[SIT28-P02] 転位が岩石の非弾性に与える影響:有機多結晶体を用いたアナログ実験
キーワード:anelasticity, dislocation, seismic attenuation, analog experiment, defect, polycrystal
地震波速度と減衰という2つの観測量は岩石の弾性と非弾性を反映した情報であるため,これらの観測から地球内部の状態を推定するには弾性と非弾性のふるまいを理解する必要がある.岩石の非弾性メカニズムは詳しくは明らかにされていないが,粒界すべりと転位運動の主に2つが提案されている.粒界は面欠陥として,転位は線欠陥として岩石中に普遍的に存在し,地震波伝播の際にすべり運動することでエネルギーを散逸させて,地震波の速度分散と減衰を引き起こす.実験の難しさから,転位による岩石非弾性の実験的研究は粒界すべりに比べて限られており [1, 2],詳細なメカニズムを明らかにするにはデータが不足している.そこで本研究では,岩石アナログ物質を使用した常温常圧実験によって,転位が引き起こす非弾性の高精度,広周波数帯域での測定を実現する.
岩石アナログ物質には,ボルネオール多結晶体 [3] を用いた.この物質では,粒界による非弾性がすでに詳細に調べられているため [4, 5, 6],そこからのずれとして転位の影響を調べることができる.まず,この試料に転位を導入するための温度・差応力条件を 調べるため,変形機構図(差応力 σと歪速度 dε/dt の関係)の作成を行った.封圧0.8 MPa,温度40℃,50℃において,様々な1軸圧縮応力下で変形し,流動則を求めた.その結果,50℃で差応力が1 MPaを上回ると,拡散クリープから転位クリープ(dε/dt ∝ σ5)に遷移することが分かった.転位クリープが生じたことは微細構造中の粒界移動の痕跡からも裏付けられた.
次に,決定した条件下で転位クリープさせた試料の非弾性を,10-4–102 Hzの帯域における強制振動実験 [5] によって測定した.拡散クリープ領域(σ = 0.27 MPa),遷移領域(σ = 1.3 MPa),転位クリープ領域(σ = 1.9 MPa)の3つの差応力条件を選び,小さい差応力条件から大きい条件へと順に変えて1つの試料を変形させ,各変形後の非弾性特性を測定した.非弾性測定では,1軸応力の正弦的な変化に対する1軸歪応答を測定する強制振動実験を行い,ヤング率と減衰(非弾性特性)を求めた.その結果,高差応力下でのクリープ後ほどヤング率が減少し,減衰が増加した.更に,こうした非弾性特性の変化は,10 日~2 週間程度かけて行った非弾性測定の間に,拡散クリープ後の状態までほぼ完全に回復することも分かった.これらの結果から,転位クリープによって試料中に導入された転位によって非弾性が増大し,その転位が回復(消滅)することで非弾性特性も回復したと解釈される.
更に,転位による非弾性緩和の時間スケールを制約するための実験を行った.転位クリープ領域(σ = 1.9 MPa)の差応力条件下で変形させた別試料のヤング率を,変形前後において,中心周波数が106 Hzの超音波を用いて測定した.具体的には,試料中に超音波を伝播させて縦波と横波の速度を測定することでヤング率を求めた.その結果,106 Hzでは変形前後でヤング率が変化せず,どちらも非緩和ヤング率に一致することが分かった.
以上の結果から,本研究の多結晶体試料では,転位が引き起こす非弾性緩和の大部分は102–106 Hzの帯域に存在していることが明らかとなった.転位による非弾性緩和は10%程度のヤング率の低下をもたらす強度を持ち,その時間スケールは粒界によるものに比べて短かった.
[1] Guéguen et al. (1989), Q-1 of forsterite single crystals, Phys. Earth Planet. Inter.
[2] Farla et al. (2012), Dislocation damping and anisotropic seismic wave attenuation in Earth's upper mantle, Science.
[3] Takei (2000), Acoustic properties of partially molten media studied on a simple binary system with a controllable dihedral angle, J. Geophys. Res.
[4] McCarthy et al. (2011), Experimental study of attenuation and dispersion over a broad frequency range: 2. The universal scaling of polycrystalline materials, J. Geophys. Res. Solid Earth.
[5] Takei et al. (2014), Temperature, grain size, and chemical controls on polycrystal anelasticity over a broad frequency range extending into the seismic range, J. Geophys. Res. Solid Earth.
[6] Yamauchi and Takei (2016), Polycrystal anelasticity at near-solidus temperatures, J. Geophys. Res. Solid Earth.
岩石アナログ物質には,ボルネオール多結晶体 [3] を用いた.この物質では,粒界による非弾性がすでに詳細に調べられているため [4, 5, 6],そこからのずれとして転位の影響を調べることができる.まず,この試料に転位を導入するための温度・差応力条件を 調べるため,変形機構図(差応力 σと歪速度 dε/dt の関係)の作成を行った.封圧0.8 MPa,温度40℃,50℃において,様々な1軸圧縮応力下で変形し,流動則を求めた.その結果,50℃で差応力が1 MPaを上回ると,拡散クリープから転位クリープ(dε/dt ∝ σ5)に遷移することが分かった.転位クリープが生じたことは微細構造中の粒界移動の痕跡からも裏付けられた.
次に,決定した条件下で転位クリープさせた試料の非弾性を,10-4–102 Hzの帯域における強制振動実験 [5] によって測定した.拡散クリープ領域(σ = 0.27 MPa),遷移領域(σ = 1.3 MPa),転位クリープ領域(σ = 1.9 MPa)の3つの差応力条件を選び,小さい差応力条件から大きい条件へと順に変えて1つの試料を変形させ,各変形後の非弾性特性を測定した.非弾性測定では,1軸応力の正弦的な変化に対する1軸歪応答を測定する強制振動実験を行い,ヤング率と減衰(非弾性特性)を求めた.その結果,高差応力下でのクリープ後ほどヤング率が減少し,減衰が増加した.更に,こうした非弾性特性の変化は,10 日~2 週間程度かけて行った非弾性測定の間に,拡散クリープ後の状態までほぼ完全に回復することも分かった.これらの結果から,転位クリープによって試料中に導入された転位によって非弾性が増大し,その転位が回復(消滅)することで非弾性特性も回復したと解釈される.
更に,転位による非弾性緩和の時間スケールを制約するための実験を行った.転位クリープ領域(σ = 1.9 MPa)の差応力条件下で変形させた別試料のヤング率を,変形前後において,中心周波数が106 Hzの超音波を用いて測定した.具体的には,試料中に超音波を伝播させて縦波と横波の速度を測定することでヤング率を求めた.その結果,106 Hzでは変形前後でヤング率が変化せず,どちらも非緩和ヤング率に一致することが分かった.
以上の結果から,本研究の多結晶体試料では,転位が引き起こす非弾性緩和の大部分は102–106 Hzの帯域に存在していることが明らかとなった.転位による非弾性緩和は10%程度のヤング率の低下をもたらす強度を持ち,その時間スケールは粒界によるものに比べて短かった.
[1] Guéguen et al. (1989), Q-1 of forsterite single crystals, Phys. Earth Planet. Inter.
[2] Farla et al. (2012), Dislocation damping and anisotropic seismic wave attenuation in Earth's upper mantle, Science.
[3] Takei (2000), Acoustic properties of partially molten media studied on a simple binary system with a controllable dihedral angle, J. Geophys. Res.
[4] McCarthy et al. (2011), Experimental study of attenuation and dispersion over a broad frequency range: 2. The universal scaling of polycrystalline materials, J. Geophys. Res. Solid Earth.
[5] Takei et al. (2014), Temperature, grain size, and chemical controls on polycrystal anelasticity over a broad frequency range extending into the seismic range, J. Geophys. Res. Solid Earth.
[6] Yamauchi and Takei (2016), Polycrystal anelasticity at near-solidus temperatures, J. Geophys. Res. Solid Earth.