JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[JJ]Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC50] [JJ] 火山・火成活動と長期予測

2017年5月20日(土) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[SVC50-P02] 富士山・剣丸尾第一溶岩流内の船津胎内樹型群から得られる知見

*本多 力1立原 弘1槇田 但人1 (1.火山洞窟学会)

キーワード:溶岩樹型、剣丸尾第一溶岩流、船津胎内

[はじめに]
船津胎内樹型群は剣丸尾第一溶岩流の中流部内に位置する国の天然記念物であり、日本洞窟学会小川孝徳を中心に周辺の測量と調査が実施され山梨県天然記念物緊急調査報告書1)としてまとめられた。その後NPO法人火山洞窟学会によって調査が継続され2)、山梨県記念物重要資料としての新たな樹型も発見されている2,3)。それらの調査の現状の結果から得られた火山学的知見を報告する。
[溶岩流停止厚さと溶岩降伏値]
船津胎内樹型群は多くの樹型を擁するが、Table.1に天然記念物と記念物重要資料として番号付けされている主な縦樹型のリストを示す。縦樹型の深さは2.1m~5.4mの範囲で存在しTable.2に示されるように4m~5m深さが最も多い。この地域の樹木の直径は最大1.9mで、樹木の長さとして21.1m以上が存在していた。縦樹型の深さが溶岩流の厚さHに対応すると考え、この地域の傾斜角度αがおおよそ8度であるので,ρ=2.5g/cm3,g=980cm/sec3とし、単純溶岩流(Simple flow)の溶岩流停止条件:H=fB/(ρg sinα)からビンガム降伏値fBを推定するとfB=6.9x104~1.9x105dyne/cm2が得られる。珪酸重量分率50.88%(津屋4))あるいは51.1%(高田ら5))の玄武岩溶岩としては妥当な値と考えられるが、少し高めであるのは温度が低下しているためと考えられる。山下ら6)が溶岩流末端部で得ている降伏値5.0x104~1.5x105dyne/cm2とほぼ一致する。したがって、剣丸尾第一溶岩流は単純溶岩流(Simple flow)7,8)と見なせると考えられる。
[胎内の肋骨状溶岩と表面張力値]
船津胎内樹型群には多くの複合樹型がみられその内部の再溶融9)によって形成された天井や壁面の溶岩鍾乳および肋骨状溶岩,樹木の木肌の鋳型など様々な胎内樹型現象を観察することができる。溶岩鍾乳や肋骨状溶岩のピッチから溶岩の表面張力を推定することができる10)。すなわち再溶融した液膜の安定性限界条件から、液膜の波動の固有ピッチP=2π(γ/gρ)1/2が得られる。ここでγは溶岩の表面張力、gは重力加速度、ρは溶岩の密度である。 したがって胎内樹型内部の天井からたれ下がる溶岩鍾乳や側壁の凹凸のピッチPを測ることにより溶岩の表面張力γ= P2 gρ/4π2を求めることが出来る。Fig.1に示す船津胎内から得られるピッチはおおよそP=3~4cmであり、表面張力としてγ=560~990 dyne/cmが得られる。表面張力としては妥当な値である。
[おわりに]
同様な調査検討は、剣丸尾第二溶岩流(珪酸重量分率51.2%5))内にある吉田胎内樹型群についても行なっており、溶岩降伏値、表面張力値についても、剣丸尾第一熔岩流とほぼ同様な結果が得られている。剣丸尾第一溶岩流、剣丸尾第二熔岩流は単純溶岩流(Simple flow)と考えられ、それに対し複合溶岩流(Compound flow)を示す青木ヶ原溶岩流と比べると、溶岩チューブ洞窟を作れるほどの厚さや流量はなかったと推察される。そのかわり多くの樹型が埋もれずに残されている。この地域には世界最大の複合溶岩樹型が存在している3)。引き続き、樹型群の全貌の解明、詳細な内部構造の観察と測を行ってゆく予定である。
参考文献:
1)山梨県天然記念物緊急調査委員会,溶岩洞穴・樹型等調査班,小川孝徳他:山梨県天然記念物緊急調査報告書(1996),山梨県教育委員会,p182-344
2)立原弘,槇田但人(1998):1997-1998年樹型年報,NPO法人火山洞窟学会
3)立原弘(2011):火山洞窟と溶岩樹型.ケイビングジャーナル,No.43,p15-17
4)津屋弘逵(1971):富士山の地形・地質.富士山総合学術調査報告書,富士急行,p71 
5)高田亮他(2016):富士火山地質図(第2版)説明書,産業技術総合研究所,地質調査総合センター
6)山下伸太郎他(2002):剣丸尾溶岩流の流下シミュレーション.地球惑星科学連合講演会,V032-P022
7)Walker,G.P.L.(1971):Compound and simple lava flows and flood basalts. Bull.Volcanol.35,p579-590
8)海野進(2007):富士山溶岩流の特性.富士火山,山梨県環境科学研究所,p269-283
9)本多力(1998):富士山溶岩樹型及びその内壁の再溶融(胎内)発生機構の物理・化学的考察.日本洞窟学会誌第23巻,p29-38
10)本多力(2015):溶岩チューブ洞窟と溶岩樹型の空洞内部に見る溶岩鍾乳と溶岩石筍から推定される溶岩の表面張力.地球惑星科学連合講演会,SVC46-07