JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT25] [JJ] 地理情報システムと地図・空間表現

2017年5月20日(土) 10:45 〜 12:15 106 (国際会議場 1F)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、吉川 眞(大阪工業大学工学部)、鈴木 厚志(立正大学地球環境科学部)、座長:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、座長:王尾 和寿(筑波大学)

11:45 〜 12:00

[HTT25-11] 海辺空間の認知に関する研究~潮風と波に着目して~

*葉狩 義秀1田中 一成1吉川 眞1 (1.大阪工業大学大学院)

キーワード:海辺空間、可視化、空間技術情報

海岸の景観は、絵図や絵画,映画やドラマなどにおいて、重要な役割を果たしてきた。これらは、特別な季節や時刻を表現することができると同時に、ここでは視覚だけではなく、波の音や、そこから想像する潮の香りなどが重要な意味を持っている。景観デザインの理論や技術は、有限である景観資源を最大限生かすものといえる。さまざまな海を感じる要因を抽出し、海の感じやすさを定量的に評価することができれば、今後の臨海部の計画・デザインをする際の重要な指針とすることができる。ここでの方法論は海だけでなく、他の多くの景観要素に対しても応用することができる。
本研究では、波の音、船の汽笛、海風や潮の香りなど海辺の空間構成要素に着目し、前には見えない海辺空間を可視化する手法を確立するとともに新たな地域の特徴を探り設計開発する手法の提案を目指す.

 近年では沿岸部のウォーターフロント開発が進み、勉学、工業、観光など利用用途が増し、人々と海の関係はより深いものとなっている。都市開発には快適な空間が求められるが、快適の方向性にはさまざまな種類が存在しており、その中でも最も影響力があるのは、実空間で得ることのできる五感情報である。人々は、主に味覚を除く視覚、聴覚、触覚、嗅覚の感覚器官の情報をもとに空間認知をおこなう。この4つの感覚器官の中でも視覚、聴覚に関しては一般的に影響力が大きいとされている。一方で、触覚、嗅覚に関しては、視覚、聴覚に比べると一般的にその影響力は高くない。本研究では、海岸線付近の海辺空間において、「潮風」と「波」に着目して、目には見えない「潮風」に対する触覚や、「波」の音と香りを対象に空間情報技術を用いて表現する。これにより、従来にはない都市の魅力を見出すとともに、都市の開発と保全の品質向上を目指す。
研究の方法としては、気象庁の公開データである風速、風向、気温、湿度を用いて流体シミュレーションをおこない、対象空間の風の流れを詳細に把握する。これらのデータは対象空間の気象傾向を把握するために必要不可欠なデータであり、現象を説明するための十分なサンプル数が取得可能である。このデータをもとに風向、風速傾向から対象空間の特性を季節、時間帯で把握する。さらに、GISを用いて「音」、「香り」、「視覚的要素」を含んだ環境マップを作成し、都市空間を定量的に評価する。そして、海の認知に関係する環境要素を空間上に分類し、考察をおこなう。
 
人間は空間情報を眼や耳などの感覚器官を通して知覚空間を形成してゆく。本研究では知覚空間の把握として季節や時刻によって変化する風に着目し、地域の傾向に関する統計をもとに解析することで、日々変化する空間の表情と地域の特性を捉えた。次に、オープンソースであるOpen Foamを用いた流体解析をにより、風の可視化をおこなった。これにより風のたまり場を捉えたことで空気の換気機能に問題のある空間を把握した。

また、知覚空間が記憶され,認知空間が構築される。すなわち,知覚空間と認知空間は、互いに独立なものでなく、認知空間は,知覚空間を写像したものと考えることができる。そこで、知覚空間を特定の指標を用いて、人間がどのように空間を認知するかを把握るために空間の評価をおこなう。評価として、六段階臭気強度表示法による香りの評価、不快指数による体感温度の評価、景観指標を用いた視覚評価をおこなった。これにより海を感じる空間が海岸線からどこまで広がっているのかを分析した。さらに、上記の結果を踏まえ海の感じ方をパターン的に捉えるためにクラスター分析をおこった。この結果、海の感じ方が変化する空間を距離で分類した。

 本研究では、五感情報に着目し目には見えない風や潮の香りを可視化し、これをもとに空間の分類をおこなった。 本研究の手法を応用し、内陸部の都市においても風や香りの分析手法として用いることが今後の課題となる。