JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT06] [JJ] 地球生命史

2017年5月20日(土) 10:45 〜 12:15 201B (国際会議場 2F)

コンビーナ:本山 功(山形大学理学部地球環境学科)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)、座長:守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)、座長:生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、座長:本山 功(山形大学理学部地球環境学科)

11:15 〜 11:30

[BPT06-09] 中生代水生羊膜類の骨格に起きた革新的進化

*中島 保寿1 (1.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:古生物学、脊椎動物、形態、適応、羊膜類、P/T境界

哺乳類,爬虫類,鳥類を含む系統群である羊膜類(Amniota)は,石炭紀,乾燥した陸上での生活に適応した脊椎動物として誕生した.しかしペルム紀に入ると,メソサウルス類(Mesosauria)やエオスキア類(Eosuchia)など,羊膜類の一部は再び水中生活に戻っていった.ペルム紀—三畳紀境界後に現れた様々な海生羊膜類は,それまで魚類が占めていた頂点捕食者のニッチを奪うほどに繁栄した.中生代の海生羊膜類といえば,胎生,流線型の体,魚型の背鰭・尾鰭,もしくはペンギン型のフリッパーの発達,骨密度の極端な変化など,遊泳や潜水に関連した機能的制約による構造進化の好例として紹介されることが多い.一方で海生羊膜類の中には,陸上生活という制約から開放されたことにより,陸生羊膜類の基本形とはかけ離れたボディプランを獲得するものも現れた.例えば,テチス海の三畳系を中心に発見されている板歯類(Placodontia)やサウロスファルギス類(Saurosphargidae)では,体を覆う皮骨が発達し,カメ類の甲羅に比較される外骨格状の構造が発達することもあった.また前期三畳紀に登場した魚鰭類(Ichthyopterygia)では,前後肢の指の数が5本よりも多くなるhyperdactylyと,指の節数が増加するhyperphalangy,一方で四肢骨格要素の形態が単純化し互いに区別できなくなっていくmesopodializationが顕著であった.後期三畳紀に現れた長頸類(Plesiosauria)は頸椎を増やすことで長い頸を獲得し,後期白亜紀には76個もの頸椎を持つものも現れた.そして中国の下部三畳系のみから発見されているフーペイスクス類(Hupehsuchia)は,背側の正中に1〜3層に積み上がった重厚な皮骨や,隙間なく折り重なる肋骨,一部のアジ科魚類の稜鱗に似た体側の皮骨(もしくは腹肋骨),そして背腹2節に分節した椎骨棘突起など,他の羊膜類には見ることのできない特殊な骨格構造を数多く持っていた.以上のように,中生代の水生羊膜類の骨格形態の進化は,極めて高い自由度のもとに起こり,特に三畳紀の海洋には,現存する動物の基本ボディプランを大きく逸脱するものが存在していた.これらの生物の骨格構造およびその発生メカニズムを復元することは,羊膜類の形態進化における真の可塑性を明らかにし,羊膜類の形態がいかなる制約のもとに淘汰されてきたかを理解する鍵となるであろう.