09:30 〜 09:45
[MGI30-03] 地質情報を考慮した地球統計学による鉱石品位モデリング精度の向上
キーワード:主成分分析、クリギング、黒鉱、地質モデル、鉱液パス
地球科学データの多くは測点,あるいは測線で得られた離散的な配置であり,それから値やカテゴリーの3次元的な分布を推定することが不可欠である。これに,データ間の空間的相関構造に基づく手法である地球統計学(Geostatistics)が地球科学に限らず,農学,社会学など,種々の分野に広く適用されている。なかでも地質データは同じ地点で複数のデータが得られ,多変量である場合が多いので,多変量地球統計学の適用例も多い。これは距離の関数であるデータ間の相関性を利用し,各データに最適な重み係数を与え,それを加重するというクリギングで空間推定を行う。この相関性は強弱はデータ種類の組合せとともに,地質によっても異なる。すなわち,データの組合せを固定した場合,ある地質では相関性が強いが,別な地質では相関性が弱いという現象は一般的である。多変量地球統計学ではデータ間の空間的相関構造を,クロスバリオグラムという距離に伴うデータ変化の統計量で表すが,ここに非数値情報である地質(岩石や地層の種類など)を考慮することは難しい。
そこで,本研究では主成分分析(PCA)により,非数値型データへの数値型データの依存性を組み込むとともに,データの直交化(無相関化)によってクロスバリオグラムを必要とせず,バリオグラムの作成のみでクリギング計算を可能にするという計算精度の向上,および簡略化を図ることを試みた。そのケーススタディの対象として鉱床での金属濃度(品位)の空間分布推定を選んだ。品位の高精度推定は資源量と鉱体形状の把握のために不可欠であり,同じタイプの鉱床の探査に貢献できる。解析には,秋田県北鹿地域での大規模な黒鉱鉱床である松峰鉱床と深沢鉱床での垂直,あるいはそれに近い調査ボーリングデータを用いた。黒鉱とはCu,Zn,Pbに富んだ緻密な鉱石で,火山性塊状硫化物(VMS)の一種である。鉱床の形成は,海底火山活動に起因した鉱液が海水との混合によって冷却され,金属が沈殿したことによる(山田・吉田, 2013など)。
ボーリング数は松峰で77本,深沢で58本であり,対象領域の大きさは水平方向に松峰:420 m×940 m・深沢:1100 m×2400 m,垂直方向に松峰:390 m・深沢450 mにわたり,領域を格子で区切った。地質柱状図から主要地質タイプを選び,各ボーリングデータで相当する地質タイプには1,それ以外は0を与えるというバイナリーセットを作成し,これと主要金属濃度を組み合わせて主成分分析を行った。得られた主成分値に対してクリギング計算,さらにその逆解析によって,地質タイプと金属濃度,および金属ペアの相関性をすべて含んだ金属品位の3次元分布の推定が可能になった。その手法をPCA-kriging(PCAK)と称し,通常クリギング(OK)と共クリギング(CK)による推定分布と比較した。対象金属はCu,Zn,Pbで,深沢鉱床ではこれにAuとAgを加えた。
解析の結果,両鉱床ともにOKとPCAKに比べて,いずれの金属もCKでは濃度分布が詳細になるが,データ地点での推定値と実測値との差が大きいこと,これに対してOKとPCAKによる空間分布は類似しているが,OKよりもPCAKの方が平滑化効果が小さく,濃度変化は大きいことがわかった。特に高濃度部での平滑化効果が改善され,実測値に近づいた。これは鉱量計算に影響し,OKとPCAKではCuとPbで倍近く,Znでは10倍近くの差が鉱量に現れた。また,PCAKによれば地質分布も同時に推定でき,従来の知見と調和する地質モデルが得られた。さらに,地質モデルと高濃度部との重ね合わせは熱水パスの検出に役立つことも明らかになり,これは鉱床の形成プロセスの解釈に有用である。
謝辞:貴重なボーリング調査資料のご提供と整理にご協力いただいたDOWAメタルマイン(株),エコシステム花岡(株)に深甚の謝意を表したい。
文 献
山田亮一・吉田武義 (2013) 北鹿地域における黒鉱鉱床と背弧海盆火山活動, 地質学雑誌, v. 119 補遺, p. 168-179.
そこで,本研究では主成分分析(PCA)により,非数値型データへの数値型データの依存性を組み込むとともに,データの直交化(無相関化)によってクロスバリオグラムを必要とせず,バリオグラムの作成のみでクリギング計算を可能にするという計算精度の向上,および簡略化を図ることを試みた。そのケーススタディの対象として鉱床での金属濃度(品位)の空間分布推定を選んだ。品位の高精度推定は資源量と鉱体形状の把握のために不可欠であり,同じタイプの鉱床の探査に貢献できる。解析には,秋田県北鹿地域での大規模な黒鉱鉱床である松峰鉱床と深沢鉱床での垂直,あるいはそれに近い調査ボーリングデータを用いた。黒鉱とはCu,Zn,Pbに富んだ緻密な鉱石で,火山性塊状硫化物(VMS)の一種である。鉱床の形成は,海底火山活動に起因した鉱液が海水との混合によって冷却され,金属が沈殿したことによる(山田・吉田, 2013など)。
ボーリング数は松峰で77本,深沢で58本であり,対象領域の大きさは水平方向に松峰:420 m×940 m・深沢:1100 m×2400 m,垂直方向に松峰:390 m・深沢450 mにわたり,領域を格子で区切った。地質柱状図から主要地質タイプを選び,各ボーリングデータで相当する地質タイプには1,それ以外は0を与えるというバイナリーセットを作成し,これと主要金属濃度を組み合わせて主成分分析を行った。得られた主成分値に対してクリギング計算,さらにその逆解析によって,地質タイプと金属濃度,および金属ペアの相関性をすべて含んだ金属品位の3次元分布の推定が可能になった。その手法をPCA-kriging(PCAK)と称し,通常クリギング(OK)と共クリギング(CK)による推定分布と比較した。対象金属はCu,Zn,Pbで,深沢鉱床ではこれにAuとAgを加えた。
解析の結果,両鉱床ともにOKとPCAKに比べて,いずれの金属もCKでは濃度分布が詳細になるが,データ地点での推定値と実測値との差が大きいこと,これに対してOKとPCAKによる空間分布は類似しているが,OKよりもPCAKの方が平滑化効果が小さく,濃度変化は大きいことがわかった。特に高濃度部での平滑化効果が改善され,実測値に近づいた。これは鉱量計算に影響し,OKとPCAKではCuとPbで倍近く,Znでは10倍近くの差が鉱量に現れた。また,PCAKによれば地質分布も同時に推定でき,従来の知見と調和する地質モデルが得られた。さらに,地質モデルと高濃度部との重ね合わせは熱水パスの検出に役立つことも明らかになり,これは鉱床の形成プロセスの解釈に有用である。
謝辞:貴重なボーリング調査資料のご提供と整理にご協力いただいたDOWAメタルマイン(株),エコシステム花岡(株)に深甚の謝意を表したい。
文 献
山田亮一・吉田武義 (2013) 北鹿地域における黒鉱鉱床と背弧海盆火山活動, 地質学雑誌, v. 119 補遺, p. 168-179.