[HCG33-P02] 原発立地の安全審査に関わる火山災害シミュレーションの問題点
キーワード:Titan2d、Tephra2、茂木モデル
原子力規制委員会による原発の適合性審査には、原発の立地に関する火山災害のリスク評価が含まれている。火山災害のリスク評価に関し、事業者から委員会に提出された資料の中には、研究者が開発した火砕流や降灰などのシミュレーションプログラムや地殻変動モデルを用いて作成されたものがある。しかしながらそれらのプログラムやモデルの利用の仕方については、科学的な妥当性を逸脱した次のような適用事例が見受けられる。
Titan2dの利用について
Titan2dはニューヨーク州立大学バッファロー校で開発された火砕流や泥流・土石流を扱う公開のシュミレーションプログラムで、層の厚さが流体の水平方向の広がりに比べ十分に薄い場合に適用される浅水方程式が成り立つことを前提に粒子流の流れを表現している。気体の運動を含む物理モデルが必要とされる熱雲の部分は扱いの対象外である。本来の適用範囲は、雲仙の溶岩ドーム崩壊などムラピ型の規模の火砕流の底部に限られると考えられる。しかし事業者の審査資料は、カルデラ噴火に伴う大規模な噴煙柱崩壊による火砕流のシミュレーションに、Titan2dの物理的適用条件を無視して作成されている。
参考資料 大規模火砕流へのシミュレーション適用例
阿蘇4 四国電力 https://www.nsr.go.jp/data/000102638.pdf#page=70
入戸火砕流 九州電力 https://www.nsr.go.jp/data/000035511.pdf#page=9
洞爺 北海道電力 https://www.nsr.go.jp/data/000035469.pdf#page=6
Tephra2の利用について
Tephra2は、南フロリダ大学で開発された公開された、移流拡散モデルに基づく降灰シミュレーションプログラムである。Tephra2を大規模噴火の降灰予測に用いるには2つ大きな問題がある。その一つは大規模なプリニアン噴火に認められる巨大な傘状噴煙による降灰の物理過程がTephra2 では表現されていないことである。もう一つの問題は、降灰を予測する上で必要な気象条件、噴出物の量や粒度分布などの入力パラメターの推定と設定である。事業者の降灰シミュレーションは多くの場合、影響の大きいと考えられる風向が卓越する月の平均的な風向風速を条件として与えている。しかし平均分布では、最悪シナリオのハザードを評価したことにはならない。南九州においては、台風の接近などは降灰予測に当然考慮すべき気象条件である。
また原子力規制委員会は、移流拡散モデルに基づく緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)について、精度が不十分として原発事故の際の利用を中止する方針を示した。同じ移流拡散モデルを用いながら、実況観測値に基づく放射能拡散予測は信頼できないが、仮想のデータに基づく事業者の降灰予測は信頼できるという評価の間には根本的な矛盾がある。
参考資料
桜島薩摩噴火の降灰シミュレーション 九州電力 https://www.nsr.go.jp/data/000034531.pdf#page=55
原子力規制委員会,2014、SPEEDIに関する資料 https://www.nsr.go.jp/data/000027740.pdf
日本気象学会、2014、原子力関連施設の事故に伴う放射性物質の大気拡散監視・予測技術の強化に関する提言http://www.metsoc.jp/2014/12/17/2467
茂木モデルの利用について
マグマの膨張収縮に伴う地殻変動を推定する手法としてMogi(1958)によるいわゆる茂木モデルは火山学の基本的な地殻変動モデルとして多くの研究に用いられてきた。川内原発の適合性審査において、事業者(九州電力)が提出した資料には、地殻変動をモニタリングする手段として茂木モデルの利用を示す資料が含まれている。しかしその内容を見る限り、マグマだまりの大きさと地表からの深さの関係や地殻の粘弾性に関する原論文の適用条件の注意を無視している。この問題は、審査終了後の火山活動のモニタリングに関する検討チーム会合などでも指摘されており、藤田、清水(2016)、山崎(2016)などの有限要素法を用いた解析により再確認されている。さらに審査終了2年後の昨年になって、原子力規制委員会の技術評価検討会では、茂木モデルの適用が困難であることを自ら認めている。本来なら適合性審査はこの部分に関して見直されるべきものである。
参考資料
九州電力資料、2014、http://www.nsr.go.jp/data/000035760.pdf#page=16
原子力規制委員会原子力施設に於ける火山活動のモニタリングに関する検討チーム議事録、2015
、http://www.nsr.go.jp/data/000091192.pdf#page=43
原子力規制委員会地震・津波技術評価検討会資料、2016、 http://www.nsr.go.jp/data/000149391.pdf#page=33
Titan2dの利用について
Titan2dはニューヨーク州立大学バッファロー校で開発された火砕流や泥流・土石流を扱う公開のシュミレーションプログラムで、層の厚さが流体の水平方向の広がりに比べ十分に薄い場合に適用される浅水方程式が成り立つことを前提に粒子流の流れを表現している。気体の運動を含む物理モデルが必要とされる熱雲の部分は扱いの対象外である。本来の適用範囲は、雲仙の溶岩ドーム崩壊などムラピ型の規模の火砕流の底部に限られると考えられる。しかし事業者の審査資料は、カルデラ噴火に伴う大規模な噴煙柱崩壊による火砕流のシミュレーションに、Titan2dの物理的適用条件を無視して作成されている。
参考資料 大規模火砕流へのシミュレーション適用例
阿蘇4 四国電力 https://www.nsr.go.jp/data/000102638.pdf#page=70
入戸火砕流 九州電力 https://www.nsr.go.jp/data/000035511.pdf#page=9
洞爺 北海道電力 https://www.nsr.go.jp/data/000035469.pdf#page=6
Tephra2の利用について
Tephra2は、南フロリダ大学で開発された公開された、移流拡散モデルに基づく降灰シミュレーションプログラムである。Tephra2を大規模噴火の降灰予測に用いるには2つ大きな問題がある。その一つは大規模なプリニアン噴火に認められる巨大な傘状噴煙による降灰の物理過程がTephra2 では表現されていないことである。もう一つの問題は、降灰を予測する上で必要な気象条件、噴出物の量や粒度分布などの入力パラメターの推定と設定である。事業者の降灰シミュレーションは多くの場合、影響の大きいと考えられる風向が卓越する月の平均的な風向風速を条件として与えている。しかし平均分布では、最悪シナリオのハザードを評価したことにはならない。南九州においては、台風の接近などは降灰予測に当然考慮すべき気象条件である。
また原子力規制委員会は、移流拡散モデルに基づく緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)について、精度が不十分として原発事故の際の利用を中止する方針を示した。同じ移流拡散モデルを用いながら、実況観測値に基づく放射能拡散予測は信頼できないが、仮想のデータに基づく事業者の降灰予測は信頼できるという評価の間には根本的な矛盾がある。
参考資料
桜島薩摩噴火の降灰シミュレーション 九州電力 https://www.nsr.go.jp/data/000034531.pdf#page=55
原子力規制委員会,2014、SPEEDIに関する資料 https://www.nsr.go.jp/data/000027740.pdf
日本気象学会、2014、原子力関連施設の事故に伴う放射性物質の大気拡散監視・予測技術の強化に関する提言http://www.metsoc.jp/2014/12/17/2467
茂木モデルの利用について
マグマの膨張収縮に伴う地殻変動を推定する手法としてMogi(1958)によるいわゆる茂木モデルは火山学の基本的な地殻変動モデルとして多くの研究に用いられてきた。川内原発の適合性審査において、事業者(九州電力)が提出した資料には、地殻変動をモニタリングする手段として茂木モデルの利用を示す資料が含まれている。しかしその内容を見る限り、マグマだまりの大きさと地表からの深さの関係や地殻の粘弾性に関する原論文の適用条件の注意を無視している。この問題は、審査終了後の火山活動のモニタリングに関する検討チーム会合などでも指摘されており、藤田、清水(2016)、山崎(2016)などの有限要素法を用いた解析により再確認されている。さらに審査終了2年後の昨年になって、原子力規制委員会の技術評価検討会では、茂木モデルの適用が困難であることを自ら認めている。本来なら適合性審査はこの部分に関して見直されるべきものである。
参考資料
九州電力資料、2014、http://www.nsr.go.jp/data/000035760.pdf#page=16
原子力規制委員会原子力施設に於ける火山活動のモニタリングに関する検討チーム議事録、2015
、http://www.nsr.go.jp/data/000091192.pdf#page=43
原子力規制委員会地震・津波技術評価検討会資料、2016、 http://www.nsr.go.jp/data/000149391.pdf#page=33