[MIS19-P06] 熱帯季節林から流出する硝酸の起源 -酸素同位体異常を用いた解析-
キーワード:酸素同位体異常、熱帯季節林、窒素沈着
東南アジア地域では大気からの人為由来窒素の沈着量が増加しているが、この地域に広く分布する熱帯林の窒素循環や流出水質への影響にはいまだ不明な点が多い。特に、高いNPPを持つ熱帯林生態系では窒素の内部循環フラックスが著しく大きく、物質収支による大気由来窒素の影響評価が困難であった。一方、大気由来窒素の影響指標として硝酸イオンの三酸素同位体異常(Δ17O)が近年注目されている。この値は大気硝酸でほぼ一定の値を示す一方、生態系内の同化や脱窒といったプロセスにおいて変化しないため、安定窒素同位体比の情報と組み合わせることで、大気由来窒素の森林生態系内での挙動を明らかにするために有用なツールとなる。しかしながら、これまでにΔ17O の測定は中緯度地方を中心に行われており、熱帯地域における測定例はほとんど報告されていない。本研究は、熱帯サバナに成立する熱帯季節林の小集水域において降水、土壌水、渓流水中の硝酸イオンの窒素 (δ15N)と酸素 (δ18OおよびΔ17O )の同位体比を測定し、Δ17O を指標として用いることにより、1)熱帯地域における本手法の有効性を確かめるとともに、2)大気沈着由来窒素による熱帯季節林の渓流水質への寄与を明らかにすることを目的とした。
調査は東北タイのサケラート林業研究所に設置した35 haの山地小集水域試験地において2011~2013年に実施した。調査地は年平均降水量1370mm、平均気温25.5℃のサバナ気候に属し、標高600-680mの丘陵地に主に熱帯季節林が分布している。例年、4月から10月が雨季、11月から3月が乾季である。乾季にはほとんど降水が認められず、乾季後期から雨季初期にかけて渓流水の基底流が枯渇する。降水の採取にはバルクサンプラーを用い、降水イベントのみられた翌朝に採水・冷蔵保管した後、月毎のコンポジット試料として硝酸イオンの同位体分析に供した。また、土壌水および渓流水の硝酸イオンは、カラムおよびバッグに充填した陰イオン交換樹脂を現場に設置して捕集濃縮の後に回収し、イオン成分を抽出して分析に供した。土壌水については約6か月、渓流水については約2週間設置したのちに、新たなイオン交換樹脂と交換した。各試料は実験室内にて冷凍保管した後、硝酸イオンのδ15Nとδ18Oは脱窒菌法にて、Δ17Oは硝酸イオンを脱窒菌により一酸化二窒素に変換後ワシントン大にて測定した。
雨季である4月から10月にかけて降水中のΔ17O は平均21‰であり、雨季を通じてほぼ一定であった。雨季における土壌水中のΔ17O は斜面の表層と下層でそれぞれ1.3と1.4‰、河畔部ではそれぞれ0.9と0.4‰と顕著に低下しており、大気由来窒素の寄与が著しく低下していたことが示唆された。一方、乾季における土壌水中のΔ17O は斜面部の表層と下層でそれぞれ4.6、5.8‰、河畔部では2.4、0.8‰であり、特に斜面部でやや高い傾向があった。渓流水中のΔ17O は6-12‰のレンジを示し、平均で約9‰であった。渓流水のδ15Nとδ18O には明らかな相関が認められ、流出する硝酸イオンが脱窒プロセスの強い影響下にあると考えられた。
降水中のΔ17O は中緯度地域よりもやや低いものの、雨季を通じてほぼ一定の値を示したことから、本地域においても大気由来窒素評価の有効な指標として利用可能と考えられた。全期間で土壌水と渓流水のΔ17O は降水を大幅に下回っており、同化・無機化・脱窒等の内部プロセスに由来する硝酸イオンによる渓流水質への寄与が大きかったと推察された。硝酸イオンの濃度とフラックスも考慮に入れた大気由来硝酸の寄与率についても議論を進める予定である。
調査は東北タイのサケラート林業研究所に設置した35 haの山地小集水域試験地において2011~2013年に実施した。調査地は年平均降水量1370mm、平均気温25.5℃のサバナ気候に属し、標高600-680mの丘陵地に主に熱帯季節林が分布している。例年、4月から10月が雨季、11月から3月が乾季である。乾季にはほとんど降水が認められず、乾季後期から雨季初期にかけて渓流水の基底流が枯渇する。降水の採取にはバルクサンプラーを用い、降水イベントのみられた翌朝に採水・冷蔵保管した後、月毎のコンポジット試料として硝酸イオンの同位体分析に供した。また、土壌水および渓流水の硝酸イオンは、カラムおよびバッグに充填した陰イオン交換樹脂を現場に設置して捕集濃縮の後に回収し、イオン成分を抽出して分析に供した。土壌水については約6か月、渓流水については約2週間設置したのちに、新たなイオン交換樹脂と交換した。各試料は実験室内にて冷凍保管した後、硝酸イオンのδ15Nとδ18Oは脱窒菌法にて、Δ17Oは硝酸イオンを脱窒菌により一酸化二窒素に変換後ワシントン大にて測定した。
雨季である4月から10月にかけて降水中のΔ17O は平均21‰であり、雨季を通じてほぼ一定であった。雨季における土壌水中のΔ17O は斜面の表層と下層でそれぞれ1.3と1.4‰、河畔部ではそれぞれ0.9と0.4‰と顕著に低下しており、大気由来窒素の寄与が著しく低下していたことが示唆された。一方、乾季における土壌水中のΔ17O は斜面部の表層と下層でそれぞれ4.6、5.8‰、河畔部では2.4、0.8‰であり、特に斜面部でやや高い傾向があった。渓流水中のΔ17O は6-12‰のレンジを示し、平均で約9‰であった。渓流水のδ15Nとδ18O には明らかな相関が認められ、流出する硝酸イオンが脱窒プロセスの強い影響下にあると考えられた。
降水中のΔ17O は中緯度地域よりもやや低いものの、雨季を通じてほぼ一定の値を示したことから、本地域においても大気由来窒素評価の有効な指標として利用可能と考えられた。全期間で土壌水と渓流水のΔ17O は降水を大幅に下回っており、同化・無機化・脱窒等の内部プロセスに由来する硝酸イオンによる渓流水質への寄与が大きかったと推察された。硝酸イオンの濃度とフラックスも考慮に入れた大気由来硝酸の寄与率についても議論を進める予定である。