[SVC49-P03] 阿蘇4火砕流の岩相層厚変化と流動堆積機構
キーワード:阿蘇4、火砕流、岩相、層厚、流動堆積機構
火砕流は,高温高速であることが多く,火山体周辺に多大な被害をもたらす.特にカルデラ形成を伴う大規模火砕流は,影響範囲も広く,正確な分布域の把握や,流動堆積機構の解明が重要となって来ている.90kaに発生した阿蘇4火砕流は国内最大級の噴火(VEI=7)であり,到達範囲も160km以上に達している.ここでは,阿蘇4火砕流堆積物の層厚や構成物の粒径,岩相変化に基づいた流動堆積機構を議論する.
層厚の変化を明らかにするために,地質図幅,ボーリングデータ,各種文献データ,地形図からの読み取り等によって,3,596地点の層厚データを収集した.溶結した地点については,溶結部の平均密度(1,800kg/m3)と非溶結部の平均密度(1,200kg/m3)から,非溶結としての層厚に換算した.得られた各地点の層厚データを元にクリギング法で内挿し,火砕流堆積物の層厚分布図を作成した.その結果,火砕流堆積物の最大層厚はカルデラ周辺ではなく,北北西42.5km(小国北西)付近,南南西33km(国見岳北部)付近,南東29km(高千穂渓谷)付近に,層厚60m以上の厚い領域が分布することが明らかになった.これらの領域は,比較的狭い峡谷部にあたる.カルデラ近傍ではなく,30〜40km離れた峡谷付近に60m以上の厚い堆積物が見られることは,乱流状態で流動層厚数100m以上の火砕流がカルデラ斜面を流れ下り,峡谷付近でその流域のすべての斜面に残された堆積物がより低い領域に集まり,厚い堆積物を形成したと考えるとうまく説明ができる.比較的谷が広い,東部や西部では堆積物の厚さは比較的薄くなっている.
構成物の粒径変化については,阿蘇4火砕流のうち,北西,北側から東側を経て南東側の主に阿蘇4A火砕流を対象とした.これまでに,55箇所の地点で,軽石と岩片の最大粒径を計測した.最大粒径は,露頭毎に軽石と岩片について,10個の長径と短径を測定し,最大と最小を除いた8試料の算術平均を,各地点での最大粒径とした(図).軽石の最大粒径は,カルデラ近傍ではなく,給源から25〜30km離れた地点付近で最大値(47.2cm,46.2cm)を示した.その後は,70km付近まで単調に減少し,160km離れた山口では,0.4〜0.9cmと非常に小さい値を示した.最大粒径は,堆積物の上下方向でも変化が認められ,基底部付近主体部に比べ小さい傾向があった.また,軽石濃集部はマッシブな部分より最大粒径が大きくなる傾向があった.溶結部と非溶結部では,流走距離ごとの軽石の最大粒径に大きな違いは見られない.給源から20kmまでに分布するラグブレッチャ相では,2.3〜5.3cmと比較的小さい値を示した.一方,岩片の最大粒径は,給源から10-15km付近のラグブレッチャ相で43cm, 45.6cmと最大を示した.その後,岩片の最大径は次第に減少し,117km離れた地点では0.3cmとかなり小さくなった.給源から南東11km付近の採石場では,層厚15mの阿蘇4火砕流堆積物の下部に,層厚8m以上のラグブレッチャ相が観察できた.ここでは,粒径変化から3枚のユニットに区分され基底は露出していない.構成物は,細粒物に乏しくやや円磨した多量の粗粒岩片(最大70cm)と少量の軽石を含む.ユニット内には,大きな岩片が,層厚20-50cm程度の間隔で横方向に並ぶなどの不明瞭な成層構造が発達する.
ラグブレッチャ相は,給源から約20kmまでに集中するが,これは噴煙柱が高速度で上昇し,周囲からの大気を十分に取り込めず,カルデラリムの外側付近で不安定になった噴煙柱の一部が崩壊し火砕流として流れ出した際に,まだ非常に乱流度が高い状態で,早期に離脱した比較的粗粒な岩片を含んだ相であると考えられる.細粒物が乏しいことは,堆積時の乱流度が高かったことを示唆する.岩片が円磨されていることは,ラグブレッチャ内の岩片が降下物ではなく,火砕流として流れ,相互作用を受け摩耗してから堆積したと考えることができる.ラグブレッチャ相に大きな岩石が並ぶ不明瞭な成層構造が存在することは,火砕流がフローユニット単位で一度に堆積(mass freezing)しているのではなく,乱流状態の火砕流基底部の境界層付近で,ある厚さの単位毎に,順次堆積していること(堆積サブユニット; DSU)を示唆している.岩片の並びは,火砕流基底部の比較的低速な境界層付近で,運び切れなくなった岩片が濃集し,基底部付近の速度勾配によって,粒子同士の摩擦や衝突などの相互作用が強まり,比較的大きい岩片が上部に集まって形成されたと考えられる.
軽石の最大粒径は,カルデラ北の小国町や東の竹田市付近で最大となっている.このことの理由として,地形障壁や火砕流流路の地形変換点などにより,斜面を流れ下ってきた火砕流が一時的に滞留し,そこで多量に粗粒な軽石を落とした可能性が高い(軽石や岩片の最大粒径と堆積物の層厚との相関について今後検討を行う予定である).軽石や岩片の最大粒径が流走距離に応じて順次小さくなることも,乱流状態の流れの基底部から運べなくなった軽石や岩片が,順次定置したことを示唆する.
本研究の成果は,原子力規制庁からの平成27年度及び28年度原子力施設等防災対策等委託費「火山影響評価に係わる技術的知見の整備」として実施したものである.
層厚の変化を明らかにするために,地質図幅,ボーリングデータ,各種文献データ,地形図からの読み取り等によって,3,596地点の層厚データを収集した.溶結した地点については,溶結部の平均密度(1,800kg/m3)と非溶結部の平均密度(1,200kg/m3)から,非溶結としての層厚に換算した.得られた各地点の層厚データを元にクリギング法で内挿し,火砕流堆積物の層厚分布図を作成した.その結果,火砕流堆積物の最大層厚はカルデラ周辺ではなく,北北西42.5km(小国北西)付近,南南西33km(国見岳北部)付近,南東29km(高千穂渓谷)付近に,層厚60m以上の厚い領域が分布することが明らかになった.これらの領域は,比較的狭い峡谷部にあたる.カルデラ近傍ではなく,30〜40km離れた峡谷付近に60m以上の厚い堆積物が見られることは,乱流状態で流動層厚数100m以上の火砕流がカルデラ斜面を流れ下り,峡谷付近でその流域のすべての斜面に残された堆積物がより低い領域に集まり,厚い堆積物を形成したと考えるとうまく説明ができる.比較的谷が広い,東部や西部では堆積物の厚さは比較的薄くなっている.
構成物の粒径変化については,阿蘇4火砕流のうち,北西,北側から東側を経て南東側の主に阿蘇4A火砕流を対象とした.これまでに,55箇所の地点で,軽石と岩片の最大粒径を計測した.最大粒径は,露頭毎に軽石と岩片について,10個の長径と短径を測定し,最大と最小を除いた8試料の算術平均を,各地点での最大粒径とした(図).軽石の最大粒径は,カルデラ近傍ではなく,給源から25〜30km離れた地点付近で最大値(47.2cm,46.2cm)を示した.その後は,70km付近まで単調に減少し,160km離れた山口では,0.4〜0.9cmと非常に小さい値を示した.最大粒径は,堆積物の上下方向でも変化が認められ,基底部付近主体部に比べ小さい傾向があった.また,軽石濃集部はマッシブな部分より最大粒径が大きくなる傾向があった.溶結部と非溶結部では,流走距離ごとの軽石の最大粒径に大きな違いは見られない.給源から20kmまでに分布するラグブレッチャ相では,2.3〜5.3cmと比較的小さい値を示した.一方,岩片の最大粒径は,給源から10-15km付近のラグブレッチャ相で43cm, 45.6cmと最大を示した.その後,岩片の最大径は次第に減少し,117km離れた地点では0.3cmとかなり小さくなった.給源から南東11km付近の採石場では,層厚15mの阿蘇4火砕流堆積物の下部に,層厚8m以上のラグブレッチャ相が観察できた.ここでは,粒径変化から3枚のユニットに区分され基底は露出していない.構成物は,細粒物に乏しくやや円磨した多量の粗粒岩片(最大70cm)と少量の軽石を含む.ユニット内には,大きな岩片が,層厚20-50cm程度の間隔で横方向に並ぶなどの不明瞭な成層構造が発達する.
ラグブレッチャ相は,給源から約20kmまでに集中するが,これは噴煙柱が高速度で上昇し,周囲からの大気を十分に取り込めず,カルデラリムの外側付近で不安定になった噴煙柱の一部が崩壊し火砕流として流れ出した際に,まだ非常に乱流度が高い状態で,早期に離脱した比較的粗粒な岩片を含んだ相であると考えられる.細粒物が乏しいことは,堆積時の乱流度が高かったことを示唆する.岩片が円磨されていることは,ラグブレッチャ内の岩片が降下物ではなく,火砕流として流れ,相互作用を受け摩耗してから堆積したと考えることができる.ラグブレッチャ相に大きな岩石が並ぶ不明瞭な成層構造が存在することは,火砕流がフローユニット単位で一度に堆積(mass freezing)しているのではなく,乱流状態の火砕流基底部の境界層付近で,ある厚さの単位毎に,順次堆積していること(堆積サブユニット; DSU)を示唆している.岩片の並びは,火砕流基底部の比較的低速な境界層付近で,運び切れなくなった岩片が濃集し,基底部付近の速度勾配によって,粒子同士の摩擦や衝突などの相互作用が強まり,比較的大きい岩片が上部に集まって形成されたと考えられる.
軽石の最大粒径は,カルデラ北の小国町や東の竹田市付近で最大となっている.このことの理由として,地形障壁や火砕流流路の地形変換点などにより,斜面を流れ下ってきた火砕流が一時的に滞留し,そこで多量に粗粒な軽石を落とした可能性が高い(軽石や岩片の最大粒径と堆積物の層厚との相関について今後検討を行う予定である).軽石や岩片の最大粒径が流走距離に応じて順次小さくなることも,乱流状態の流れの基底部から運べなくなった軽石や岩片が,順次定置したことを示唆する.
本研究の成果は,原子力規制庁からの平成27年度及び28年度原子力施設等防災対策等委託費「火山影響評価に係わる技術的知見の整備」として実施したものである.