JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[JJ]Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS17] [JJ] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2017年5月21日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[SSS17-P17] マイロナイト中の再結晶石英のカソードルミネッセンス・スペクトル特性

*田野 孝太朗1,2金井 拓人1綿貫 峻介1高木 秀雄1 (1.早稲田大学、2.独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構)

キーワード:石英、カソードルミネッセンス、マイロナイト

石英は結晶内の格子欠陥や不純物元素の存在によってカソードルミネッセンス (CL) 発光の特性をもつ.マイロナイトに対しCL像観察を行った研究例として, Shimamoto et al. (1991), Morales et al. (2011),Kidder et al. (2013) などがある.一方, CLスペクトルをHunt (2013) で総括された発光原因ごとに分離し,マイロナイト化の影響について検討した研究は報告されていない.そこで本研究では,マイロナイト化に伴う再結晶石英の細粒化とCLスペクトルとの関連性について検討した.使用した試料は青森県白神山地西部入良川および三重県の中央構造線北方に分布する白亜紀花崗岩類を原岩とするマイロナイトを対象とし,剪断帯に直交するルートにおいて,CLスペクトルの特徴の変化を調べた.
 石英のCLスペクトルは主に青色領域の波長420 nm,赤色領域の620 nm付近にピークをもつブロードなバンドスペクトルであり,この2つのバンドの相対的な強度の違いにより,紫–赤色の様々な発光を呈す.本研究ではSEM-CLを用いて,各試料に含まれる石英のスペクトルを測定し,得られたスペクトルデータに対し,主成分分析を行った.また,Hunt (2013) で総括された発光原因に対応する波長を用い,得られたスペクトルを9つのVoigt関数からなる混合Voigt関数にフィッティングしてピーク分離を行った.各Voigt関数の中心波長は発光原因が知られている380,420,450,500,580,620,650,705 nmと発光原因は不明だがピークが存在する730−800 nmの合計9つに設定し,分離された各ピークの混合係数を求めた.
 主成分分析の結果,すべての試料について第一主成分 (PC1) は全体的な発光強度,第二主成分 (PC2) は青側と赤側の発光強度の比を表すパラメーターとなった.なお,PC2は全体の発光強度の影響も受けるため,各試料のスペクトルを面積が等しくなるように規格化し,規格化したスペクトルにPC2の固有ベクトルを乗じることでPC2としてのスコア (PC2’) を求めた.
 入良川と三重のマイロナイトに共通する結果として,PC1スコアでは発光強度に試料間のばらつきが見られたが,PC2’スコアから母岩から剪断帯の中心に向かって再結晶石英の粒径が小さくなるほど赤側 (580−650 nm) の発光が相対的に強くなる結果を示した.入良川マイロナイトの変形時の温度に全体的に大きな変化は示さず,350−450℃と推定される(綿貫ほか,2017)ことから,PC2’の明瞭な変化は,変形温度の変化に依存するものではないと考えられる.ピーク分離の結果,再結晶石英の粒径減少に伴い, 380,420,450 nmについては各混合係数が減少,620 nmについてはその混合係数が増加する傾向が見られた.これらの結果から,マイロナイト化が強くなるにつれて,不純物元素として青側の発光をもたらすAl,Tiが減少した可能性,または,赤側の発光をもたらす非架橋酸素空孔中心 (NBOHC)が増加した可能性が考えられる.NBOHCはOH結合の欠陥に起因すると報告されており (Götze et al., 2001) ,マイロナイト化の進行によってこの欠陥が増加した可能性が考えられる.今後は,マイロナイト化の進行に伴う石英中のこれらの格子欠陥の実態を明確にする必要がある.

文献
Götze, J., Plötze, M., and Habermann, D., 2001, Mineralogy and Petrology, 71, 225-250.
Hunt, A. M. W., 2013, Jour. Arch. Sci., 40, 2902-2912.
Kidder, S., Avouac, J. P., and Chan, Y. C., 2013, Solid Earth, 4, 1-21.
Morales, L. F. G., Mainprice, D., Lloyd, G. E., and Law, R. D., 2011, Geol. Soc. London Spec. Publ., 360, 151-174.
Shimamoto, T., Kanaori, Y., and Asai, K., 1991, Jour. Struct. Geol. 13, 967-973.
綿貫峻介・金井拓人・坂秀憲・高木秀雄, 2017, 地質学雑誌, 123, (印刷中).