[S-VC47] [JJ] 活動的火山

[SVC47-P11] 箱根山周辺の河川床堆積物化学組成にみられる火山活動の影響

*沼波 望¹、宮崎 遼¹、大場 武¹ (1.東海大学理学部化学科)

キーワード：箱根火山、地球化学図、元素組成

【諸言】日本列島には，100以上の活火山が分布している．活火山の定義の一つは，過去1万年前以降の噴火履歴である．有史の噴火履歴が無く，現在，噴気活動がない活火山も存在する．そのような活火山であっても将来，噴火の可能性はある．火山防災を考える上で，現在静穏な活火山が，今後，どのような活動をするか予測することは重要である．将来発生する火山活動は，過去に発生した火山活動に類似する可能性は高い．現在，噴気活動が見られない火山であっても，過去の噴気活動の場所を特定することは，将来の火山活動を予測する上で有用である．河川床堆積物は上流地域の地殻表層の元素濃度を代表しており，地球化学図の作製に用いられてきた．活火山において，過去に存在した噴気活動の影響の痕跡が，河床堆積物に残されているかも知れない．本研究では，現在，噴気活動が存在する箱根山を取り上げ，周辺を流れる早川本流および支流の河川床堆積物に，どのような影響が見られるか調べる．
【実験・操作方法】箱根山周辺を流れる早川の本流および支流の，19ヶ所で試料を採取した．河川床堆積物を約1kgシャベルなどで採取し，乾燥させた後，篩分けし，細粒（0.30～0.85mm）および粗粒（0.85～1.7mm）の粒子を得た．次に磁石を用い，篩分けた試料から，磁鉄鉱など磁性を持つ物質を取り除いた後，純水で超音波洗浄をした．これを瑪瑙の乳鉢で粉砕し，6M HClO₄溶液 0.15mL，25M HF溶液 0.30mLを用いて溶解した．更にこの溶液を120℃で6時間，170℃で6時間放置し，200℃でドライアップするまで加熱し，放冷した．これに10M HCl 溶液0.20mLを加え，再度120℃でドライアップするまで加熱し，放冷した．最後に0.5M HNO₃溶液 5.00mLで試料を溶解させ全容を25mLまで0.5M HNO₃溶液を加え，試料原液とした．この原液を適宜希釈し，ICP-MS（ThermoScience, iCAPQ）で分析した．
【結果・考察】
早川本流の試料については，日本列島における若い地殻上部化学組成（Togashi et al.,2000）と比較してSc，Vの濃度が高く，これは火山灰が卓越する地域（主に東日本）の特徴と一致した．箱根山の山麓を流れる河川と早川が合流する地点では，高濃度のAsが検出された．箱根山の中央火口丘で湧出する温泉にはAs濃度が高いことが報告されている（神奈川県温泉地学研究所HP）．今回発見された河川床堆積物の高濃度Asは箱根山の火山活動の影響と考えられる．
【参考文献】
Togashi,S.,Imai,N.,Okuyama-Kusunose,Y.,Tanaka,T.,Okai,T.,Koma,T.,Murata,Y. (2000): Young upper crustal chemical composition of the orogenic Japan Arc,
Geochemistry,Geophysics,Geosystems.,1, 2000GC000083.,p.18-19.
粟屋徹,大山正雄,石坂信之,板寺一洋(2002):箱根・湯河原地域における河川水と温泉のヒ素負荷量, 49-70,33,p.56-58.