JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EE] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS06] [EE] アジア・モンスーンの進化と変動、新生代寒冷化との関係

2017年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:多田 隆治(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、Christian Betzler(University of Hamburg)、Peter Dominic Clift(Louisiana State University)

[MIS06-P07] Reconstruction of marine organic carbon content in the Japan Sea sediments from Br variability measured by XRF core scanner

*関 有沙1多田 隆治1黒川 駿介1三武 司1村山 雅史2 (1.東京大学大学院理学系研究科、2.高知大学農林海洋科学部)

キーワード:XRF core scanner, the Japan Sea, the Quaternary, marine organic matter, bromine (Br), IODP Exp. 346

日本海第四紀半遠洋性堆積物は特徴的な明暗の互層を持ち、その変動はダンスガード-オシュガー・サイクルと同期していることが知られている(Tada et al., 1999)。主に過去20万年間を対象とした研究から、暗色層は明色層に比べて有機物に富むことが知られており、有機物が堆積物の色を暗くする主要因であることが示されている(Tada et al., 1999; 中嶋他,1998)。また、堆積物中の有機物量は日本海内の生物生産や酸化還元状態を反映していることから、東アジア夏季モンスーンによる降水量の変動が有機物含有量の制御要因となっている可能性も示唆されている(Tada et al., 1999; 多田、2012)。従って、さらに過去に遡って日本海堆積物中の有機物量の変動を調べることで、アジアモンスーンの変動を含めたより広域的な気候変動の手がかりを得られることが期待される。
2013年夏に行われたIODP Exp. 346 Asian Monsoonでは、日本海内の複数地点において第四紀の日本海半遠洋性堆積物が連続的に得られ、少なくとも過去約150万年間について明暗互層が存在することが確認された(Tada et al., 2015)。この明暗互層の有機物量、特に海洋起源有機物量を復元することで、過去の日本海の海洋変動を明らかにすることが期待されるが、過去150万年間の暗色層は数百枚におよび、通常の分析手法で有機物量を復元するのには膨大な時間を要する。
そこで本研究では、堆積物中の臭素量を用いて海洋起源有機物量を推定することを試みた。臭素は海洋プランクトン中に高濃度で取り込まれるため(Masuzawa et al., 1988)、海洋堆積物中の有機炭素量とBr濃度は相関を持つことが知られている(Ziegler et al., 2008)。さらに、陸源有機物中のBr濃度は海洋起源の有機物に対して低いため(Berg and Solomon, 2016)、Brが海洋起源の有機炭素(MOC: Marine Organic Carbon)の指標となる可能性が示唆されている(Ziegler et al., 2008)。しかし、この仮説は十分に検討されていない。
本研究では、IODP Exp. 346で採取されたSite U1424とSite U1425のコアを対象に、全有機炭素量と炭素同位体比を測定した。炭素同位体比が陸起源と海起源の有機物の割合によって変化することを利用し、測定された炭素同位体比と全有機炭素量からMOC量を計算した。また、高知大学のXRFコアスキャナー(ITRAX)を用いて堆積物中の臭素濃度を測定した。
その結果、同一層準で得られたMOC量と臭素濃度は良い相関を示した。従って、日本海半遠洋性堆積物においては、臭素がMOCの指標として使用できると考えられる。
XRFコアスキャナーを用いて約50年間隔で連続的に測定された堆積物中の臭素は、中国で得られた鍾乳石の酸素同位体比記録(Cheng et al., 2016)と最終氷期においてよく似た変動を示していた。従って、臭素濃度を用いた日本海堆積物中のMOC量推定は、東アジア夏季モンスーンの変動をさらに過去に遡って考察する際に有用な手がかりとなることが期待される。