09:00 〜 09:15
[AOS23-01] 南大洋インド洋セクターの南極底層水における人為起源CO2蓄積量の増加
キーワード:人為起源CO2、南極底層水、南大洋
海洋が吸収する人為起源CO2の約40%は南大洋が引き受けていると推定されていることから、全球規模のCO2収支において、南大洋は最も重要な吸収源の一つとみなされている。南大洋では、ここを起源とする水塊である亜南極海モード水と南極中層水が、人為起源CO2を吸収し北方に輸送するうえで大きな役割を果たしていることが知られている。しかしながら、南極底層水(Antarctic Bottom Water; AABW)が人為起源CO2を吸収し蓄積する役割については、以前として議論が続いている。1980年代の研究では、海氷が存在することで大気海洋間でのCO2交換が抑えられることや、人為起源CO2を全くもしくはほとんど含んでいない水塊(例えば周極深層水)との混合の結果、人為起源CO2のシグナルが薄められることにより、AABWに吸収され蓄積される人為起源CO2は少ない(Chen, 1982; Poisson and Chen, 1988)といわれていた。最近の研究では、その値はそれほど大きくはないが、AABWでも有意に人為起源CO2が含まれていることが示されている(Ríos et al., 2012; Pardo et al., 2014)。これに加え、温暖化や、淡水化、酸性化などの海洋変動が、人為起源CO2の吸収と蓄積に及ぼす影響については、不明確なままである。
AABW(中立密度γn が28.27 kg m-3以上の水塊)がどれほど人為起源CO2を取り入れているかを明らかにするために、南大洋のインド洋セクターのおおよそ62°Sにおける東西断面の30°Eから160°Eの範囲で、10年規模での人為起源CO2の増加を調べた。この目的のために、1994年/1995年と2012年/2013年の約17年の間をおいて観測された炭酸系項目と関連する項目の高精度データを使用した。これらの高精度データは、World Ocean Circulation ExperimentとGlobal Ship-based Hydrographic Investigations Programといった国際観測プログラムの下で取得された。人為起源CO2増加の深度-経度の断面図から、ケルゲレン台地の東側と西側で、AABWの人為起源CO2増加にははっきりとした違いがあることが分った。すなわち、東側では5 μmol kg-1を超す人為起源CO2の増加が認められたが、西側では増加は小さいかもしくは減少傾向を示していた。東側では、従来の研究とは異なり、人為起源CO2の増加は底層水、すなわちAABWで最も大きく(>9.0 μmol kg-1)なっていた。高い増加傾向は、110°Eの東側でより顕著であった。深層水と底層水での人為起源CO2の有意な増加傾向は、東西断面を通してみられたが、その大きさと深度の範囲は110°Eから西に向かうにつれて、徐々に小さくなっていた。人為起源CO2増加の鉛直分布は、フロン12の10年スケールでの変化と六フッ化硫黄の分布と有意な正の相関がみられた。フロン12と六フッ化硫黄は両者とも海洋循環とヴェンチレーションの指標として用いることができることから、有意な相関があるということは、人為起源CO2増加の分布は、もっぱら物理過程によって支配されていたことを意味している。人為起源CO2増加の計算に全アルカリ度を入れた場合と入れない場合で比較したところ、50°Eより西の海域で人為起源CO2増加の計算結果に差があり、後者の計算結果が前者より小さかった。この違いは、南大洋で粒子状無機炭酸の生産が減少していること(Freeman and Lovenduski, 2005)に関係している可能性がある。人為起源CO2の蓄積率は130°E-160°Eで最も高く1.1 ± 0.6 mol m-2 a-1であった。この値は、統計的に有意な人為起源CO2増加分のみを海底から海面までを積分したものであることから、控えめな値であると判断している。ケルゲレン台地の西側では、蓄積率は0.2 ± 0.1 mol m-2 a-1程度であった。この人為起源CO2蓄積率の違いは、AABWの形成海域が違うことによるものと思われる。すなわち、80°E(ケルゲレン台地)より西では、そのAABWは主としてウエッデル海起源の水から成り、80°Eの東側ではアデリー沿岸とロス海起源の水で構成されている。
本研究では、南大洋のインド洋セクターの少なくともその東部においては、底層水による人為起源CO2を吸収し蓄積するプロセスが有効に働いていることが明らかとなった。
AABW(中立密度γn が28.27 kg m-3以上の水塊)がどれほど人為起源CO2を取り入れているかを明らかにするために、南大洋のインド洋セクターのおおよそ62°Sにおける東西断面の30°Eから160°Eの範囲で、10年規模での人為起源CO2の増加を調べた。この目的のために、1994年/1995年と2012年/2013年の約17年の間をおいて観測された炭酸系項目と関連する項目の高精度データを使用した。これらの高精度データは、World Ocean Circulation ExperimentとGlobal Ship-based Hydrographic Investigations Programといった国際観測プログラムの下で取得された。人為起源CO2増加の深度-経度の断面図から、ケルゲレン台地の東側と西側で、AABWの人為起源CO2増加にははっきりとした違いがあることが分った。すなわち、東側では5 μmol kg-1を超す人為起源CO2の増加が認められたが、西側では増加は小さいかもしくは減少傾向を示していた。東側では、従来の研究とは異なり、人為起源CO2の増加は底層水、すなわちAABWで最も大きく(>9.0 μmol kg-1)なっていた。高い増加傾向は、110°Eの東側でより顕著であった。深層水と底層水での人為起源CO2の有意な増加傾向は、東西断面を通してみられたが、その大きさと深度の範囲は110°Eから西に向かうにつれて、徐々に小さくなっていた。人為起源CO2増加の鉛直分布は、フロン12の10年スケールでの変化と六フッ化硫黄の分布と有意な正の相関がみられた。フロン12と六フッ化硫黄は両者とも海洋循環とヴェンチレーションの指標として用いることができることから、有意な相関があるということは、人為起源CO2増加の分布は、もっぱら物理過程によって支配されていたことを意味している。人為起源CO2増加の計算に全アルカリ度を入れた場合と入れない場合で比較したところ、50°Eより西の海域で人為起源CO2増加の計算結果に差があり、後者の計算結果が前者より小さかった。この違いは、南大洋で粒子状無機炭酸の生産が減少していること(Freeman and Lovenduski, 2005)に関係している可能性がある。人為起源CO2の蓄積率は130°E-160°Eで最も高く1.1 ± 0.6 mol m-2 a-1であった。この値は、統計的に有意な人為起源CO2増加分のみを海底から海面までを積分したものであることから、控えめな値であると判断している。ケルゲレン台地の西側では、蓄積率は0.2 ± 0.1 mol m-2 a-1程度であった。この人為起源CO2蓄積率の違いは、AABWの形成海域が違うことによるものと思われる。すなわち、80°E(ケルゲレン台地)より西では、そのAABWは主としてウエッデル海起源の水から成り、80°Eの東側ではアデリー沿岸とロス海起源の水で構成されている。
本研究では、南大洋のインド洋セクターの少なくともその東部においては、底層水による人為起源CO2を吸収し蓄積するプロセスが有効に働いていることが明らかとなった。