JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS29] [EJ] 海洋と大気の波動・渦・循環力学

2017年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 302 (国際会議場 3F)

コンビーナ:古恵 亮(APL/JAMSTEC)、久木 幸治(琉球大学理学部)、三寺 史夫(北海道大学低温科学研究所)、杉本 憲彦(慶應義塾大学 法学部 日吉物理学教室)、座長:久木 幸治(Faculty of Science, University of the Ryukyus)、座長:杉本 憲彦(慶應義塾大学 法学部 日吉物理学教室)、座長:中野 英之(気象研究所)

11:15 〜 11:30

[AOS29-09] 日本海深層の底層水における近慣性周期のGyroscopic Wave

*伊藤 海彦1磯田 豊1千手 智晴 (1.北海道大学大学院水産科学研究院)

キーワード:コリオリの水平成分、近慣性周期、Gyroscopic Wave、日本海深層

1.はじめに
水深200m前後で水温1℃以下となる日本海深層の密度成層は非常に弱く,2500m以深では鉛直的に密度一様(浮力振動数Nはほぼ零)な底層水(Bottom-layer Water:以下,BWと略す)が形成されている。このBW内を含め,日本海深層域で最も卓越した流速変動の周期は近慣性周期にある(Mori et al., 2005)。内部慣性重力波の慣習的な線形理論(コリオリの鉛直成分のみを考慮)に従えば,その存在周波数帯はN~f(慣性周波数)に制限される。それゆえ,BW(N~0)直上でN=fとなる日本海深層の場合,上方から下方へ伝播(群速度)する近慣性周期の内部波がBW内まで侵入することは不可能である。しかし,現実には近慣性周期の何らかの変動がBW内へ侵入しており,本研究ではコリオリの鉛直成分(以下,fsと略す)に加えて,水平成分(以下,fcと略す)も考慮すれば,それが可能であることを示す。なお,fc項を考慮した非成層(N=0)流体に存在し得る,非静水力学の線形波動は,LeBlond and Mysack(1978)が提唱したGyroscopic Wave(以下,GsWと略す)と呼ばれる。
2.伝播方位に依存した近慣性波のBW内侵入の可否
コリオリの両成分を考慮したGsWでは,方位が重要なパラメータとなる。それゆえ,f平面近似であっても,GsWの伝播方位(東西南北)により,その分散関係には非対称性が生じる。以下の計算では,日本海の緯度を40oNで,深層で卓越した近慣性波の周波数はσ=1.01fsで代表させる。詳細は省略するが,BW内まで侵入可能な周波数帯は,GsWの伝播方位(θ=0o〜90oで東西伝播から南北伝播を表現)を考慮した解の存在範囲から求められる。Fig.1は伝播方位θの関数で表示した,GsWが存在可能な最大周波数σmax(fs値で規格化)分布である。東西伝播(θ=0o)する近慣性波(σ=1.04fs)のBW内侵入は不可能であるが,20o <θ< 90o の比較的広い方位の近慣性波が侵入可能である。ただし,南北伝播に近いほどBW内侵入の周波帯が拡がり,完全な南北伝播(θ=90o)の侵入可能な周波数帯は0~fs~2Ω(Ωは地球自転の角速度)となる。
3.WKB近似による近慣性波の解析解
fc項を考慮した内部波及びGsWの分散関係は,同じ伝播方位であっても,上方からの入射波と海底からの反射波では大きく異なる鉛直伝播方向を示す。講演では日本海のCTD観測で得られた密度データを用いて,WKB近似による近慣性波(σ=1.04fs)の解析解を示すが,本要旨では入射波と反射波の非対称性が特に顕著なBW内(厚さ1000m)の解析解(鉛直流成分)をFig.2に示した。(a)が南北伝播(θ=90o)のケース,(b)が東西伝播に近いθ=20oのケースである。両ケースで入射及び反射の角度は異なるものの,どちらも入射角度に比して反射角度が非常に小さい。すなわち,反射波は海底面を這うような方向に伝播し,これは鉛直高波数の波(GsW)への変化を意味する。
上記の分散関係の議論から,日本海北方から下方へ入射する近慣性波がGsWの性質をもてば,BW内(N~0)への到達が可能となり,鉛直高波数となる反射波は海底付近に捕捉され,さらに,BWの鉛直混合(BWの密度一様性)にも寄与している可能性が示唆される。