イオン濃度の相対変化