JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS14] [JJ] ジオパーク

2017年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 A01 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:藁谷 哲也(日本大学大学院理工学研究科)、平松 良浩(金沢大学理工研究域自然システム学系)、松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、尾方 隆幸(琉球大学島嶼防災研究センター)、座長:平松 良浩(金沢大学理工研究域自然システム学系)、座長:尾方 隆幸(琉球大学島嶼防災研究センター)

13:45 〜 14:00

[MIS14-07] ジオパーク組織を活用した2016年新潟県糸魚川市駅北大火の被害調査活動

*小河原 孝彦1竹之内 耕1宮島 宏1茨木 洋介1内山 俊洋2山本 五一3久保 雄4 (1.フォッサマグナミュージアム、2.糸魚川市ジオパーク推進室、3.糸魚川ジオパーク観光ガイドの会、4.フォッサマグナミュージアム友の会)

キーワード:糸魚川市、大火、フェーン現象、被害調査、自然災害、糸魚川ユネスコ世界ジオパーク

2016(平成28)年12月22日(木曜日)午前10時20分頃に、糸魚川駅北口のラーメン店の大型コンロの消忘れにより出火した火災は、南風にあおられ延焼し、糸魚川市内では1954(昭和29)年以来の大火「糸魚川市駅北大火(暫定呼称)」となった。糸魚川市消防本部を含め近隣市町村から43隊が出動し、消火活動を行ったが、強風にあおられた火災は飛び火により広範囲に延焼した。火災が延焼の危険のなくなる鎮圧状態となったのは午後8時50分であり、その後も消火活動は続けられ、鎮火した時間は翌日の午後4時30分であった。火災による負傷者は中傷・軽傷17名であり、地域住民や警察の援護活動もあり死者は出なかった。建築物の被害は、1650年創業で県内最古の酒蔵である加賀の井酒造をはじめ、割烹「鶴来家」や、平安堂旅館など焼損棟数147棟(全焼120棟、半焼5棟、部分焼22棟)に上った。焼失面積は約40,000㎡と日本国内では過去20年で最大の大火となった(図1)。

糸魚川駅の北側に広がる市街地域は、大火が多い地域である。1730年から2016年までに29回の大火を経験している(糸魚川市史)。強い南風の場合は、南北方向に延焼(昭和3年大火、今回の大火)する。火災の発生した12月22日は、夜半よりだし風「蓮華おろし」(フェーン現象) による乾燥した強い南風が卓越していた。火災の進展はこの風向きにほぼ沿った形で進んでおり、この強い南風が原因で延焼が広がったと考えられる。

糸魚川市は2009年に日本で初めて世界ジオパークに認定された地域の一つであり、以前から気候・風土と地質・地形を一連のジオストーリとして内外に対して説明してきた。そのため、今回の火災は、西頸城山地や北アルプスの山脈と糸魚川-静岡構造線の谷地形によって発生した南風「蓮華おろし」によって被害が拡大したジオ的要因が絡んだ災害であったと、いち早く対外的に説明することができた。今回、初めて強風による大火に対して被災者生活再建支援法が適応されたことは、ジオパーク活動を通じて、気象条件と地形・地質を関連づけた説明が浸透しており、糸魚川に吹く「蓮華おろし」が糸魚川の地形・地質と密接に関係している風害であることを政府に対してアピールできたことが大きい。

 大火の被害調査についても、既存のジオパーク組織を活用して対応にあたった。今回の大火の特徴は、最大瞬間風速27.2m/sを記録した、強風によって広範囲に飛び火したことが上げられる。火元は時間経過と共に増加し、火災当日の正午の時点で、少なくとも3か所以上で延焼していたことが確認されている。そのため、大火の被害調査にあたっては、何時にどの場所で延焼や飛び火による火災が発生していたかについて、詳細に検討する必要がある。糸魚川市消防本部においても、出動した消防職員に対して聞き取り調査を行っているが、飛び火で遠方に延焼した場合は、近くで消防職員が活動していないことも多く不明な場合もある。よって、火災現場付近の銀行や商店、民家などの多数の関係者に火事の状況を聞き取り調査することが重要となる。

今回の被害調査では、消防関係者への聞き取りだけではなく、既存の糸魚川ジオパーク協議会の構成メンバーである糸魚川ジオパーク観光ガイドの会・フォッサマグナミュージアム友の会の有志に調査員として協力をお願いした。これは、被害調査には科学的な観点が必要であること、ガイドの会・友の会の人間関係を利用して、火災現場の多数の関係者に対して聞き取り調査ができることによる。調査は2017年2月初旬から、調査員が対面で関係者に聞き取りを行いながら、飛び火により延焼した場所と時間、当時の状況を匿名のアンケート形式で実施し、とりまとめはフォッサマグナミュージアムで行った(図2)。

その結果、大火当日の飛び火と延焼の状況がより詳細に明らかとなった。火災発生から1時間後には、最初の発生現場から数百メートル離れた建物に飛び火によって延焼しており、強風の場合の消火の難しさを改めて示す結果となった。また、家屋の窓ガラスが割れて内部に着火し炎上したとの情報や、燃えた木材が屋根瓦の隙間に入り炎上したとの情報も寄せられた。

これらのアンケート結果を詳細に検討することで、飛び火や延焼の状況について解明できると期待される。今回の調査で得られた知見はジオパークネットワーク内で共有し、防災・減災に役立てていきたい。