[MIS06-P10] 日本海の約3~22万年前の海底堆積物(IODP Exp. 346)のリンの地球化学:モンスーン気候の変遷を探る
キーワード:Asian Monsoon, Japan Sea
約5000万年前に生じたインド大陸とユーラシア大陸の衝突によるヒマラヤ山脈とチベット高原の形成に伴い、東アジア一帯の気候に影響を与えるモンスーン気候システムが形成された。 このモンスーン気候の影響により、モンスーン流水域に当たる揚子江からの流出が対馬海流に乗って日本海へと運ばれるため、モンスーン気候の影響により日本海堆積物には数cm〜数十cm間隔で有機炭素の量の違いによって生じる明暗互層が発達する。この違いは、一次生産の変動、あるいは有機物の保存効率の変動を反映している。前者の場合は栄養塩の状態、後者の場合は堆積環境の酸化還元状態の変動を表している。これらの変動は大陸風化や海流の変動により生じるものであり、究極的にはモンスーンの変遷によって生じる。逆に、日本海の縞状堆積物の分析により、モンスーン変動を解明できる可能性がある。
そこで本研究では、統合国際深海掘削計画 (IODP: Integrated Ocean Drilling Program)の第346次航海によって2013年の夏に日本海で掘削された明暗互層の堆積物試料Site U1423 (JB-2A) の上部 (3~22万年前: 2.1~13m) 、Site U1425 (YR-1A) の上部 (5~11万年前: 2.1~4.7m)を用いて酸化還元状態の変化を調べるため、リンの形態別存在量により海洋環境を復元し、モンスーンの変遷を解明することを試みた。
リンは、海洋の一次生産を制限する制限栄養塩 (limiting nutrient) 元素であり、堆積物中のリンの形態別存在量は堆積環境の酸化還元状態や生物生産の環境因子により変化するため、これらの分画から過去の堆積環境の重要な情報を得ることができる。
Ruttenberg (1992) を改良した方法でリンを5形態 (吸着性リン : Pabs, 鉄結合態リン : PFe, 自生アパタイト態リン : Pauth, 砕屑性リン : Pdet, 有機態リン : Porg) に分画した。測定はモリブデンブルー法、モリブデン錯体−有機溶媒抽出法 (Watanabe and Olsen, 1961)による吸光光度法で行った。
U1423試料中のリンの主要な形態は、Pauth (Ave. = 0.044 wt.%) であった。次いで多く存在したのがPorg (Ave. = 0.016 wt.%) であり、Pauthと逆相関をとった。またU1425試料においても主要なリンの形態はPauth (Ave. =0.048 wt.%) 、次いでPorg (Ave. =0.026 wt.%)であった。
海洋深層が酸化的である時、溶存酸素により有機物が分解されてしまうため有機態リンの存在量はわずかとなる。最終的に放出されたリン酸は、自生アパタイト態リンとして堆積物中に保存される。即ち、これらが逆相関となる挙動を示していることから、海洋表層で生成された有機物が沈降し、海洋が酸化的であったがゆえに分解され、後に自生アパタイト態リンとなったことが言える。これらが主要な形態であることから、(1)海洋は酸化的であるということ、(2)表層での生物活動が盛んであったということ、の二点が考えられる。加えて、Pauth量が酸化還元の指標として用いられるCe量と相関を示した。これにより(1)の考えを裏付けることができる。また、特に全リン量が高い試料は暗色層のものが多かったことから、暗色層では夏季モンスーンが発達し、東アジア地域で雨が多く降ることにより、栄養塩が豊富とされている長江由来の河川水の流量が増大し、対馬海流を流れ、日本海に流入したと考えられる。今後、さらに海洋の状態およびモンスーンの変化の定量化を進めるべく、異なるプロキシの地球化学分析を進めていきたい。
そこで本研究では、統合国際深海掘削計画 (IODP: Integrated Ocean Drilling Program)の第346次航海によって2013年の夏に日本海で掘削された明暗互層の堆積物試料Site U1423 (JB-2A) の上部 (3~22万年前: 2.1~13m) 、Site U1425 (YR-1A) の上部 (5~11万年前: 2.1~4.7m)を用いて酸化還元状態の変化を調べるため、リンの形態別存在量により海洋環境を復元し、モンスーンの変遷を解明することを試みた。
リンは、海洋の一次生産を制限する制限栄養塩 (limiting nutrient) 元素であり、堆積物中のリンの形態別存在量は堆積環境の酸化還元状態や生物生産の環境因子により変化するため、これらの分画から過去の堆積環境の重要な情報を得ることができる。
Ruttenberg (1992) を改良した方法でリンを5形態 (吸着性リン : Pabs, 鉄結合態リン : PFe, 自生アパタイト態リン : Pauth, 砕屑性リン : Pdet, 有機態リン : Porg) に分画した。測定はモリブデンブルー法、モリブデン錯体−有機溶媒抽出法 (Watanabe and Olsen, 1961)による吸光光度法で行った。
U1423試料中のリンの主要な形態は、Pauth (Ave. = 0.044 wt.%) であった。次いで多く存在したのがPorg (Ave. = 0.016 wt.%) であり、Pauthと逆相関をとった。またU1425試料においても主要なリンの形態はPauth (Ave. =0.048 wt.%) 、次いでPorg (Ave. =0.026 wt.%)であった。
海洋深層が酸化的である時、溶存酸素により有機物が分解されてしまうため有機態リンの存在量はわずかとなる。最終的に放出されたリン酸は、自生アパタイト態リンとして堆積物中に保存される。即ち、これらが逆相関となる挙動を示していることから、海洋表層で生成された有機物が沈降し、海洋が酸化的であったがゆえに分解され、後に自生アパタイト態リンとなったことが言える。これらが主要な形態であることから、(1)海洋は酸化的であるということ、(2)表層での生物活動が盛んであったということ、の二点が考えられる。加えて、Pauth量が酸化還元の指標として用いられるCe量と相関を示した。これにより(1)の考えを裏付けることができる。また、特に全リン量が高い試料は暗色層のものが多かったことから、暗色層では夏季モンスーンが発達し、東アジア地域で雨が多く降ることにより、栄養塩が豊富とされている長江由来の河川水の流量が増大し、対馬海流を流れ、日本海に流入したと考えられる。今後、さらに海洋の状態およびモンスーンの変化の定量化を進めるべく、異なるプロキシの地球化学分析を進めていきたい。