JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG32] [JJ] 原子力と地球惑星科学

2017年5月23日(火) 13:45 〜 15:15 304 (国際会議場 3F)

コンビーナ:笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、佐藤 努(北海道大学工学研究院)、幡谷 竜太(一般財団法人 電力中央研究所)、座長:村上 裕晃(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)

13:45 〜 14:00

[HCG32-06] 地下水の地球化学分析と物質移行解析による断層の水理特性の把握

*岡嶋 純也1柏谷 公希1多田 洋平1小池 克明1 (1.京都大学)

キーワード:地下水、環境トレーサー、物質移行解析

高レベル放射性廃棄物の処分方法として,日本をはじめ世界各国で検討されている地層処分では,処分した廃棄物に含まれる放射性核種が地下水の作用で溶け出した場合でも,生物圏に影響を及ぼさないことが求められる.そのため,処分場周辺の地下水の流動状態を把握する必要があるが,その内部構造に応じて地下水流動のパスとしても,バリアとしても働く断層の水理特性の理解は十分でない.そこで本研究では,地下水のサンプリングおよび分析と既存資料から断層周辺における地下水の環境トレーサー濃度の空間分布や時間変化を把握し,三次元水理地質モデルを用いた地下水流動解析および物質移行解析の結果と比較することで,断層周辺の地下水流動状態および物質移行状態を推定した.
 本研究の対象地域は日本原子力研究開発機構(JAEA)瑞浪超深地層研究所の周辺地域である.研究所の地下坑道内には,北西—南東走向で深度500mに達する主立坑に沿ってほぼ鉛直傾斜の主立坑断層が分布しており,その両側に位置するボーリング孔5箇所,計12区間で地下水試料を採取した.主要溶存イオン,アルカリ度,水素・酸素同位体,六フッ化硫黄,トリチウムの5項目を分析し,JAEAにより公開されている過去の地下水の地球化学モニタリングデータ(齋ほか,2011;新宮ほか,2011;新宮ほか,2012;大森ほか,2013a;大森ほか,2013b;大森ほか,2014)と合わせて各種特性の空間分布や時間変化を把握した.また,研究所周辺を含む三次元水理地質モデルを作成し,まず広域での地下水流動解析を行った.得られた結果を境界条件として,断層周辺をマルチグリッド化したモデルを用いて地下水流動解析および物質移行解析を行い,分析で得られた実測値と比較した.
 分析の結果,カルシウムイオン,塩化物イオン,臭化物イオンの各濃度,水素・酸素同位体比,さらにトリチウム濃度について断層両側で空間分布の特徴が異なることが明らかとなった。上述のイオン濃度には高い相関が認められ,断層南西側でのみ時間とともに濃度が低下する傾向が見られた.断層周辺での立坑掘削の影響を考慮した塩化物イオンの物質移行解析の結果では,分析結果と同様に断層南西側でのみ濃度変化が見られた.地下水流動解析の結果でも断層両側で水頭差が確認されたため,主立坑断層は遮水性の構造であることが確かめられた.また,トリチウムを対象とした物質移行解析の結果からは,断層両側のダメージゾーンに沿った,トリチウムを含む若い地下水の流入が確認でき,その流速は断層南西側の方が大きいことが示唆された.これは分析の結果と一致しており,主立坑断層における地下水流れのパスとしての機能が明らかになった.
 今後は今回使用した以外の成分についても分析を実施するとともに,水—岩石反応を考慮し,断層周辺での水質の空間分布や時間変化を推定する予定である.
 本研究は経済産業省の委託事業「平成26年度放射性廃棄物重要基礎技術研究調査」の成果の一部である。ここに記して関係各位に感謝の意を表する。

引用文献
齋正貴・新宮信也・萩原大樹・水野崇(2011)超深地層研究所計画における地下水の地球化学に関する調査研究―瑞浪層群・土岐花崗岩の地下水の地球化学特性データ集―(2008年度),JAEA-Data/Code 2011-003.
新宮信也・齋正貴・萩原大樹・水野崇(2011)超深地層研究所計画における地下水の地球化学に関する調査研究―瑞浪層群・土岐花崗岩の地下水の地球化学特性データ集―(2009年度),JAEA-Data/Code 2011-004.
新宮信也・萩原大樹・増田薫・飯塚正俊・乾道春・水野崇(2012)超深地層研究所計画における地下水の地球化学に関する調査研究―瑞浪層群・土岐花崗岩の地下水の地球化学特性データ集―(2010年度),JAEA-Data/Code 2012-003.
大森一秋・新宮信也・萩原大樹・増田薫・飯塚正俊・乾道春・岩月輝希(2013)超深地層研究所計画における地下水の地球化学に関する調査研究―瑞浪層群・土岐花崗岩の地下水の地球化学特性データ集―(2011年度),JAEA-Data/Code 2013-001.
大森一秋・新宮信也・増田薫・青才大介・乾道春・岩月輝希(2013)超深地層研究所計画における地下水の地球化学に関する調査研究―瑞浪層群・土岐花崗岩の地下水の地球化学特性データ集―(2012年度),JAEA-Data/Code 2013-024.
大森一秋・長谷川隆・宗本隆志・増田薫・青才大介・乾道春・岩月輝希(2014)超深地層研究所計画における地下水の地球化学に関する調査研究―瑞浪層群・土岐花崗岩の地下水の地球化学特性データ集―(2013年度),JAEA-Data/Code 2014-019.