JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT06] [JJ] 地球生命史

2017年5月20日(土) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:本山 功(山形大学理学部地球環境学科)、生形 貴男(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、守屋 和佳(早稲田大学 教育・総合科学学術院 地球科学専修)

[BPT06-P02] 大分県玖珠盆地中新統野上層産淡水魚類化石の重要性と意義
‐カワムツの起源と古生物地理を例に‐

*宮田 真也1籔本 美孝2 (1.学校法人城西大学 水田記念博物館 大石化石ギャラリー、2.北九州市立自然史・歴史博物館 )

キーワード:コイ科、更新世、野上層、淡水魚類、カワムツ属、ハス類

中部更新統野上層は珪藻土を主体とする湖成層で,更新世の淡水魚類化石が産出することで知られており,これまでサケ科のビワマス類似種(Oncorhynchus masou subsp.),コイ科のニゴイとコウライニゴイの中間型(Hemibarbus barbus x labeo),カワムツ類似種(Zacco cf. Z. temminckii = Nipponocypris sp.),タナゴ属の一種(Acheilognathus sp.),ハゼ科のヨシノボリ(Rhinogobius brunneus)とゴクラクハゼ(R. similis)の3科5属6種が報告がされている.また,ほぼ全身が保存された化石が多数産出しており,現生種との骨学的比較が可能で,標本数も多いことから本魚類化石群は日本列島ならびに東アジアの淡水魚類の起源と変遷を考える上で重要である.本研究ではこれらのうちコイ科のカワムツ類似種と現生ハス類に関して系統分類学的研究ならびに古生物地理について検討を行った.
 ハス類(opsariichthins)は日本列島や台湾のほか,東南アジア,中国,朝鮮半島,ロシアの大陸側にも生息している東アジア固有のコイ科魚類である.ハス類はハス属 (Opsariichthys),オイカワ属 (Zacco),カワムツ属 (Nipponocypris),タイワンアカハラ属 (Candidia),Parazacco属の5属からなり,化石は大分県の玖珠盆地野上層,石川県の中新統,中国の下部始新統Buxin層などから報告されている.
 カワムツ類似種(Zacco cf. Z. temminckii)と現生ハス類を比較したところ,背鰭骨格とウェーベル氏器官との間の上神経棘数が8つであること,背鰭の最初の3つの軟条が不分岐で分節しないこと,主鰓蓋骨後縁部が凹むこと.椎骨数が42 – 44であることなどの組み合わせからオイカワ属(Zacco)ではなく,カワムツ属(Niiponocypris)に属することが判明した.
カワムツ属はカワムツのほかにヌマムツ,コウライカワムツが知られている.これらの現生種を含んだ国内外の現生ハス類の5属9種を用いた分岐分析および系統地理学的解析を行った.その結果,玖珠盆地産カワムツ類似種は現生カワムツと姉妹関係にあることが推定された.このことは現生カワムツの祖先が遅くとも中期更新世には東アジアで分化していたことを示すものと考えられる.また,中期更新世のカワムツ類似種の存在は朝鮮半島と日本列島に分布するカワムツの起源が日本である可能性を示しており,カワムツが中期更新世以降に分布を広げた可能性を示している.このことは同様の分布域を示すオヤニラミなど他の日本の現生淡水魚類の起源と分化を考える上で重要である.