JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[EE]Eveningポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS08] [EE] 雲降水過程の統合的理解に向けて

2017年5月23日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[AAS08-P08] 東太平洋ITCZの順圧不安定場の解放と再構築に関する時間変動の解析

*河田 裕貴1高薮 縁2濱田 篤2 (1.東京大学理学部地球惑星物理学科、2.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:Intertropical Convergence Zone, Barotropic Instability, Analysis of the satellite data, Diabatic Heating

東太平洋ITCZは,力学的なシア不安定により東西一様な雲の帯が時折breakdownを起こして複数の低気圧性擾乱を生成することが知られている.先行研究では,数値シミュレーションによる現象理解が多く,観測データを使った定量的解析はあまり例がなかった.本研究では観測データを使ってポテンシャル渦度(PV)収支解析を行い、東太平洋ITCZのbreakdownと場の再構築の時間発展の様子の定量化を試みた.
利用したデータは欧州中期気象予報センターの再解析ERA-interim(ERA-I)(6時間毎),熱帯降雨観測衛星(TRMM)降雨レーダデータから推定された三次元非断熱加熱(SLH ver.7),GSMaP地表面降水(1時間毎)である.水平空間解像度はERA-Iが緯度・経度幅0.75度,TRMMのデータが約5km,GSMaPデータが緯度・経度幅0.1度である.
TRMM SLHデータのサンプリングが限られるため,GSMaP降水データから、参照テーブルを用いて非断熱加熱を求める方法を考えた。まず降水強度を強さ別に3クラスに分け,500hPaの鉛直風に対して非断熱加熱の鉛直分布を与えるテーブルを作成した.その後,GSMaPとテーブルを使いながらITCZ域の非断熱加熱量を求めた.最後に,非断熱加熱の鉛直プロファイルからその場でのPV生成を定量化し、ERA-Iの力学場と共に,ITCZ域のPV収支解析を行った.
まずはITCZのbreakdownの例として引用されることの多い1988年7月から8月にかけてのイベントを,再解析データERA-Iを用いて解析した.基本場・擾乱場を分離する処理を行った結果,初期状態の東西一様な高渦位帯の状態では順圧不安定の必要条件を満たしており,その後生じる擾乱の発達に伴って不安定が解消されていく様子を捉えることができた.
次に2003年の8月に起こったイベントを解析した.その結果,東太平洋ITCZ域では雄大積雲による高度2km付近の非断熱加熱量が大きく,breakdown初期には加熱が極大を迎えることが確認できた.擾乱がITCZ域から抜けていくのに従って加熱量は落ち着き,次第に場の回復へと向かう時間変化も捉えることができた.
最後に,下層の非断熱加熱によるPV生成を定量的に見積もり,ITCZ域のPV収支を調べた.850hPa面のPV収支解析の結果,下層のPV生成量はITCZ域の外部からの流入や850hPa面のPV変化量に比べて非常に大きいことがわかった.このことから,下層で形成されたPVが鉛直へと輸送された可能性が考えられたため,次に鉛直方向のPV収支を調べた.300hPa面,500hPa面をそれぞれ上層,中層を代表する気圧面とし鉛直3層の近似をした結果,breakdownイベントの初期に下層で生成された過剰なPVは,上層へと輸送されて中層・上層のPV強化を助けていることが示唆された.場の回復へ向かうとPVの鉛直輸送はあまり確認できなくなっていき,下層で生成したPVはその場の回復に使われていることも示唆された.
今後は、本研究の解析に用いたデータの不確定性の検討も行っていきたい。