JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS13] [JJ] 山岳地域の自然環境変動

2017年5月24日(水) 15:30 〜 17:00 コンベンションホールB (国際会議場 2F)

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学理学部)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(信州大学理学部)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科)、座長:鈴木 啓助(信州大学)

16:45 〜 17:00

[MIS13-06] 蔵王火山亜高山帯のオオシラビソ林における積雪グライド量の観測

*佐々木 明彦1鈴木 啓助1 (1.信州大学理学部)

キーワード:積雪グライド、積雪深、積雪水量、オオシラビソ、亜高山帯、蔵王火山

多雪地域の斜面で発生する積雪のクリープやグライドは,積雪層の緩慢な動きではあるものの,積雪層の沈降圧と移動圧の合力として大きな雪圧を斜面にかけるので,積雪期間を通じて樹木にストレスを与え続ける。多雪山地でみられる樹木の根曲がりはその典型例である。積雪グライドは,植林の雪害の克服のため,あるいは,雪崩の発生の前兆であることから防災の面でも着目され,移動量の観測を中心にその運動メカニズムの解明がなされてきた。ところで,斜面の雪圧は積雪水量が最大になるときに最大値を記録し,森林帯における積雪水量は標高に比例して増加する。したがって,日本の多雪山地においては,亜高山帯における雪圧がもっとも大きいと考えられるが同地域における積雪グライドの観測例はほとんどない。そこで,東北日本の蔵王火山の亜高山帯(標高1400m;38°07′5.8″N,140°25′50.4″E)において積雪グライドの観測を実施したので報告する。
積雪グライドは一般的なソリ式によって観測された。最大厚2.5cmの小型のソリを地面に設置し,ワイヤーに繋いだ。積雪層がソリを引きずって滑動すれば,ワイヤーが引き出されるため,その引き出される量を1時間間隔で計測した。観測は,オオシラビソ林内と林外において2014年11月1日に開始し,2015年5月10日に終了した。積雪グライドの発生機構を検討するために,気温および積雪深を1時間間隔で観測し,積雪断面観測を積雪期間内に4回実施した。
積雪期間は2014年11月13日~2015年4月21日である。1月初旬には積雪深が150cmを超え, 2月1日に最大積雪深242 cmを記録した。3月16日の降雪を最後に積雪深は5cm~10cm/日の割合で減少した。この間の積雪水量の最大値は,3月21日の観測による856.8mmである。積雪期間の平均気温は-3.7℃で,12月1日~2月21日はほぼ氷点下で推移した。日最低気温は-19.5℃,日最高気温は21.9℃であった。積雪グライドは,林内では2月21日に初めて生じた。以後3月5日まで断続的に滑動し,累積グライド量は1.5 cmとなった。3月5日~25日には滑動はほとんどみられず,3月26日~4月1日に1.0cm 滑動して累積グライド量は2.6cmとなった。林外では,2月10日に初めて動き,2月14日に0.9cm/日,2月20日に1.3cm/日,2月24日に1.4cm/日と加速した後に速度が弱まり,3月16日に1.9cm/日滑動を最後に動きは収束した。累積グライド量は21.1cmであり,日平均で0.4cmの移動量であった。今回オオシラビソ林内で観測された積雪グライドは,非常に小さな動きであり,雪崩の前兆となったり地形を変えるようなインパクトはもっていない。しかし,亜高山帯の植生分布やその動態を考える上で非常に重要な現象であると考えられる。