[SGL36-P10] 野母半島,長崎変成岩類(広義)の新たなジルコンU-Pb年代
キーワード:ジルコン、長崎変成岩類、白亜紀、LA-ICPMS、西南日本
はじめに
長崎県西彼杵半島,野母半島および熊本県天草下島には長崎変成岩類と呼ばれる高圧変成岩類が分布する.野母半島の長崎変成岩類は,見かけ下位から三和層(=三波川変成岩類),城山マイロナイト(=肥後変成岩類),野母崎層(=周防変成岩類),カンブリア紀野母変はんれい岩複合岩体からなる(宮崎・西山,1989;武田ほか,2002;猪木ほか,1979).最近では,野母崎層および野母変はんれい岩複合岩体は長崎変成岩類から除外されている(Miyazaki et al., 2016).筆者らは長崎変成岩類の地質構造発達史解明のため,野外調査およびジルコンU-Pb年代測定を行っている(高地ほか,2011;長田ほか,2014など).今回は,野母半島の野母崎層などを含む広義の長崎変成岩類の調査結果について報告する(年代値については表参照).
地質概説
三和層はザクロ石帯~黒雲母帯の泥質片岩主体で,苦鉄質片岩や珪質片岩を挟む.これまでに86-68 Maの白雲母K-Ar年代などが報告されている(例えば植田・大貫,1968).結晶片岩の見かけ下位には蛇紋岩と交代岩が分布する.城山マイロナイトは高温型の砂泥質変成岩と花崗岩質のマイロナイトからなり,角閃石変はんれい岩~角閃岩を伴う(武田ほか,2002a, b).砂泥質変成岩からは92 Ma,84 Maの白雲母K-Ar年代が報告されている(武田ほか,2002a, b).野母崎層は緑泥石帯の泥質片岩と苦鉄質片岩からなり,一部に石灰岩レンズを含む.これまでに 252-153 Maの白雲母K-Ar年代などが報告されている(例えばNishimura, 1998).また,これらの変成岩と衝上断層を介して,野母変はんれい岩複合岩体と呼ばれる優白質~優黒質の変はんれい岩などが一部に分布する (猪木ほか,1979:豊原ほか,1992).この岩体からは592-457 Maの角閃石K-Ar年代(猪木ほか,1979),526-474 MaのジルコンU-Pb年代が報告されている(長田ほか,2014,2015JpGU).この岩体には石灰質~苦鉄質の変成岩ブロックもみられる.野母崎層には小規模に花崗岩ないしアプライトの貫入が認められ,野母崎層に接触変成を与えている(岩崎,1954;大島,1964など).
採取試料・手法
野母半島から三和層泥質片岩1試料,角閃石変はんれい岩1試料,花崗岩質マイロナイト1試料,野母変はんれい岩複合岩体中の泥質変成岩ブロック1試料を採取した.抽出したジルコンのU-Pb年代を,名古屋大学環境学研究科設置のLA-ICPMSで測定した.
年代測定結果
三和層:ジルコンの存在比(%)は,後期白亜紀(6.7)前期白亜紀(4.4),ジュラ紀(48.9),三畳紀(8.9),ペルム紀(8.9),古原生代以前(22.2)であった.最も若いジルコン年代(YZ:206Pb/238U年代 )は90.3 ± 3.5 Ma (2σ) となり,最も若いクラスタの加重平均年代値(YC :206Pb/238U年代 )は92.1 ± 1.8 Maとなった.
角閃石変はんれい岩:33スポット測定し,16スポット(Th/U>0.1)から113.5±1.3 Maのコンコーディア年代,113.5±1.4 Maの206Pb/238U加重平均値年代を得た.
花崗岩質マイロナイト:詳しくはポスターにて説明する.
泥質変成岩ブロック:ジルコンの存在比(%)はオルドビス紀(83.4),新・中原生代(16.6)であった.YZは444.3 ±9.9 Maとなり,YCは457.8±6.2 Maとなった.
考察
三和層の泥質片岩はYZ,YCがともにTuronianを示し,三和層の原岩はTuronian以降に堆積したと考えられる.変成年代を示すK-Ar年代がSantonianからMaastrichtianと堆積年代より新しいため,矛盾はない.
城山マイロナイトの角閃石変はんれい岩は約113 Maに形成されたと考えられる.これは四国西部の唐崎マイロナイトや大島変成岩類,九州中部の肥後深成岩類,天草下島に分布する長崎(高浜)変成岩類上部ユニットから得られているジルコンU-Pb年代(坂島ほか,1998;坂島ほか,2000;Sakashima et al., 2003;Miyazaki et al., 2013など)に近い.また,関東の寄居複合岩体より得られているK-Ar年代にも近い.従って,城山マイロナイトは岩相や年代などを考慮すると,寄居複合岩体,唐崎マイロナイト,大島変成岩類,肥後深成岩類,高浜変成岩類上部ユニットなどに対比が期待される.
野母変はんれい岩複合岩体中の泥質変成岩ブロックの堆積年代は,野母変はんれい岩複合岩体中の変はんれい岩から得られている526—474 MaのジルコンU-Pb年代より若い(長田ほか,2014,2015JpGU).両岩石は断層により画される.この泥質片岩のジルコン年代分布は,蓮華変成岩類のそれ(高地ほか,2013JpGU;高地,2015)に類似し,Tsutsumi et al. (2003)が報告している野母崎層のそれには類似しない.従って,この変成岩は蓮華変成岩類に相当し,断層によって野母変はんれい岩複合岩体中に取り込まれた構造岩塊と考えられる.
長崎県西彼杵半島,野母半島および熊本県天草下島には長崎変成岩類と呼ばれる高圧変成岩類が分布する.野母半島の長崎変成岩類は,見かけ下位から三和層(=三波川変成岩類),城山マイロナイト(=肥後変成岩類),野母崎層(=周防変成岩類),カンブリア紀野母変はんれい岩複合岩体からなる(宮崎・西山,1989;武田ほか,2002;猪木ほか,1979).最近では,野母崎層および野母変はんれい岩複合岩体は長崎変成岩類から除外されている(Miyazaki et al., 2016).筆者らは長崎変成岩類の地質構造発達史解明のため,野外調査およびジルコンU-Pb年代測定を行っている(高地ほか,2011;長田ほか,2014など).今回は,野母半島の野母崎層などを含む広義の長崎変成岩類の調査結果について報告する(年代値については表参照).
地質概説
三和層はザクロ石帯~黒雲母帯の泥質片岩主体で,苦鉄質片岩や珪質片岩を挟む.これまでに86-68 Maの白雲母K-Ar年代などが報告されている(例えば植田・大貫,1968).結晶片岩の見かけ下位には蛇紋岩と交代岩が分布する.城山マイロナイトは高温型の砂泥質変成岩と花崗岩質のマイロナイトからなり,角閃石変はんれい岩~角閃岩を伴う(武田ほか,2002a, b).砂泥質変成岩からは92 Ma,84 Maの白雲母K-Ar年代が報告されている(武田ほか,2002a, b).野母崎層は緑泥石帯の泥質片岩と苦鉄質片岩からなり,一部に石灰岩レンズを含む.これまでに 252-153 Maの白雲母K-Ar年代などが報告されている(例えばNishimura, 1998).また,これらの変成岩と衝上断層を介して,野母変はんれい岩複合岩体と呼ばれる優白質~優黒質の変はんれい岩などが一部に分布する (猪木ほか,1979:豊原ほか,1992).この岩体からは592-457 Maの角閃石K-Ar年代(猪木ほか,1979),526-474 MaのジルコンU-Pb年代が報告されている(長田ほか,2014,2015JpGU).この岩体には石灰質~苦鉄質の変成岩ブロックもみられる.野母崎層には小規模に花崗岩ないしアプライトの貫入が認められ,野母崎層に接触変成を与えている(岩崎,1954;大島,1964など).
採取試料・手法
野母半島から三和層泥質片岩1試料,角閃石変はんれい岩1試料,花崗岩質マイロナイト1試料,野母変はんれい岩複合岩体中の泥質変成岩ブロック1試料を採取した.抽出したジルコンのU-Pb年代を,名古屋大学環境学研究科設置のLA-ICPMSで測定した.
年代測定結果
三和層:ジルコンの存在比(%)は,後期白亜紀(6.7)前期白亜紀(4.4),ジュラ紀(48.9),三畳紀(8.9),ペルム紀(8.9),古原生代以前(22.2)であった.最も若いジルコン年代(YZ:206Pb/238U年代 )は90.3 ± 3.5 Ma (2σ) となり,最も若いクラスタの加重平均年代値(YC :206Pb/238U年代 )は92.1 ± 1.8 Maとなった.
角閃石変はんれい岩:33スポット測定し,16スポット(Th/U>0.1)から113.5±1.3 Maのコンコーディア年代,113.5±1.4 Maの206Pb/238U加重平均値年代を得た.
花崗岩質マイロナイト:詳しくはポスターにて説明する.
泥質変成岩ブロック:ジルコンの存在比(%)はオルドビス紀(83.4),新・中原生代(16.6)であった.YZは444.3 ±9.9 Maとなり,YCは457.8±6.2 Maとなった.
考察
三和層の泥質片岩はYZ,YCがともにTuronianを示し,三和層の原岩はTuronian以降に堆積したと考えられる.変成年代を示すK-Ar年代がSantonianからMaastrichtianと堆積年代より新しいため,矛盾はない.
城山マイロナイトの角閃石変はんれい岩は約113 Maに形成されたと考えられる.これは四国西部の唐崎マイロナイトや大島変成岩類,九州中部の肥後深成岩類,天草下島に分布する長崎(高浜)変成岩類上部ユニットから得られているジルコンU-Pb年代(坂島ほか,1998;坂島ほか,2000;Sakashima et al., 2003;Miyazaki et al., 2013など)に近い.また,関東の寄居複合岩体より得られているK-Ar年代にも近い.従って,城山マイロナイトは岩相や年代などを考慮すると,寄居複合岩体,唐崎マイロナイト,大島変成岩類,肥後深成岩類,高浜変成岩類上部ユニットなどに対比が期待される.
野母変はんれい岩複合岩体中の泥質変成岩ブロックの堆積年代は,野母変はんれい岩複合岩体中の変はんれい岩から得られている526—474 MaのジルコンU-Pb年代より若い(長田ほか,2014,2015JpGU).両岩石は断層により画される.この泥質片岩のジルコン年代分布は,蓮華変成岩類のそれ(高地ほか,2013JpGU;高地,2015)に類似し,Tsutsumi et al. (2003)が報告している野母崎層のそれには類似しない.従って,この変成岩は蓮華変成岩類に相当し,断層によって野母変はんれい岩複合岩体中に取り込まれた構造岩塊と考えられる.